第46話 『最終決戦・中編』
「さてさて。どう調理されたいのかしら?」
いつしかの優しい目は既に無く、
絶望や憎悪が渦巻いている。
俺達を恐らく敵としか見ていないだろう。
何故だ?何故こんなことに?
考えられるとすれば、
ハリウスへの一途な想いとか、だろうか?
奴は昔から鈍感な所がある。
俺が女だと気付かなかったり、
公衆の面前でボーラにキスをしたり。
待ち合わせには一時間程度平気で遅れる人だ。
今思い返せば、彼はいつも鈍感だった。
「さてロメディア君。
どんな死に方がお望みですこと?」
彼女からは一切の魔力を感じられない。
確か昔から剣士タイプで、
武闘大会の時も一刀両断の抜刀術だったはず。
つまり魔法が使えない頃の俺の様な、
魔法付与を使いこなす、
魔法剣士の様なものだろうか。
それに対しハリウスはちゃんとした剣技を披露していた気がする。
武闘大会の時に剣を交えた他の奴は、
瞬く間に剣を飛ばされ、
降参せざるを得ない状態だった。
彼が今、持っている剣は、
リーチが長い。
魔法が主戦力のヴェナと、
精霊格闘技と大魔道の使い手とはいえ、
俺だって真面に戦えば負けるだろう。
とすればどう勝つ?
考えろ。道は常にあるはずだ。
魔力感知をし始める。
目の前の結界の所為で、
ほとんどが妨害されているが、
微かに感じる魔力がある。
隣にはヴェナが。
後ろにはギーモン達の強大な魔力が。
そして目の前にはハリウスとボーラが。
その中に、睨み合う俺達の間に、
まるで生まれたての赤ん坊の様に、
明るく素直な魔力であるのに、
体もでかく、強大な魔力を持っている者がいる。
そうか、テオトルは確か。
自我を持たせたとか何とか言っていた気がする。
なるほど、だから勝手に。
地中から黒く大きい物が飛び出し、
ハリウス達に殴りかかる。
突然の事にボーラは反応できなかったが、
拳はハリウスの剣で受け止められていた。
冥界の王の拳を止めるとは。
創造神の魔改造によって、
恐ろしい力を手に入れているであろう筈なのに。
「契約者よ。呼ばれた気がして出て参ったが、
これはどう言った事だ?
何故此奴らがここにおる?
我は今まで其方に使われていた時の記憶は、確と残っておるのだ。
これは燃え盛る黙示録の頃の記憶であろうか。
どこと無く懐かしい記憶である。
そこでは楽しそうな其方が見える。
何故此奴らと戦うのだ?
友では無かったのか?何故此奴らは其方らに剣を向ける?
何故、戦わねばならぬ?
分からぬ。我には道理が一切分からぬ。
我は此奴らが好きだ。
共に魔獣を倒したではないか。
共に風呂へ入ったではないか。
共に同じ飯を食べたではないか。
それなのに何故、何故殺し合わねばならぬ。
また共に飯を食おうぞ?
共に旅へ出ようぞ?
懐かしい話を酒を飲みながら夜が更けるまで続けようぞ?
我には人間は分からぬ。
だが我にもこれが不条理だという事は分かる。
戦いなど辞めるべきだと我は思う。
世界システムの所為であろうか、
我は今まで何度も殺し合いの末を見てきた様な気がするのだ。
いつも悲惨な最後を迎え、
結局は辞めておけば良かったなどと、
ほざきおるのだ。
始めたのは其奴だと言うのにも関わらず、
結局は辞めておけば良かったなど、
自らの決断を否定するのであれば、
元からやらねば良いのだ!
だのに何故人間は愚行を繰り返すのだ?
教えてくれ契約者。
このまま戦い続けて何方かに利が有るとでも言うのか?有ると言うのであれば、
この小娘も、男も、
命令通りに抹殺しよう。
信じておるぞ、契約者よ。
其方は優しい男、もとい女だ。
友などは傷付ける気は無いであろう?」
実は俺も呆気に取られている。
魔改造されたとは言え、
まさか喋ることが出来るとは。
とは言え言っている事は正しい、
正論だ。
彼が居なければ恐らく俺たちは戦いに入り、
何方かが死ぬまで戦いを続けて居ただろう。
ボーラは迷っている顔をしている。
暗く絶望に打ちひしがれた顔の中に、
優しく、暖かい感情が出てきている。
ハリウスは冥界の王の拳を受け止めるのに必死そうだが。
「そうだな。
うん、その通りだよな。
俺は戦いたか無いね。
ハリウスには言ってなかったけど、
俺は女だ!昔っから今までずっとな。
ボーラとも一緒に風呂に入ったよな。
楽しかったな、あの頃は。
刺身を奢ったり、
遠足だったり、
そう言えばハリウス、
お前は御守り今でも持ってるか?
俺は奴隷にされた時に無くしちゃったんだけどよ。
あの剣の形をしたやつだよ。
俺が少しだけお金払っただろ?
あれ返して欲しいんだけど!
なんてな」
ハリウスが戸惑った顔をしている。
複雑で、納得がいかないという様な顔だ。
しばらくすると、
段々とその顔は崩れ、今にも泣きそうな顔をし始めた。
冥界の王はそれを感じ取ったのか、
笑顔を見せてくれた。
ボーラにも手を伸ばし、
魔力を放出したと思えば、
ハリウスとボーラは膝から崩れ落ちた。
気絶させてくれたのだ。
無用な戦いを避けさせてくれたのだ。
「契約者よ。
彼処で其方が戦闘を選んでおったら、
我は迷いなく其方を消し去るつもりであった。
それでこそ我の契約者よ。
さてプランBも失敗であるな。
プランCは確か、総力戦であったかな?
それが失敗すれば我の爆発で皆死亡だ。
創造神は失敗すると言ってはおったな。
彼女がそう言うのであれば、
間違いなくそうなのであろう。
だがな契約者、
我は其方の諦めない所が、
誠に好きで有るぞ」
冥界の王に褒められる時が来ようとは思っても見なかった。
後は彼奴だけだ。
全滅の運命だろうと、
もう腹はくくってる。
最後まで足掻かせてもらうぜ。
ブレイダル王さんよ。




