少女の安寧と乙女の覚悟
「へーっ、そんな事があったんだ」
タンス型変型ロボ騒動から数時間後
おやつ時の茶請け話として、裕香が撮られていた動画を見て苦笑していた、
「…………がっちゃーん」
その隣で、アサヒがDーPhoneの動画サイトで、ロボットアニメを見ている。
変型シーンらしく、普段の無気力表情を変えないアサヒが、パッと見ではわからないレベルで目を輝かせている。
「珍しいね、アサヒちゃんが興味持つなんて」
「確かに、衝撃的な事件だったからね」
「…………ぎゅいーん」
つぐみに言われて、裕香は成る程と頷いた。
メインストリートのど真ん中に、人が見上げる大きさのタンスが鎮座し、それが変型する。
「…………どーん」
「……時々思うけど、アサヒちゃん変わった表現好きだね」
みなもの言葉に、うんうんと周囲が頷いてーー
「…………ぼよよーん?」
「どんな場面!?」
そして、一斉に驚いた。
そこでアニメが終わったのか、アサヒは軽くあくびをして寝息をたて始めた。
「…………zzz」
アサヒは睡眠時間が普通より長いーーというより、大半が寝ている場しか見ていない。
ただ、屋台通りの面々からはほのぼのな一面、と呼ばれ癒しになっているのは別のはなし。
「ーーところで、あのお兄さん誰かな?」
「さあ? 何だか、どこかであった気がするけど」
「あんなスマートなイケメンさん、一度会ったら絶対忘れられそうにないけど」
そこから目を話して、裕香、つぐみ、みなもは裕樹達に目を向けた。
裕樹と龍星が、女性なら誰もが振り替えるだろう、小柄でスマートな中性的な美形の少年と話していた。
特徴的なのが、ナイフで切り刻んだ様な整っていない髪型に、頬に一線の傷跡がある。
「ーー正直言うと、名乗られるまでわからなかったぞ」
「しかも俺に会いに、なんて……ここ最近の騒動でなにかあったのか、黛?」
「……”クロ”と呼んでください、今の私に黛家から頂いた名を名乗る資格はありません」
クロと名乗った少年ーー否、正真正銘の少女は、黛蓮華。
本来は腰まで伸ばした髪をおさげにし、執事服を着こなす男装の麗人と名高く、身の回りの世話から身辺警護までこなせる万能秘書。
世界に名高き水鏡グループ総帥、水鏡家の従者として代々仕えてきた名家出身の血統書付き
「じゃあ改めて、何があったんだクロ?」
「ある大事な物ーー水鏡家と黛家の信頼の象徴、家宝を奪われてしまったのです」
「家宝?」
「はいーー日本、いえ世界有数の名家、京の貴族から明治における華族の血を汲む水鏡家に代々仕える、それが黛家です。その黛家は幼少時代の遊び相手、そして身の回りのお世話、業務の補佐、身辺警護の英才教育を経て、一人前として認められた際、授かる物です」
「ーー時代が時代なら、死んで詫びるじゃ済まないシロモノ、か」
「その通りです。切り落とした髪と奪われた際に受けたこの傷に誓い、必要最低限の物以外は黛家として許された物全てを禁じられた上で、水鏡グループから出ていきました」
「ーーで、どうして俺のところに? 俺が水鏡家の面々と険悪なの、知らないわけないよな?」
裕樹は現在こそフリーだが、最初は保安部員として所属していた。
しかし水鏡家絡みの事件でトラブルがあり、それが原因で堕ちた悪魔の別称がつけられ、保安部を追放されている。
「重々承知しています。しかし……」
そこでクロが、裕樹に片膝をついて頭を垂れた
「今はクロとして活動せねばならぬ以上、一般の情報源だけでは限界があります」
「やめろよ。別に個人としてなら、構わないぞ……払うもん払えばな」
そう言われて、クロが個人の資産としての物を取り出そうとしーー
「違う」
と言って、メインストリートに促した。
そこで裕樹が……
「おっ、おい!」
愛用の電子ツール、6本の太刀”六道”を具現し、その内の1本”人間道”を抜いた。
「欲しいのは、信用だーー獅子身中の虫はごめんなんでね」
「おい、だからって剣を……」
「わかりました」
クロは主にジークンドー、そして杖による棍術を得意としている。
その実力は正真正銘本物であり、龍星相手なら五分五分だが……
「剣を抜いたお前じゃ、勝負どころか一撃だろうと……」
「既に一族としても、お嬢様の従者としても最低の恥を晒した私に、覚悟の証明で上塗りは出来ません」
「なら簡単に膝つくなよ。剣を抜いたからには、押さえるつもりはないからな」
太刀を握りしめた裕樹の立ち振舞いは、龍星との対峙とは比較にならない威圧感を放っている。
龍星でも怯みそうなレベルだが、クロは物怖じせず対峙。




