学園都市のちょっとした騒ぎ
重火器系ツールによる、武装襲撃事件の乱発が落ち着きを見せた頃。
「…………zzz」
「アサヒちゃん、ホントよく寝ますね。寝過ぎな気がしますけど、大丈夫なんですか?」
「大丈夫。平均よりも睡眠時間が長い、特異体質みたいな物だってさ」
「そんな事、あるんれしゅね」
「まあ病気じゃないなら、気にすることもないか」
学園都市の住民は基本学生であり、中等部以上は基礎科目の履修は義務付けられている。
その為、活動が午前だったり午後だったりと、生活サイクルに差は存在する。
初等部は勿論、基本カリキュラムが定められており、特別な例外を除いて午前は初等部校舎で授業。
「自宅学習プログラムもあるから、研究職や不登校生、長期入院でも大丈夫ってね。飛び級制度もあって、アサヒはもう初等部3年のカリキュラムは終わってるし、最近はDIE専攻学に興味持って基礎を勉強してる」
「それはすごいな」
「裕香も姉として負けられないって、最近は色んな事を頑張ってるんだよ。それでつぐみ、みなも、ちょっと……ん?」
場所は屋台通り、午前の搬入時間。
屋台通りの仕入れは、フォーゼル商会から卸される品あるいは其々のルートにしたがって、搬入される。
あるいは学園都市の外から搬入された品の、朝市で行われる競売もある等、それらでも学生の競争は行われる。
「なんだ、高級品でもしいれ……」
「……は?」
「……えっと?」
「ほえ?」
「…………zzz……ん?」
そんな屋台通りの中央広場に、人だかり。
普段なら、裕樹と龍星の組手等で観客なり商売なりで賑わう、ある種のメインステージ。
そのど真ん中に……
「……なに、これ?」
「…………タンス」
「うんアサヒ、それはわかってる。疑問なのは、何でこんなところにあるのかと……」
「おっ、大きしゅぎませんか?」
「4mくらいあるぞこれ!?」
ドンと置かれてるのは、タンス。
それも人が見上げる大きさのそれが、存在を主張していた。
「ああっ、すいません。ちょっと通してください、すいません!」
そこへ割り込むように、いかにも研究者という風体の学生が数名。
大型のバッテリーと思わしき機材を引いたバイクと共に、巨大タンスを囲い始めた。
「おい、これお前らが?」
「すいません。ここでバッテリーが切れてしまって、すぐ充電して移動しますので、お騒がせして申し訳ありません」
充電? 起動?
どう考えても辻褄が合わない単語に、全員が首をかしげた。
「まさか……お前ら、プロジェクト・ミミックのメンバー、とか?」
「え? はい、そうです。よくわかりましたね」
「……間違ってほしかった」
覚えがあるらしい裕樹の表情は、苦虫を噛み潰した表情だった。
「プロジェクト・ミミック?」
「学園都市ロボット開発計画の一旦、DIEシステムの電子ツール技術を応用した変形、合体機構研究の一分野で、身近なものに擬態した警備ロボットの開発って聞いた事ある」
「待ってください! これまさか……」
「ええ、その変形機構を試験搭載した、プロトタイプです」
……その瞬間、屋台通りの時が数秒吹き飛んだ。
「…………カッコ、わるい」
アサヒのその一言で、屋台通りにいる全男子生徒の中で、なにかが壊れる音が響いた。
「まだ試作段階で、予算の都合上大掛かりな物に出来ないので」
「いや、十分資源の無駄遣いじゃねーか。大体タンスはねーだろ、タンスは」
「これが、変形するのか……?」
「……どう考えても、カッコ悪い」
「タンしゅがいきなり変形って……心臓に悪いれしゅ」
「ですから、まだ試験段階で実用段階ではないんですよ。現状では下部の棚が、四脚ローラー機構になる位で、それもバッテリーも長持ちしないし……すぐ充電して、移動させます」
ああ、成る程……と全員が頷いた。
巨大タンスがここにあるのは、移動実験でバッテリーが切れて、休電状態だったから。
プロジェクト・ミミックという名前から、ある程度は想像がついた。
「…………へん、けい? ぎゅいーん?」
「いや、多分そうはならないと思う。子供の頃見た変形ロボットの実現は、遠そうだな」
学園都市は、今日もにぎやかになりそうだ