第56話 規制解除
前半は会話多し。
兵と兵の隙間を見つけては瞬時に移動。それを繰り返しながら奴がいる天幕に向かう途中でふと気付く。
「(装備がチグハグだな)」
目標に近付くにつれ、すれ違う兵の防具が貧弱になっていた。
「(それは致し方ないかと)」
「(何故?)」
「(今代の王はおバカさんなのでしょう)」
兵は確保できても装備が揃えられない。多分食わせるのにも苦労しているだろうと。
それを聞いて腑に落ちた。
「(こいつらは「足軽」と同じか)」
日本にいたころを思い出し呟いてしまう。
アラナート王国は一兵卒に至るまで統一された装備を身に付けていたがコイツらはバラバラ。金属を使った者も疎らで大抵の奴らは木片をかき集めて束ねただけの胸当て程度の装備。
これは恐らく「屯田」を採用しているからだろう。
つまり兵を満足に食わせるだけの資金がないのだ。
資金が無ければ武具も買えない。
だが戦うには武器は最低限必要。
なので武器だけは軍が用意するが防具の類は自分で揃えろと。
その武器も売却されたり反乱に使われる恐れがあるので有事の際に引き渡す。
足軽も普段は開発地の開墾や土木工事、さらには田畑の生産に従事。戦になったら駆り出される点は同じ。
その際、領主から武器は支給されるが防具は(資金に余裕のない大名配下の場合は)自前で用意するのが当たり前。なので末端の兵である足軽の装備は貧弱なものが多かった。
「(アシガル?)」
「(いやなんでもない)」
先程撃退した兵や橋の手前にいる奴らと比べたら雲泥の差。
……コイツらも被害者なのかも。
心情的な迷いが生じる。
日本にいたころ足軽達には大変世話になった。そんな奴らを斬って良いものかと。
……アイツらならどうする?
エルアノームなら『国に害となるなら躊躇わず』と言うだろうし、シーラも『邪魔になる前に排除しましょう』と言いそう。
……育った世界が違い過ぎるのか、参考にならん。
ならエステリーナなら?
……うん、そうだな。こいつらは極力斬らずに済ませようか。
にしてもおかしい。
戦場でも重要人物の周辺の警備はガチガチに固めるのが定石なのだが、進むにつれ軽装の兵が多くなっていく。
……罠、ではないよな。
気配ではそれらしい動きは見られない。
……それにしても人が多い!
人垣で形作られた不定形な迷路。数mも進まずに進路変更の連続。その為、盆地の中央=敵陣の北側の中央への移動を余儀なくされている。
気配探知も併用、さらに「行き止まり」も無かったので着実に近づいてはいるが、予想外に手間取っていたのでもどかしさが増してゆく。
「(ところでこの暗君に子は?)」
気を紛らわそうと聞いてみる。
「(確か第一妃との間に長男、第二妃との間に次男と長女が一人ずつ?)」
何故疑問形?
「(パルミラル王国は今代とは接点は無いので)」
他国の情報は訪れたアラナート王国の行商人か、又は大使であるミランダらから得るしかない。
因みに北側を流れる大河の先は二国あり、その内の一つである「公国」とは僅かではあるが交流しているとのこと。
「(交流?)」
そういえば以前聞いたような。
「(はい。基本的には要請があった時のみですが)」
「(要請?)」
「(決められた手段で連絡を取り合い、合意に至った場合は【大公】とその関係者が我が国側の岸辺まで舟で来られます)」
大公?
「(公国を束ねられておられる方です。その方とヤーム陛下が直接会われ、その場で「ある取引き」を行います)」
なんだろう、取引って?
「(この事実は奥様を含めたアラナート王国の上層部も承知しております。ただ公にはされておりませんので口外はお控え下さい)」
公式にはパルミラル王国と取引があるのはアラナート王国のみで、民間組織である各ギルドでさえ、パルミラル王国と取引をしたければアラナート王の許可を取らなければならない。さらに許可が下りても直接の取引きは禁止されているのでアラナート王国に代行を頼むことになる。
そんな決まり事があるのに直接やり取りをしている。
その事実を他国に知られたら、公国に迷惑が掛かり、取引き中止どころでは済まなくなる。そうなると両国だけでなく、アラナート王国にも不利益となるそうだ。
「(ん? 公国に迷惑が掛かる? うちが不利益を被る?)」
「(表向きはアラナート王国を「友好国」と正式に認めているのはパルミラル王国のみ。逆もしかり。そして非公式ではありますが、両国を「友好国」と認めているのはかの国のみ。つまり公国はアラナート王国にとって唯一の人族友好国家となります)」
バレた場合の不利益。
アラナート王国は友好国が減る。
公国は国際的な立場が悪くなる。
ではアラナート王国との取引きのみで事足りるパルミラル王国のデメリットは?
「(取引きの内容はわたくしの口からは言えません。奥様かエルアノーム陛下、又は姫様にお聞きを)」
聞いたが答えたくないらしい。
まあ三国とも平等な立場かどうかは別として何かしらの利益を得ているようだし、良好な関係を築けている。
俺はその状態を尊重したい。
「(国名は【ベルカノン公国】と言い、国土の広さは我が国の約半分ほどと小国の部類に入ります。公王ご夫妻とアラナート先々王とは旧知の仲でしたので、後に行われる「式」には間違いなく来られるので名くらいは覚えておいてください)」
「(どんな奴なんだ?)」
「(わたくしはお会いしたことがありませんが、知っている者の大半は「世渡り上手で掴みどころがない人物」との評判を口にします。詳しくは奥様かエンリケ様にお聞きを)」
リナとエンリケ? 何故?
「(奥様が王を継がれる前の冒険者時代に、お二人は公国に渡って剣の修業をなされたそうです。その時、公私ともに面倒を見られたのが公王だと)」
へ──。
次期国王が護衛一人だけを伴って向かった国。余程の信頼関係が無ければ成り立つまい。
「(……強いのかそいつ)」
「(往来はパルミラル王国を使われたので、都度晩餐会の席が設けられました。その席で奥様とエンリケ様は『二人掛かりでも掠りもしなかった』と悔しそうに口を揃えて話されていたそうです)」
「(もしかして序列はリナより上?)」
「冒険者ランクの? いえ違います)」
公王は登録していないそうだ。
ほう、ギルドに所属していない者にも強者がいるのか。それは是非とも会ってみたい。そう思ったところ後方から閃光と衝撃に見舞われる。
何事かと振り向いたところ、関所がある方向に真っ赤な炎とその炎に照らされた真っ黒な煙が立ち上っているのが目に入った。
「(破られたようです)」
先程いた体長15mほどありそうな四足歩行の恐竜型魔獣の姿が見当たらない。
「(自爆?)」
「(ですね)」
俺が修復した壁は跡形もなく吹き飛んでいた。
不味いな、先を急がねば。そう思ったところ、
「旦那様、囲まれております」
自ら背からおり声に出す。
「今のでバレたか、または罠か」
「両方では?」
周囲が真っ赤に染まったのに一箇所だけ真っ黒。背を向けていたのもマイナスに働いた。
ただその割には周囲の兵らは俺達に無関心、というか目に入っていないような素振りで、関所の有様に歓声を上げている。
そんな状況なのでコイツらの異様さが余計に目立つ。
「アレは……」
直線の20m先と背後20mに一人ずつ。場違いな平服を着た男が武器も持たず、瞬きもせずにコチラを見ている。
「何だコイツら」
気配は人そのもの。ただし感情が一切感じられない。
「旦那様、アレは魔族です」
俺の背後で背を向け、後方に注意を向けているルーシアからの忠告。
当然、背合わせでの会話。
「コレがか?」
「第三階位かと」
リナが出会ったというやつか?
「後ろはお任せを」
籠手を取り出し手際良く装着。
「いいのか?」
「アレなら問題ありません」
頼もしい返事を聞いたところで愛刀を取り出し腰に刺す。
それから徐に柄に手を添え一言。
「なら任せる。ただ無理はするなよ」
「フフフ」
同時にその場から離れ一気に間合いを詰め……頭から一刀両断。
「な?」
抵抗する素振りも見せずに斬られた。断面から黒いモヤを上げ左右に分かれて肉片に成り果てた。
あまりにも呆気ない結果。
ルーシアを見ると……難なく終えたようで男の腹に大きく空いた穴からも黒いモヤが立ち昇っていた。
「「「て、敵だ‼︎」」」
周りから声が上がる。見れば今まで俺達に無関心であった兵らが目の色変えて俺達に剣やら槍を向けていた。
「やっちまえ!」
「逃すな!」
「殺せ!」
「コッチにはエルフがいるぞ!」
「売れば一生遊んで暮らせるぜ!」
「ソイツは俺のもんだ!」
「うるせ! 早い者勝ちだ!」
一瞬で囲まれ分断される。
……不味い!
刀を振るおうとしたその時、視線の先の上方へ複数の男が悲鳴と血吹雪を上げながら四方へ飛び散っていく。
「ルーシア‼︎」
無事か?
無意識のうちに手と身体が動く。目で捉えた者一人一人を斬撃も織り交ぜるながら斬り刻む。
カチン。
鞘に戻した音を合図に人垣が一斉に崩壊。ルーシアまでの道が開けた。
新しく人垣の前となった兵らが呆けている間にルーシアの下へ。
……無事か? ん? 様子がおかしい?
ルーシアを中心に円形に空いた空間が出来ていた。その空間の地面には各パーツが分かる程度にミンチとなった肉塊が散乱していた。
こちらの兵も何が起きたか理解が追いつかないようで、時が止まったかのように動くものは皆無であった。
そして中心には「ファイティングポーズ」をとったまま動かずにいるルーシア? が。
……ルーシア、だよな?
疑ってしまったのには訳があった。
容姿が若干、いや二つほど見慣れぬモノが付いていたのだ。
彼女は俺に気付いたらしく顔を向けてくる。そこで目が合うとやっとポーズを解きとても綺麗な笑顔でこう言った。
「あらあら~とうとう見られちゃいましたね~」
若干頬を赤らめながら照れている。
口調も下町の娘風に変わっていた。
「……それは?」
「これですか~? これは~「加護の影響」で~気分が高まると~こうなってしまうのですぅ~」
頭と尻を手で隠しながら答えた。
「…………」
「お気に~召しません~?」
「……いやとても美しい」
無意識のうちに本音が出てしまった。
*暗君→愚かな王




