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71/88

71:考え直してほしい。




 テオ様の恐ろしい宣言を聞いて、少しだけ冷静になれました。


「ゲボッ……でお、さま、ぞの人、じょーぐんざま?」

「あぁ。あのクソ女のクソ婚約者だ」


 ――――テオ様、お口が悪いです。


 将軍様だったのですね。

 アンジェリカ様を助けに来た、とか聞こえた気が……ちょっと言っている意味が解りませんが、殺すのは駄目だと思うのです。


「ころ、じだ、ら……ご、ゲホッ。……こくさぃ、もんだい、なる」

「ん、大丈夫だよ。ミラベルは気にしなくていい。あんな野蛮なヤツのいる島国なんて、消し去ってあげるから。ね?」

「だ、め……」


 島国を消し去るとか、恐ろしいことを言わないで欲しいです。

 国民も国も、何の罪もないのに。

 ただ、その人が…………。


「っ、だめ」


 将軍様を見られないくらいに怖いですが、どう考えても国民に罪はないのです。


「大丈夫、なーんにもない国だ。焦土にしたほうが何かの役に立つだろう」

「だ、め……ひぉぎ…………べだぃ、の」

「ん? なぁに?」


 テオ様のお顔が、キラキラなのに、目が怖いです。

 また、私の嫌いなお顔になっていらっしゃいます。

 あと、声がガラガラ過ぎて伝わりません。

 痛みで口をあまり開けられないので、滑舌も凄く悪いです。


「セオドリック殿下、口を挟むことをお許しください」

「ザラか。許す」

「お嬢様は、そちらの方の国にある『緋扇貝(ひおうぎがい)』を食べることを、とても楽しみにしていらっしゃいましたので、国を燃やすのは考え直して欲しい、と言われています」

「……食べたいの?」


 テオ様が可愛らしく首を傾げて、聞いてきました。

 こくんと頷いて返事を伝えると、またもや嫌な笑顔でにっこりと嗤われました。

 何だか、嫌な予感がします……。


「ミラベルの希望だ。国を落とすぞ」

「っ⁉」


 ――――言ってない! 断じて言ってない!


 ペチペチとテオ様の胸を叩いて、ブンブンと首を振り、駄目だと必死に伝えました。


「なぁ、アンタ!」

「っ!」


 急に将軍様に話しかけられて、体がビクリと震えました。

 体温がぐんぐんと下っているようで、とても寒いです。


「アンタからも言ってくれ! 俺はずっとアンジェリカって呼びかけていただろう⁉ アンタが()()()()()()()、アンジェリカだと思っていたんだ!」


 ()()()()()()()

 そう言われた瞬間、今度はテオ様がビクリと身体を震わせました。

 抵抗したんです。抵抗にもなっていなかったかもしれませんが、抵抗したんです。

 怖かったけど、抵抗したんです。

 なのに――――。


「ゃ……ぃゃ、きゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

「ミラベル、ミラベル! 落ち着いて! 落ち着いてっ! 大丈夫、もう怖くないから。大丈夫、もう誰にも触らせないから! もう痛いことなんて起こらないから。解っているから! 私のせいだったと、解っているから。ごめんね。ミラベルは何にも悪くないから。ごめんね。泣かなくていいから、ねっ」

「ぃゃ……」


 もう、私は、テオ様には、相応しくない。

 私は穢れているから。

 例え、最後までしていなくても、テオ様以外の男と、ベッドにいた。

 私は、裸同然にされていた。

 私は、傷物で、汚いもの。

 もう、テオ様の側に、いては駄目な人間。

 もう、テオ様との未来は、閉ざされてしまった。


「……しに、たぃ」

「ミラベル⁉ …………私を、一人にしないで?」

「……」


 泣きそうなお顔のテオ様に強く抱きしめられたけど、私の体も心も疲れ果ててしまっていて、目を閉じて、深い深い眠りへと落ちて行きました。

 その瞬間、薄っすらと見えた将軍様は、後ろ手で縛られ、猿轡を着けられている最中でした。




 次話も明日21時頃に更新します。

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