第48話 『審判の日』
ちっ、化け物みたいな耐久度しやがって。
試験世界最高峰の魔法を撃って無傷かよ。
ちょっと無理があるぜ。
「今のは、少しくすぐったかったぞ。
その攻撃、賞賛に値しよう。
敵ながらあっぱれよ」
くすぐったいだ?なめやがって。
こちとら本気だってのによ。
お陰でハデスは自爆の準備の所為で、
使用は出来ないし、
俺はさっきので魔力が尽きたし。
ギーモンも虫の息になってるし、
ワーザックは毛玉になっちまった。
圧倒的に不利で、
完全的に敗北は決定してる状況だが、
まだあきらめるには早すぎる。
ハデスが爆発に必要な魔力を補給する時間は、
数十秒だが、
今回は対象の消滅が目的だ。
最大魔力で爆発させなければならない。
そうする為には、時間が更にかかってしまうだろう。
あと動けるのは俺だけだ。
ヴェナを使うわけにはいかない。
そうとなればーー
「なぁ、ブレイダル。
精霊格闘技って、見た事あるか?」
「勿論だ。我もそれぐらい嗜んでおる。
貴様如き指一本でも勝てるわ」
「ほう、じゃボクシングとか、
カンフーって知ってるか?」
精霊格闘技で無理となりゃ、
昔、今となってはかなり昔に思えるな。
遠足の頃にやってたボクシング、
やってみるか。
「よく知らぬ言葉だ。
貴様は我の知らぬ知識を持っておるのか?
惜しい、口惜しいぞ!
我が直々に貴様の命を手にかけるのが、
焦がれる程に口惜しいぞ!」
物凄い殺気だ。
ブレイダルの目を直視したくない。
見るだけで吐き気を催す程、
絶望と憎悪で溢れている。
威圧のあまり、鳥肌が全身に立ち登り、
悪寒が背を駆け上る。
「さぁ、この老いぼれとの戦いにも飽きた。
貴様との戦い、少々は楽しませてくれような?」
相手の力の底が見えない。
戦いたくない。死にたくない。
心の底から嫌になる。
だが逃げる道はない。
戦うしかないのだ。
となれば先手必勝だ。
風属性魔法付与で一気に間合いを詰めて、
「双方向からの爆裂拳!」
拳は完全にブレイダルの頭を捉え、
力任せに押しつぶした、
はずだった。
俺の手は止められ片手で止められて、
ブレイダルはつまらなそうな顔で、
俺を見つめ、溜息をつく。
「楽しませてくれと、言ったはずだが?」
顔の目の前に手が現れる。
刹那、俺の体は後ろへ吹っ飛ばされる。
痛みが体を駆け巡る。
腕を振った風圧だけで、
俺を吹っ飛ばしたのだ。
戦うのを辞めたくなる、
恐怖で顔が歪みそうになる。
だが、ここで辞めてはいけない理由がすぐそこにあるのだ。
ヴェナの方を見ると、
必死にハデスの魔力回復を手伝っている。
彼女を守る為にも、
俺は立ち向かうのだ!
「ほう、まだ立つか、
全く、我には人間が理解できぬ。
これだけの力量の差を見せつけて尚、
何が貴様を動かすと言うのか?」
敵の言葉には耳を傾けず、
必死に魔法付与を掛け、
間合いを詰める。
「鉄槌の振り落とし!」
いとも簡単に避けられる、
だが予想内だ。元よりこれを狙っている。
「上下への無慈悲な連撃!」
防がれても尚、撃ち続ける。
避けられても尚、放ち続けるのだ。
一発一発に、大した威力がないのは分かっている。
だからどうした!
何度でも、この命尽きるまで抗い続けるって、
決めたばっかりなのだ、
ワーザックも、ヴォーラフも、
そこで倒れてるギーモンだって、
俺の我が儘を聞いて、死んでいったんだ。
ここで俺が立ち向かわない訳にはいかねぇさ。
最後の最後ぐらい漢見せてやる!
「さっきから何度も何度も、
同じ攻撃を当ておって、
よくもまぁ飽きぬものよ。
そろそろ別のパターンを見て見たいものよな」
再び体が飛ばされる。
地面に叩きつけられた体は悲鳴を上げ、
地面を鮮血で濡らしていく。
腕を見ると、
痣だらけで、血も出ている。
まるで固い岩を殴り続けていたような感覚だ。
神剣を打った俺の手がボロボロになるとは、
相当な強度だ。
だがまだまだ、闘志は消えてないぜ!
「へっ、そうかよ。
じゃ、こいつはどうかな?」
腕に重力属性魔法付与を施して、
殴りかかる。
「蹂躙せし重撃!」
さっきと比べて、
一撃一撃が重い状態で、
殴り続ける。
ブレイダルの腹部を狙い、
腕を動かし続けるも、
その腕は全て払いのけられる。
しかし、その一手一手に、
少しづつ綻びが生まれている事に気付いた。
切羽詰まった状態である事と、
ブレイダルが完全に俺を舐めきっている故に、
少し冷静で入られたのが、
功を奏したようだ。
見るとブレイダルの腕にも少しづつ、
傷が入っていて、俺の努力が無駄ではないことを物語っている。
「なぁ、ブレイダル。
お前は何故、俺を嵌めたんだ?」
「戦闘中に敵へ質問とは大した度胸だな。
まぁ、良いだろう。
冥土の土産に聞かせてやろう。
貴様は世界システムについて、
テオトルから聞いたか?」
確か、この世界の古いシステムで、
RPG的な世界を作ってみようとして、
失敗したから廃止したっていう、あれか?
「一応聞いたけど」
「貴様は謂わばそのシステムが生み出した、
体に生まれておるのよ。
ハーキュリーズ家の初代は神の子と、
呼ばれておる。
神性が高いという意味だ。
元はと言えば奴も試験世界で最も栄えた王族の基に生まれておった。
だが、その国は我が滅ぼし、
ハーキュリーズ家をわが軍門に下し、
その権威、言えば神にをも届き得る力を、
恐れたのだ。
その中で最も恐るべきは貴様だった。
放っておけば間違いなく神に近づくだろうと思ったのだ。
そのような物が創造神側に増えたら、
我々冥神側は確実に敗北をする。
故に貴様がまだ弱い内に泥を塗っておったのよ。
計画は成功したが、凶化するまでは至らなかったようだがな。
だが、行く末は変わらず終焉。
貴様の命もここまでよ」
確かに、戦闘中に聞くような質問じゃなかったな。
だが、これで隙は見えたぜ。
両腕を弾き飛ばし、
無防備な状態になった腹部に、
魔法付与した腕で、
ボディブロー、フック、ワンツー。
ブレイダルは不意に打たれた拳に驚き、
血を吐き出し、戦闘体制に戻った。
ブレイダルは突然の屈辱に怒り狂い、
俺に向かって声にならない雄叫びをあげる。
「見たか?使うのは久々なんだぜ?これ。
確か名前は、秘伝の奥義だ。
へへっ、どうだブレイダル?
殴られた気分はよ?」
「……最高だな。
我に一撃を喰らわせるとは。
やはりギーモンなどとは比べものにならない存在。
拳のみで我にダメージを負わせるとはな。
くくっ……くふはははは!
面白い!面白いぞ!
ハーキュリーズはこうでなくてはな!」
だぁ、こいつ、頭のネジ逝かれてやがるな。
俺には到底こいつの考え方が理解できねぇ。
突如、全身が恐怖に襲われた。
間合いは一瞬の隙に詰められ、
腹部を刺すように殴られる。
内臓が破裂したのでは無いかと、
疑いもなく思うほどの衝撃が、
体を撃ち、ミシミシと骨が砕ける音が脳裏に響き、
俺は宙を浮いた。
再び地面に足を付けようともがくが、
薄れた意識がそれを許さない。
結果として、結局また地面に叩きつけられた。
「ロミー!」
叫び声が聞こえ、ヴェナが駆け寄ってくる。
制止させようとするが口がうまく動かない。
血が溢れ出し、喋ることすらままならない。
「あぁ、ロミー、死んじゃいや、
まだ、まだよ!お願い!」
なんだか何処かで見た流れだ。
今度は上手く治療してくれよ?
「高度休復!」
いただだだだ!?
今度は傷が重すぎたか。
完全には治りきっていないが、
十分だ。
一度ぐらいなら拳を当てられる。
「はは、ヴェナも、大袈裟だなぁ」
「心配させちゃ嫌よ、ロミー?」
必死に笑顔を作ろうとしている。
どうせ最後だ。
胸の内、語り合いたいな。
「ブレイダル!少しだけ時間を貰ってもいいか?」
「折角面白くなってきたというのに、
そうだな、少々だけなら構うまい。
どうせ長かれ遅かれ、虫ケラのような命、
いつでも頂戴出来る故な?」
へっ、こういう時だけ話の分かってくれる男だな。
きっと、こいつも昔は普通の人間だったりしてな?
あながち間違いじゃ無さそうだ。
とりあえず、ヴェナに言っとかないとな。
「こんな時間を取ったのには理由があるんだ。
一つ聞いておきたくてな。
ヴェナ・ヒューゼンベルクさん。
俺と婚約をしてくれないか?」
ヴェナの目が見開かれる。
「そんなの……そんなの決まってるじゃない!
当然、当然よ!どうか、こちらこそ!
つまり…当然、イエスよ!
なによ、なによ、なによ!
今までそんな事、一度も言わなかったくせに、
なんで、なんでそんな分かりきったことを、
今更聞いちゃうのよ、ロミーの大馬鹿!」
ヴェナの顔は歪み、堰を切ったように、
涙が溢れ始めた。
「貴方の事、ずっと好きだった!
ずっと、ずっと!
貴方が女だと分かった時も、
貴方が奴隷になった時も!
今までずっと、好きだったのよ!
愛してた!私は貴方と一緒に、添い遂げたい!」
「はは、添い遂げる……か。
あと本の数分だけど、こちらこそよろしくお願いします」
ふふん、良かった。本当に良かった。
この戦いは最初から負け戦だった。
どうせ死ぬなら、死亡フラグを使って死にたかったんだ、ははは。
いや、嘘さ。今回は本当に嬉しい。
彼女だけは、守らなきゃな。
「良いか、ヴェナ。
こんな考え方は、もう古いかもしれないけど、
俺はお前の夫になった!
つまり君を守るのが夫である俺の役目だ。
だから、お前は、命に代えても守ってみせる!」
よっしゃぁ!決まったぜ。
さてと、準備は万端だな。
あっ、そうだ思念通話を……。
(ハデス、どうだ?行けるか?)
(数分です、どうかご無事で)
数分か。無茶かもな?
だが、やるしかない。
「じゃ、行くか。
待たせたなブレイダル王!
早速続きをやってみるか!」
思い切り地面を蹴り上げる。
この一撃にかけるには、
もう魔法付与など、
やる魔力もないのだ。
「ロミー!」
転生したから今がある。
守るべきものが居るからこそ、
戦いを続けるのだ!
この生き様を、見守ってくれよな、
みんな!
「うおおおぉぉぉらあぁぁぁぁぁぁ!」
本気で右腕に力を入れ、
ブレイダルに殴りかかる。
結構な距離を久々に叫びながら走ったため、
肺は悲鳴を上げているが、
この際お構いなしだ!
持てる全魔力を右手に込めて振り落とす。
大爆発が生じ、粉塵が舞い上がる。
確実に俺の腕はブレイダルの肩に当たった。
「人生はうまく行くとは限らない、
だったか?皮肉なものよな」
「ちっ、この程度じゃ、やっぱ倒れねぇよな」
ブレイダルの腕が俺の腹部を貫通し、
鮮血で出来た薔薇が咲く。
傷口が熱い。兎に角燃えるように熱い。
転生前、これは死ぬ前に経験したのに似てるな。
「俺はなんとしてでも、時間を稼がなきゃいけねぇんだよ……」
「無様だな。必死に生にしがみ付き、
実に愚かだ。人間は時折理解出来ぬ節がある」
不意にハーキュリーズの意味について、
思い浮かぶ。
確か、ヘラクレスの英語読み、だっけか?
「なぁ、ヘラクレスって、知ってるか?」
死にかけの男から出た、
予期せぬ一言に、ブレイダルは戸惑っているな。
何かしらこっちでも意味があると見た。
「もちろん、知っている。
初代ハーキュリーズの本名だ。
何故其方がそれを知っておる?」
「じゃ、こんな伝説は知ってるか?
ヘラクレスは不死身だったって事は?」
「まさか貴様!?貴様は既にもう?」
何を勘違いしてるのかは知らんが、
俺はまだ不死身じゃねぇよ。
普通に死にかけだろ。
「こんな事になるなら、
ヒュドラの毒ぐらい、もっときゃ良かったな」
(ハデス!まだか!?)
(あと少しです!)
「はっ、よもや死にかけの男から、
このような懐かしい話が聞けるとは、
夢にも思わなかったな。
では奴の最後は知っておるか?
自殺だ。あの強大な男も、
孤独には耐えきれず、
毒にはのたうちまわった。
貴様も似たようなものよな」
「へっ、言ってくれるじゃない?
精々鏡でも見ろよ」
(早くしてくれ!)
(準備完了です、いつでもどうぞ!)
「さてと、ブレイダル。
いい天気だし、一緒に花でも見て見ないか?
まさにこんな日こそ」
思い切り腹筋に力を入れ、
ブレイダルの足に土魔法と重力魔法を施す。
「審判の日にはピッタリじゃないか?」
ブレイダルは危険に気づき、
束縛から逃れようとするが、
もう既に遅い。
俺からはもう逃げられない。
「ヘラクレスゥゥゥゥゥァァァァァァァア!」
さぁ、生き残ってくれよ、ヴェナ。
王の石から放たれる、
超濃度の魔力爆発は神をも飲み込みかねない、
神災を試験世界に齎した。
草木は燃え上がり、消滅し、
竜巻は吹き荒れ、海は波を荒立てる。
まるで地上に太陽が落ちてきたかのような衝撃が、
地面を包み込み、全てを飲み込んで行く。
テオトルのおかげで結界が破られる事はないが、
逆にエネルギーが逃げきれず、
反射し、再び地上を地獄へと変貌させる。
轟音が鳴り響き、雷が落ちる。
「お疲れ様でした、良く頑張ったね」
聞き慣れた声が耳に響き、
俺とブレイダルは存在を消した。




