70:唯一の人。
※身体的、性的な暴力表現があります。
ふと、息苦しさを感じ、目を覚ましました。
が、真っ暗で辺りが何もみえません。
「ん、ぶっ?」
何故か、口が塞がれています。
「起きたか、アンジェリカ。今度は他国の王子を誑かすとはな……。本当にお前は、俺の思い通りに動かないな」
――――誰⁉ え、アンジェリカ様?
知らない男の人の声がしました。
一瞬、この場にアンジェリカ様がいるのかと思いましたが、そもそもが真っ暗で何も見えません。
多分、寝ていたはずの船室で、男に口を塞がれ、組み敷かれているということが、やっと脳内に到達しました。
「…………あの優男は、お前をキモチヨクしてくれたのか?」
「んぶぶぶ! んゔー!」
違うと叫びたいのに、呻き声しか出せません。
何とかしないとと思い、更に呻きながら、手足を動かしていましたら、男の手が口から離れました。
「わた――――」
「騒ぐな」
「ぎ、ァ……」
『私は、アンジェリカ様じゃない』と、言おうとしたのですが、訳の分からない痛みが顔全体を襲いました。
ただただ痛くて、怖くて、体は硬直したように固まり、声が出せなくなってしまいました。
男が息を乱しながら、私の体を弄り始めました。
ビリビリと夜着のワンピースが破られていきます。
テオ様にしか触れられたことがない場所が、どんどんと侵され、絶望を味わいました。
「ほら、いつもみたいに喘げよ。無理矢理も好きだろう?」
「ひ……ぃゃ……」
わけが解らなくて、怖くて、悔しくて、痛くて、恥ずかしくて、気持ち悪くて、苦しくて、情けなくて。
ただ、啜りながら泣くことしか出来なくて。
――――テオ様、助けて。
これ以上穢される前に…………。そう考えた時でした。
けたたましい怒号と、何かが壊れる音と、差し込む明かりの眩しさに、ギュッと目を瞑っていると、驚いたような男の声が聞こえました。
「…………は? アンタ、誰だ?」
「……ミラベル! っきさまぁぁぁ! 殺す! 殺す、殺す殺すころすコロス。ブチ殺してやる。貴様の国、全てを焦土と化してやる。全ての民を斬り殺し燃やしてやる。あの女を貴様の前で犯してやる! 貴様はその全てを見ながら、最後に死ね!」
「いや、まっ――――」
「この男を捕えろ! 猿轡を付けて、自死されないように見張れ! ロブ!」
「はい」
「まて、待て! すまな――――」
「黙れ!」
一瞬の内に、色んな言葉が聞こえて来ました。
一番よく聞こえたのは、今まで聞いた中で、一番低くて、恐ろしくて……私の大切で、唯一の人の声でした。
「でぉ、ざまっ……てぉ、ざまぁぁぁ!」
「ミラベルっ! ミラベル、ごめんね、私が……不甲斐ないばかりに。こんなに、こんなに酷い…………ごめんね」
知らない男から解放され、助けに来てくれたテオ様に抱きしめられて、ホッとして、顔や口が痛いのも気にせず、わんわんと泣き叫んでしまいました。
「……今すぐに、あの男の全ての指、手足を折ってやろう。もう怖くないからね、ミラベル」
「まて! すまない! 本当に、すまない! 勘違い、人違いだったんだ! 俺は、アンジェリカを助けに――――」
「知った事か。あの女は、お前の前で、犯しまくって、殺す」
今、一番怖いのは、テオ様かもしれません……。
次話も明日21時頃に更新します。




