10 お花屋の娘さん #3
我慢できず、直ぐ整え、投稿してしまいました。
10 花屋の娘、の最後です。
果たして、誰がスーツを解説してくれるのか……。
果たして、桜井先生の恋慕はどうなるのか……。
(補足で、桜井先生は身長175㎝くらいの、塩顔。 星野源さんと田中圭さんを足して割ったような顔のイメージです。調子が良いときは高橋一生さんみたいな時もある……。みたいな感じです。)
今回も長いので、ゆっくりと読まれると幸いです。
10-3 サボテンとCDをもって
俺は桜井祐輔。
今日は無印で買った白シャツとユニクロのベージュのパンツで……昔適当に買った、革靴とベルトと腕時計。そして授業終わりで古着屋に来ている。
俺は、今、スーツを見てる…………でも、おかしいなぁ……依頼したはずの佐藤はいなしい、師匠であるはずの魔女は遠くで仕事をしてるし……
なんか、一条と……知らないオールバックのスーツ姿をした人にスーツを選んで貰っている……何なの、いったい……これ……
そう、数分前だ……
「私……スーツには詳しくないんです……」
「えっ! そうなんですか……」
魔女にそう言われ、困っていた……まぁ、たしかに……前もって佐藤にも、そう言われていたけども……えっ……どうするの……今から……
「えっ、でも、あれですよね! コーデでスーツぽく魅せることできるんですよね。セットアップでしたっけ?」
「あぁ、もちろん、それはできるよ! だが……先生が望んでるのはスーツだろ 」
「まぁ、そうですけど……究極を言えば、お洒落で……彼女をデートに誘える感じだったら……OKです!!」
「いや、先生……私は先生のスーツで彼女をデートに誘うというプラン……とても、テンプレで古風であえて良いと思うんだ!……だから、その意見を尊重したいんだ 」
「えっ、でも……」
「大丈夫だ! 策は打ってある!」
「策ですか……」
「私は違うところで、フォローさせてもらうよ。ちなみに、先生がデートに誘いたい相手は近くの花屋のSUMIREくんで良いんだよね?」
「えっ!?……そこまで、知ってるんですか?!」
「まぁ、情報をある程度まとめて……」
彼女は腕を組み、右人差し指で左の腕をトントンとしながら、ゆっくりと歩き出す。
「私なりに推理した結果。私なら、SUMIREくんをデートに誘いたいと思うしね。バーン!」
指で銃の形をつくり、打つポーズを取って、舌をペロッと出した。
声のトーンとおちゃらけが入り交じって、カオスな人だが……推理して当てるなんて探偵かよ……魔女、恐るべし……
「おっと、そろそろ、ヤツが来る頃だろう……」
「ヤツ……?」
店のドアが開き、スーツ姿をしたオールバックの男が堂々と入ってきた。そして、こちらに真っ直ぐ向かってくる。
「やっと、来たか……」
「やっと来たか……っじゃないだろ! 人を呼び寄せておいて、お前……この前の件、俺がどんだけ大変だったか!」
「まぁ、あの後ちゃんとフォローしただろ 」
「フォローじゃなくて、お前がやれば良かったんだ!……ぅっんっ、元々…………」
男は罰が悪そうにしたが、軽く息を吸って表情を切り替えた。
「んで、それで……今日呼び出された要件を遂行すれば、次の案件のアドバイザーとして参加してくれるんだよ……なぁ!」
「うん、大丈夫大丈夫!!」
「ホントだな! ……まぁ、いい!」
男は溜め息を付いた後に、
「それに……俺が今回、より興味があるのは……この町に、お前を留めた男の顔を……(ピシッ!) 見たかったからだ!」
と男は魔女に指をさした……が黙って指を払われ、不服そうに、一条に近づいていく。
「ふん、なるほど……君が、少年くんだね……千里香をこの町に留めた男…………うーん、良い面をしている!」
彼は、一条との距離を縮めた。まるで舐め回すようにキスをするくらいの距離で睨んでいる。
そんな彼とは反対に一条は何食わぬ顔で遠くを見ている。、
「違いますよ。僕はその少年の友達の一条です 」
「なんだって!!」
それを聞き、男は驚き膝から崩れ落ちた……
「くぅ……またしても、千里香に騙された……今日こそは、その少年の面を近くで生で拝んでやろうと思ったのに……」
彼は拳を地面に何度も叩きつけている。
……この人、いい年した大人だよなぁ……
俺はその男が哀れになったので、近寄って声を掛けた。
「あの………その少年ってのは、たぶん……私と元々来る予定だった男の子で、ちょっと用事で遅れるみたいなので……会えますよ、きっと 」
俺の言葉に反応し、顔を上げ此方をみる。
「すいません、見知らぬ方にこんな姿を見せてしまって……お恥ずかしい……」
「いえ、大丈夫です 」
「という事は……あなたが今回の依頼者 」
「あっ、はい、スーツの件です 」
男はゆっくりと立ち上がり、納得した様子で、
「うむ、私はあなたの………好きな相手をデートに誘うのに、スーツを選ぶという心意気……素敵だと思う。」
と見知らぬ男に、そう言われ照れ臭くなった。
というか……これ以上この話、他の人には広まってないよね!!
男は手を差し出して、俺の片方の手を両手で握り、握手をしてきた。
「だから、私は……君の、力になりたい 」
その真剣な眼差し、力強い言葉に圧倒されてしまう。
「はい! お願いいたします!!」
俺はこの男に……運命を賭けることにした。
「あぁ、自己紹介が遅れて申し訳ない。私は、この女、千里香の兄の……《小野寺 百之助》と言うものだ。宜しく頼む 」
「……《もものすけ》さん……あぁ、此方こそ、今回は無理言ってすいません……近くの学校で、教師をやっています。桜井祐輔です。宜しくお願いいたします!!」
俺はそのイギリス紳士のような彼に、深々と頭を下げる。
そして、スーツコーナーに移動した。
というか、改めて考えると、元々依頼したはずの佐藤はいなしい、師匠であるはずの魔女は遠くで仕事をしてるし……
なんか、一条と……知らないオールバックのスーツ姿をした人にスーツを選んで貰っている……
何だこれ?
《わたしとあなたは、友達じゃないけど。わたしの友達と、あなたは友達。だいたいそんな感じ!!》
昔、人気のあった少年誌のギャグアニメのOPの一節が、頭に流れた……
男は真剣にスーツを物色してくれている。
「では、ティーチャー! あなたはスーツが良いと仰ったがそれはなぜだい?」
「ティッ、ティーチャー?!……」
目の前の男に、急に英語で言われたので驚いたが……目を爛々として自信満々だった……
「えぇっと……実はお恥ずかしい話なんですが……私の大好きな映画がございまして……」
「ほぉ! それは恋愛ものなのか!」
「いえ、違ってアクション映画の……『トランスリミッター』って作品がありまして……」
「ほう! いいね!! わかるよ! なら、ジェイソンに憧れて、だな!」
「はい……お恥ずかしながら。でも、あの筋肉ムキムキで禿げててもカッコいい!ってとこに憧れます 」
「たしかに、あの方はすごくカッコいいね! わかるよ!! 私の今の夢は……いつか、あの方と仕事をしたいってのはあるよ 」
「そうなんですか!! 素敵な夢ですね!!」
なぜか、目の前の見知らぬ男と意気投合してしまった……スーツをチョイスしながらトークをこなす、なかなかのスキルだと思う。
楽しく話をしてたが、百之助さんは急に少し神妙な口ぶりで続いた。
「ティーチャー、あの……自分語りをして申し訳ないが、俺の昔の夢は……元々デザイナーだったんだ……」
「へぇ~、っそうだったんですか?」
「私が先に、そして妹が後から弟子入りをしてね……だが、私にはデザイナーとしての才能が無くて……妹の方がメキメキと才能を伸ばし、かつ色々と才能を伸ばしていったんだ……数年続けたが……思いきって私は……師匠に断りを得て、違う方向に転換したんだよ。」
そう言い、それから彼は一気に息を吐いてから、力なく笑った。
「人は……目の前で天才を見たとき、どう思うんだろうか……」
彼は溢れ出す様に言った。
たぶん、きっと、それは人それぞれだ……憧れて追いかける人、自分に見限る人。宛もなくさ迷う人……
俺はあっさりと、自分の夢を変えていった……やりやすい方向に。
なりたかったのは、愚直にも夢を追いかけれる人に俺は……なりたかったのかも……
「だから、私は……アイツを……妹を支えてやりたいと思っている。今はアイツ、古着屋の店長などやっているが……そして……たしかに昔、奴の才能に嫉妬した時期もあった……だが、それより、兄としてアイツの幸せを。夢を。やりたいことに……力を貸したい思ったんだ 」
俺は……SUMIREさんの才能を観て聴いた時……心が震えた。ただ、スゴイと……
だが、百之助さんの場合は妹と同じものを目指し、間近で見てきたんだ。きっと、辛い時もあっただろうし……
それでも、相手を認めて支えてやりたいって……カッコいい人だなぁ……
俺は目の前の紳士に……初対面の俺にも、素直に振る舞える所……彼に敬意が芽生えた。
その目の前の紳士は、さっきとガラリと変わって胸を張る。
「まぁ、私の方が芯は強いし、服に関してのコーディネイトの才能とヒューマンスキルは上だかなぁ!」
そう、紳士は快活に笑った。
「さて、話が逸れて申し訳なかった。では……今回。この店で、あなたに合うスーツをチョイスした。古着屋でスーツをチョイスするのはハッキリ言って難しい……基本スーツはその人々に合わせて作るもんだからね。だが、奇跡的にジャストサイズを見つかったよ! ちなみに、今日はいくら程の予算を予定されている?」
「一応……クレジットカードを持ってきてますが、それと別で手持ちで5万ほど持ってきてます!」
「うん、グッドだ!! ならトータルで考えようじゃないか……そういえば、ティーチャー。今回はカジュアルスーツでよろしいんだよね。」
「ええっと……はい……」
百之助さんは俺の口ぶりに気付き、切り返すように返答した。
「あぁ、すまない。スーツには主にビジネススーツとカジュアルスーツに分けられているのだよ。だいたい、素材や着用シーンやコーディネイトでそれぞれ変わってくる。カジュアルスーツとは、固い印象がなく、パーティーやレストラン、また街着としても着用できるスーツだ。ビジネススーツよりもカジュアルな印象になるから、汎用性は非常に高い。ドレスコードはあるんだが、プライベートで堅苦しい印象を与えないんだよ。最近はビジネスカジュアルが推奨されている職場が増えてるから。現に先生という仕事でも使っても悪くはないと思うぞ 」
「はぁー、なるほど 」
「カジュアルスーツの魅力は汎用性が高く、ワイシャツをTシャツやポロシャツ、ニットなどに変えたり。革靴をスニーカーにするなど、選択の幅が広いんだ。そして、ノーネクタイでもカッコよく着こなすことができる。カジュアルスーツひとつでお洒落を演出できるんだ 」
「あの……話が違うかもしれませんが……その……セットアップって知り合いに聞いたんですが、セットアップとスーツって同じものなんですか?」
「うむ。セットアップとはジャケットとスラックスなどの上下の服が同色・同生地、統一デザインで作られていて、上下合わせて着られるようになっている洋服のことだ。まぁ、ここまで言うと、スーツと同じだと思われるが……スーツは基本上下セットで販売されている。だが、セットアップは上下を別々に購入することができるんだよ。これはセットアップの場合、上下をそれぞれ単品で着用することも想定されているからなんだ。スーツは上下で一揃いの服だが、セットアップはあくまで単品を組み合わせた服なんだよ。まぁ、私の中では……ビジネススーツとセットアップの間が、今回選ぶカジュアルスーツと思ってくれていい 」
「なるほど! わかりやすいです!」
「では、まずはこちらだ!!」
百之助さんは高々とスーツを出した。
そのスーツを見た瞬間……俺は、目を奪われてしまう。
「こちらは、Paul Smithのスーツだ。イギリスのブランドで、シンボルでは色鮮やかなストライプ柄・花柄が特徴で有名なんだ。スーツ・ジャケット・コートの重衣料においても『伝統的な技術』・『仕立て』・『遊び心』が共存する個性的なものになっている。そして、もう一つのコンセプトとして『誰もが楽しめる洋服であること』だ。イギリスのスーツといえば、キッチリとした印象・雰囲気なものが多く、ポールスミスのスーツは従来のイギリスブランドと違い、華やかで軽やかな印象・雰囲気となっいる。デザインでは英国の伝統と現代の流れを融合させたディテール。正統派のイギリスブランドながらも華やかさがある雰囲気になっているんだ。そして、スタイル・シルエット・サイズ感ではスリムタイプ・レギュラータイプと用意されているので幅広い体型の男性に対応している。独特の世界観、特徴的ながらも多くの男性から愛されるデザインとなっているんだよ 」
俺はその黒のスーツの内側、デザインが沢山の花で彩られてるのに釘付けになった。美しい……彼女に見せたら、喜ぶかなぁ……
「ティーチャー。どうやら、このスーツに一目惚れしたようだね 」
「あっ、いや、なんと言いますか……スーツの内側がこんなに派手なのが驚きで……」
「あぁ、これこそポールスミスならではの裏地だよ。ビジネスで着てしまうと難しい所だが、カジュアルシーンではかっこよく、お洒落に演出してくれるんだ。ちなみにポール・スミスの生地はだいたいゼニアかロロ・ピアーナが使われている 」
「えっと、ゼニ? ロロ?」
「まぁ、簡単に言えばスーツの生地の中では二大巨頭と言われているんだよ 」
「はぁ~、なんかスゴいですね……」
俺はこのスーツに惚れ惚れしながら見とれてしまう。
「まぁ、待ってくれ。あと2着用意してあるからそちらも観てから、改めてチョイスするのもありだとは思う 」
「はぁ!っそうですよね……すいません!」
「いやいや、そこまで興味津々になってくれて嬉しいよ 」
そして、百之助さんは二着目を出した。
「次はTAKEO KIKUCHIのミッドナイトネイビーのスーツ 」
「えっ、これネイビーなんですか? なんか、黒みたい……でも、たしかに、紺色っぽくもある」
「うん、ミッドナイトネイビーは海外では冠婚葬祭で主流なんだよ。光の当たり方しだいで、黒よりも黒に見える。そして、日本人に合いやすい色合いとしてはネイビー系統の色の方が合うんだよ 」
「なっ、なるほど 」
「そして、ブランド名通り菊池武夫氏が発足したんだ。色気と遊び心があり、今の時代に合うTOKYO発信の日本ブランドだ。まず①に、生地へのライフスタイルに合わせたこだり。リクルート・ビジネス・パーティシーンにおいてそれぞれが綺麗に映える色を展開しているんだよ。そしてイタリア、イギリス、日本と各国の生地を採用している。あと②にパターンへのこだわり、③に仕立てのこだわり、④にTAKEO KIKUCHIの出してるスーツの各モデルへのこだわりがある。それらにより、着衣した人物を言い意味で立体化してみせる事ができる!そして、さすがわTAKEO KIKUCHI。日本人に合うスーツを造るのがうまいんだよ。これは、余談だが日本人は基本スーツが似合わないと言われるんだ」
「えっ! そうなんですか?!」
「そこはやはりスーツは、元々海外の服だからね。日本人だと浮いてしまうって事。それと、日本人は海外の人よりも華奢だから、元々スーツは体格がいい人が似合いやすいからね……だが、スーツや服というものは究極はサイズ感なんだよ。それとコーディネイト。まぁ、肌の色や体型等でまたそこは変わってくる。自分の個性を知り、それを生かす方法を選ぶべきだとは私は思う。でも、服を着たい、新しい事に挑戦したいっという心がけが一番大切だ 」
「はい!」
「では、三着目だ!」
チェック柄の明るいグレーのスーツを彼は差し出す。今までと、またタイプが違う。
「こちらはValditaro per SHIPS だ。グレンチェックのグレースーツだ。ヴァルディターロは日本のセレクトショップ、シップスのエクスクルーシブブランドであり、20年以上に渡り第一線で活躍し続けているブランドだ。このブランドを一言で表すならば……それは『普通』であるということ 」
「普通?」
「そう。一過性に過ぎない流行りに媚びることなく、過度なアレンジはしない。ブレのない極めて真摯な『ヴァルディターロ』の服は、クラシックでもありモダンでもある。だから、いつの時代にも相応しく、あらゆる世代からも愛されている。いわば、男が求める、Simple is the best!!」
百之助さんはそれぞれについて熱く語った。
「では、どうする?! 全部試すかね!!」
そう言われたが、俺はもう一つのスーツ以外想像できなかった。
「ふっ、いや、無粋だったね。あなたの心はもう、決まってるようだ 」
「はい!……やっぱり俺……Paul Smithのスーツを着たいです!!」
「ふっふっふ! よし、あとの物もある程度決めてある!」
百之助さんは、服と小物を持ってきて俺に渡し、そして……
パチンッ! と指を鳴らした。
「さぁ、IT'S SHOWTIMEだ!!」
彼は手を広げ、試着室をさす。俺は意気込んで入っていった。
そして、与えられたものを全て身に付ける。纏う度に心なしか勇気が湧いてくる。
ガラガラっと俺は試着室のカーテンを開け用意してある靴を履いた。
「どう……ですか?」
だが、初めて意義込んだスーツに、俺は自信なさげに言ってしまう。そんなこともお構いなしに百之助さんは自信満々に答えた。
「うむ! バッチリだ! では、説明させて頂く 」
彼は手を俺の上の方からかざした。
「まず、シャツはTOMORROWLANDのライトブルーのシャツ。そして、ネクタイはBEAMS F の紺色と青のレジメンタル。この2つのブランドは日本のセレクトショップで、両方ともスーツ用品も取り扱っている。なので質もいいんだ。そして、ベルトはルイ・ヴィトン。革靴はBURBERRYの黒のビットローファーだ。この2つのブランドは有名だから知っているだろ 」
「はい、勿論名前は聞いたことあります 」
「うんうん。スーツがポール・スミスで、スタイリッシュかつ、裏地が遊び心がある。まぁ勿論、着てしまえばあまり裏地は見えないが、チラリと見えた時にお洒落だと思われるだろう……だが少し、チャラく思われるかもしれない。私はここ数分……あなたと関わって、あなたの良さは『誠実さ』だと思っている。なので、それを損なうことのないように、爽やかなライトブルーのシャツと、そのネクタイで誠実さと堅実さを演出させて頂いた。そして、あまり重たくならないようにカジュアルさを演出するため、ビットローファーをチョイスさせてもらった。 余談だがビットローファーはもともと、GUCCIが始まりらしいよ 」
たしかに、言われてみればそこまでチャラいとも思わないし、なんかお洒落な海外の人みたいだ……
あれ……そういえば……
「あの……よく、サイズわかりましたね。何も言ってなかったんですが……」
「ふっ、それは私の能力だよ。ティーチャー! 見れば、だいたい把握できるんだよ 」
百之助さんは両指で四角を作り、写真を撮るようなフォームをする。
本当にすごい人なんだ……
「そういえば……あなたは。パッと見は細いが、背中がしっかりとしている……だから、スーツも似合っている。もしかして、剣道とかやってたのかい。」
「あっ、正解です。実は少、中、高と……剣道をやってました。でも、そこまで、よく……」
「まぁ、私レベルになると……そこまでは余裕さ!」
もう、スゴイを通りすぎて恐ろしい……
「まぁ、上からシャツが1980円。ネクタイが1280円。ベルトが7980円。革靴が4980円。そして、スーツが14800円で合計、31020円だ 」
「おお! 予算内!!」
そう思ったがやっぱり、それなりの値段はするんだなぁ……と思いしらされる。
だがここまで揃えたんだったら、いっその事……
「あの、腕時計とかも買った方がいいですか?」
「うむ、まぁ、ありと言っちゃありだが……今着けてるやつじゃ駄目か?」
「えっ 」
「今、着けてるのはCITIZENの エクシード エコドライブだろ 」
「はい、たしか……」
「CITIZENは日本人に合う腕時計を造ってて、『永く広く市民に愛されるように』と言う意味を込めて、『CITIZEN』と名付けられたそうだ。それに、技術力も高くコスパも高い。私が思うに高い値段の腕時計だからって、良いとは限らない。究極を言えばファッション全般高いものだから、良いと言うわけではないんだよ。全ては足し算引き算であり、掛け算でもある。そして、その人に合うか合わないかだよ。もしかしたら、数年後には似合わないかもしれない……でも、また数年が立てば似合ってくるときもある。一つの物をバラして違う使い方をすれば、また新しい顔を魅せてくれる。だから、自身が納得をして買った衣料雑貨類は、大切に愛してやって欲しい 」
百之助さんが言ってくれた熱い言葉で……俺は自分が今まで買った服を好きでいられたか……そこから人間関係や関わってきたものに対しても、大切にできたか……っと考えたみた。
少し考えすぎかもしれない……でも、それらの考えは繋がっているのかもしれない……
俺は……あまり、できてなかったかもしれないな……だから、目の前の紳士の言葉のお陰で……
これからは関わる事柄は大切にしたいと想った。
俺は唇に少し力を入れて鼻から息を吸う。そして俺は目の前の紳士に精一杯の礼を込めて伝えたいと思った。
「ありがとうございます。百之助さん!俺、今日買った服達を大切に使っていきます!」
「うん! どういたしまして。愛の告白、上手くいくことを願っているよ 」
「あっ、あっ、愛の告白って……」
「大丈夫だ、ティーチャー。男は当たって砕けた方が丸みを帯びて、より良い男になるものさ!」
「なんですか、それは~」
俺は息を洩らし、腹からこみ上げてきた嬉しさに……笑みが零れた。そして、紳士は俺の肩をポンと触る。
「頑張れ」
っと一言。そして、
「アディオス!!」
右の人差し指と中指を立てて振り、去っていった……ホント、カッコいい人だった……
すると、店外から何かが聞こえてきた……
「あっ!! 今度こそ見つけたぞ!! 君が、少年くんだなぁ!!」
「えっ、どなたですか!?」
「私の名は、小野寺百之助! 千里香の兄だ!!」
「えっ、千里香さんの!!」
「君がこの町に、千里香を留めた男だなぁ! 良い面をしている!!」
「あっ、ありがとございます!」
「こちらとしては……『ありがとう』、っじゃないよ!! よくもよくも……」
「えっ!!」
そう、外で言ってると、魔女が外へ駆け寄った。
「兄貴! 何してるの!!……」
ふっ……なんか、今日は楽しい日だ。うちの生徒と紳士と魔女が戯れてるのを俺は微笑ましく横目で見る。
まぁ、他人様からみたら喧騒だなぁ、ははは……お願いだから大事にならないでくれ……
まぁ、とりあえず鏡の前で今の自身を観て、嬉しくなる……緩んだ顔を引き締めるため、両手で頬を叩いた。
「よし!」
その後、佐藤が入ってきて、『先生すごいじゃないですか! カッコいい』やら、気がつくと飽きて店内をウロウロしてた一条に『いいですね。これならイケるかもです』とか魔女には、『アイツ……性格は嫌いなんだがやっぱりセンスはあるんだよな……まぁ、私がスーツの事を勉強したら直ぐ追い越すがなぁ』等々……お陰で自信が湧いてきた。
俺はお会計を済ませ、帰ろうとした時、魔女が呼び止める。
「告白する日は決めたのかい?」
「はい、ある程度決めました!」
「うん、なら、その日告白する前に、店に寄ってくれないか……」
「どうして?」
「言っただろ、他の事でバックアップすると」
そうやって告白の日を伝え、店を出た。
しばらく歩き、中身を確認する。そして、この服には思いが込められている……俺は買った服が入ってる袋を握りしめ、袋を持ってる手を天に突き上げた。
そして、数日が経ち。6月の初め……
天気はよりによって……悪く、暗い、灰色の空。雨が降りそうだ。
俺は前回買った服を全部着て、髪型は……オールバックにした。
あの紳士……百之助さんの様な自信のある男で、彼女に会いたい。そして、言われた通り、古着屋に行き、魔女に会った。
俺は今、花屋の前にいる。魔女に渡された。小さなブーケを持って……
魔女は、
『これには数人の想いが詰まっている。どうなるか、わからんが……その数人と一緒に応援しているよ』
と言った。
逃げたいと思ったが、俺は逃げるわけにはいかない。俺はブーケを後ろに隠し、カチカチと鳴りそう固さと共に、意気込んで店に入った。
「あの! SUMIREさん、こんにちは!!」
「えっ、お兄さん?!」
彼女は俺の洋装と緊張ででかくなった声で驚いていた。少し黙っていたが、彼女は息を洩らし笑顔で向かい合う。
「すごく素敵ですね! オールバックも似合ってますし。どうかしたんですか?」
俺は嬉しくて、天にも登りそうになった。
彼女は少し考える素振りから、
「あっ、さては……デートですね!」
と悪戯っぽく言われ、彼女の可愛さに言葉が出ない。とりあえず、顔を横に振った。
「えっ、違うんですか……あっ、ふぅー、じゃあ……告白とか? なんてぇ!」
そう言われ、思わず顔を縦に振ってしまった。
「わぁ! すごい!! では、その花選びに来たんですね。よかったら私が選びますね~!」
彼女は、他人の俺の事なのに嬉しそうに答えてくれた。
「私の~♪、おすすめは~♪♪」
彼女は後ろを向き、言葉に弾むような抑揚をつけ、花を選んでくれている。
そんな姿を見ていると、なぜか心が安らぐと同時に愛おしく……この人の隣に居たいと想った。ただシンプルな願いが頭と心を往き来する。
また、反芻する願いは彼女への実直な言葉として明確に自身に刻み付ける。
ホントこの人は楽しそうに仕事をしているなぁ……だから俺はこの人を………人として……好きになったんだ……
「……好きなんです…………」
つい、ボソッと口から溢れた……
彼女は、何が起こったかわからず、動きを止めて、ゆっくりとこちらを向いた。
「?……えっ……?」
「えっ、あっ……あの……」
咄嗟に出た言葉によって緊張が走る。考えてたプラント裏腹に滑稽なほどダサく固まってしまう。
俺はかっこよく伝えたかったのに……なんで、さらっと言ってしまったんだ……取り繕わないと……
「いや、あの……会ったその日から……好きでした。俺と付き合ってください……」
一瞬誤魔化そうとも思ったが、それより想いが先走る。身体を伝い、しどろもどろに言葉を繋ぐ……
だが彼女はそんなことより、驚いて声が出ないようだ……
そりゃそうだ……今まで、ただ仲の良いお客さんだと思っていたのに、急に云われたら……恐いだろう……
外は気がつくと雨が降り、アスファルトの濡れた匂いがする。彼女の下を向き、凍りついたような表情をしている。
そして、少し俯いた彼女は小さく口を開いた。
「……困ります…………」
俺はその言葉を聞き、動揺してしまう。ずっしりと胸にくる……
だが、彼女を……これ以上困らしてはいけない……
「あっ、そうですよね……あははは……急にごめんなさい……ただ、それだけを伝えたかったんで……」
俺は取り繕った笑顔で振る舞う。もちろん体に力が入らない……
トスッ……
心の中の……何かが落ちた……
「んじゃ、俺、帰るんで……さようなら……」
滑らした様な言葉を彼女に残し俺は早歩きで、店を出た。
当然、傘は持っておらず、全身を濡らしていく。俺の上げていた髪は、どんどん下に落ちてきた。
あぁ、なんだよ……やっぱり、俺は……駄目だよな……色んな人の支えがあっても、やっぱり……『雁がたてば鳩もたつ』って言うけど、誰かの真似じゃ駄目だったんだ……俺みたいなそこら辺の鳩が……白い美しい鳥に恋をしたのが間違いだったんだ……
あれ、空が灰色だから……今、周りも色褪せて見えるのか……あぁ、周りの音がぼやけて、近くに聴こえるけど、ちゃんとは聴こえない。
他の人たちがゆっくり動いているのようだ。そして……古ぼけて……観えて……
「ふっ……」
小さく息を吐く……これもまた、過去の記憶の1つとなっていくのか……っと歩きながら考えた。
少し歩き信号が赤になって、立ち止まる。宛もない歩みがようやく止められた。
なんだよ、こんな時に停めないでくれよ……あぁ、もう、雨……もっと降ってくれ……周りの人に顔を見られたくないんだ……
そう考えながら、顔を下に向ける。
ザーーザーー、ザッザッザッザ………
雨音を遮るような音が、真上から聴こえる……あれ、濡れない……
俺は上を向いた。誰かが……傘をさしてくれている……ようだ。
紫……白……黄色………俺の鈍った頭、ぼやけた視界には、傘の色すらも把握できなくなっている……
俺は力のない声で
「ありがとうございます……」
っと言い、その傘の持ち主の方を向いた……
「もう! なんで、急に出ていくんですか! 風邪、ひくじゃないですか!」
透き通った声が胸に響く。俺は信じられない事が起き……ただ眼を見開いていく。
えっ……SUMIREさん!
俺は口をパクパクさせる。これで何回目だろうか……彼女は驚いた俺に構わず、不服そうに答えた。
「あの、困りますって、言いましたけど。あれは……動揺して……急に言われましたし、私達、お互いの事そこまで知らないですし……でも、お兄さんの事はすごく素敵だと想っています。だから……」
そう言った後、彼女はゆっくりと口を結んでから、鼻から大きく息を吸い……
「まずは連絡先を交換してから……お付き合い、前提のお友達から……始めませんか?」
と彼女は恥ずかしげにだが、しっかりと答えた。
「俺、なんか……ぇっ、いいんですか……?」
「『俺、なんか』っ、じゃないですよ! お兄さんが良いんです!」
彼女は少し、怒りながら答える。
俺は嬉しいが、みるみる顔がクシャクシャになる。そして、大人の男なのに……喉の底から何かが込み上げ、それは大きくなり、泣いてしまった。
彼女は情けない俺の背中を擦りながら、一緒に花屋に戻っていく。
俺の周りは、いや、もしかしたら……俺と彼女の世界は……ゆっくりと染み込むように色付いていった。
店に着き、タオルとお茶を出され、漸く一息つく。
彼女はある物を差し出した。
「これ! 落としましたよ!」
「あっ、えっ、あれ、いつ落としたんだっけ?」
「このブーケ綺麗なのに、可哀想ですよ。駄目じゃないですか……」
「……ごめんなさい……」
これじゃ、まるでお母さんと怒られてる子供みたいだ。
「でも……嬉しいです!」
さっきまで怒ってた顔から優しい顔つきで俺に微笑みかける。それにつられて俺も笑みが溢れる。
「俺も……受け取ってもらえて、嬉しいです……」
「知ってますか? この花の、花言葉?」
「はい、何個かあるそうですが……」
「誠実」「誠実」
と、また、揃ってしまった。
菫の花言葉は「誠実」「謙虚」
紫のスミレの花言葉は「貞節」「愛」
白いスミレの花言葉は「あどけない恋」「無邪気な恋」
黄色いスミレの花言葉は「田園の幸福」「つつましい喜び」だそうだ。
魔女はこの事を知って用意したのだろう。
彼女の名前は、牧村 菫さん。その花に似合う通り素敵な人だ……
後日、用意してくれた色とりどりの菫の小さなブーケの件を……魔女と佐藤から聞いた。
どうやら、佐藤の呼び掛けでクラスの何人か(誰の為にかは伏せて)と魔女の知り合い何人かで、菫を集めてくれたそうだ。
ホント、感謝してもしきれない……だから、俺はこの感謝を今後も出会った人たち、これからは出会う人たちにも広げたい……
まぁ……もちろん、嫌な奴にはしないがなぁ! そして、何よりも、一番大切な横にいる、菫さんにすべてを捧げたい。重い、嫌だと想われない程度に。
これは……駅近くのお花屋さんの娘さんに、ちょっと恋をしたお話。
そして、今後の事は誰も知らないお話。
俺は彼女と距離を縮めていく。それで……正式にお付き合いし……お互いの好きな事、嫌いな事を知る。
俺は彼女の色に染まっていく……いや、正確には混じりあっていく……
時には小さい喧嘩をすることもある……
そのうち、旅行にも出る。
『どこに行きましょうか?』と俺を見る。その綺麗な目が眩しいが、その事にいつか……慣れてしまうのだろうか……
俺は彼女が選んでくれたサボテンを持って、彼女の好きなCDを持って、車に乗って……
俺は、彼女の為だったら全てを捨てても構わない。知る人の居ない所にいっても構わない……
まぁ、彼女にそんな事を言ったら怒るだろうが……
そして、何年後か俺たちは結婚する……
あの、告白した雨の日の6月に……
雨は降ってるが、日が見える。
日の光が雫に反射し、彼女をより美しく魅せる。
その愛らしい、ソバカスとクシャっとした笑顔……透き通った声……彼女の全てが俺を優しくさせてくれる。
そして、もちろんブーケは……沢山の色とりどりの、小さな『菫』。
ブーケは彼女が空に放った時、天で幾つかは舞うだろう。
ひらひらっと。
雫と菫の雨で…………そして、それに合わせて、灰色の鳩と白い鳩が一緒に空へ羽ばたいた……
長いのに読んで頂き誠にありがとうございます!!
今回は大人の純愛を描いてみたのですがいかがでしたでしょうか?
今回の各サブサブタイトルはそれぞれ、意味を込めております。もちろん、影響を与えてる歌等もありますが……。
『パッションフルーツ』の花言葉は「聖なる愛」「信じる心」「キリストの受難」らしいです。
まぁ、『パッション』っていう言葉だけの情熱って意味を話にはこめました。
『バウムクーヘン』はこれは、歌詞の影響がでかいですが、年を重ねると大きくなっていきある程度の事はこなせるようになるが、自身の根子は変わってないと意味を乗せてます。桜井先生の場合、結局不器用で優しい人であるって事を表しております。
『サボテンレコード』のサボテンの花言葉は各サボテンの種類にもよりますが「燃える心」「偉大」「情熱」「ひとときの美」「美しい眺め」を作中に込めております。
勿論、お話の軸である『菫』の花言葉が主にですが。
今回も長いのに読んで頂き誠にありがとうございますm(。_。)m!!
個人的ではありますが体調が戻りしだい、また現実で勉強に戻ります。
本当に本当にありがとうございます!!




