71:考え直してほしい。
テオ様の恐ろしい宣言を聞いて、少しだけ冷静になれました。
「ゲボッ……でお、さま、ぞの人、じょーぐんざま?」
「あぁ。あのクソ女のクソ婚約者だ」
――――テオ様、お口が悪いです。
将軍様だったのですね。
アンジェリカ様を助けに来た、とか聞こえた気が……ちょっと言っている意味が解りませんが、殺すのは駄目だと思うのです。
「ころ、じだ、ら……ご、ゲホッ。……こくさぃ、もんだい、なる」
「ん、大丈夫だよ。ミラベルは気にしなくていい。あんな野蛮なヤツのいる島国なんて、消し去ってあげるから。ね?」
「だ、め……」
島国を消し去るとか、恐ろしいことを言わないで欲しいです。
国民も国も、何の罪もないのに。
ただ、その人が…………。
「っ、だめ」
将軍様を見られないくらいに怖いですが、どう考えても国民に罪はないのです。
「大丈夫、なーんにもない国だ。焦土にしたほうが何かの役に立つだろう」
「だ、め……ひぉぎ…………べだぃ、の」
「ん? なぁに?」
テオ様のお顔が、キラキラなのに、目が怖いです。
また、私の嫌いなお顔になっていらっしゃいます。
あと、声がガラガラ過ぎて伝わりません。
痛みで口をあまり開けられないので、滑舌も凄く悪いです。
「セオドリック殿下、口を挟むことをお許しください」
「ザラか。許す」
「お嬢様は、そちらの方の国にある『緋扇貝』を食べることを、とても楽しみにしていらっしゃいましたので、国を燃やすのは考え直して欲しい、と言われています」
「……食べたいの?」
テオ様が可愛らしく首を傾げて、聞いてきました。
こくんと頷いて返事を伝えると、またもや嫌な笑顔でにっこりと嗤われました。
何だか、嫌な予感がします……。
「ミラベルの希望だ。国を落とすぞ」
「っ⁉」
――――言ってない! 断じて言ってない!
ペチペチとテオ様の胸を叩いて、ブンブンと首を振り、駄目だと必死に伝えました。
「なぁ、アンタ!」
「っ!」
急に将軍様に話しかけられて、体がビクリと震えました。
体温がぐんぐんと下っているようで、とても寒いです。
「アンタからも言ってくれ! 俺はずっとアンジェリカって呼びかけていただろう⁉ アンタが抵抗しないから、アンジェリカだと思っていたんだ!」
抵抗しないから。
そう言われた瞬間、今度はテオ様がビクリと身体を震わせました。
抵抗したんです。抵抗にもなっていなかったかもしれませんが、抵抗したんです。
怖かったけど、抵抗したんです。
なのに――――。
「ゃ……ぃゃ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」
「ミラベル、ミラベル! 落ち着いて! 落ち着いてっ! 大丈夫、もう怖くないから。大丈夫、もう誰にも触らせないから! もう痛いことなんて起こらないから。解っているから! 私のせいだったと、解っているから。ごめんね。ミラベルは何にも悪くないから。ごめんね。泣かなくていいから、ねっ」
「ぃゃ……」
もう、私は、テオ様には、相応しくない。
私は穢れているから。
例え、最後までしていなくても、テオ様以外の男と、ベッドにいた。
私は、裸同然にされていた。
私は、傷物で、汚いもの。
もう、テオ様の側に、いては駄目な人間。
もう、テオ様との未来は、閉ざされてしまった。
「……しに、たぃ」
「ミラベル⁉ …………私を、一人にしないで?」
「……」
泣きそうなお顔のテオ様に強く抱きしめられたけど、私の体も心も疲れ果ててしまっていて、目を閉じて、深い深い眠りへと落ちて行きました。
その瞬間、薄っすらと見えた将軍様は、後ろ手で縛られ、猿轡を着けられている最中でした。
次話も明日21時頃に更新します。




