第45話 『最終決戦・前編』
何年ぶりだろうか。
当時は、二度とこの地に足を踏み入れることは無いだろうと思っていた。
両親が殺され、村を焼き払われ、
俺は奴隷として売られた。
正直、あまり良い思い出があるわけではない。
ヴェナ達と戦って、昼食を奢らされたり、
俺がハリウスに、女であると伝えていなかったせいで、
悲しい思いもしたものだ。
今では懐かしく、良い思い出だ。
「プランAを始めようか。
お爺ちゃんとワーザック、それにヴェナはここで待機。
行くのは、ブレイダルに顔を知られていない、
ヴォーラフだけ。
もしかしたら、死ぬ可能性だってある、
行けるか?」
「元より死ぬつもりでここに来てるんだ。
今更何言ってんだよ、辛気臭いぜ、兄弟!」
「失敗したら、これを押すのだぞ。
頼むから、死なんでくれな。
妾を一人にさせるでないぞ?」
俺が筋トレをしている間に、
ヴォーラフもギーモンと修行をしていたようで、
気配を完全に消すような事をしたそうだ。
ヴォーラフがプランAを実行している間に、
ギーモンとワーザックはプランBの準備だ。
この2人は試験世界内最強の魔術師である。
故に彼等が行うのは結界魔術。
失敗してしまえば最後、
総力戦に持ち込むしかない。
結界魔術には依代を対象の周り四方向に置く必要がある。
今回は最高神テオトルから、
世界樹の枝を頂いている。
試験世界では最大効果の結界、間違えても失敗することは無いと思いたいものだ。
すでにヘリル王国内には市民の姿は見えない。
約束通りテオトルが全員避難を済ました後だ。
しかし避難をさせた所で意味はないだろう。
この世界が丸ごと爆発するようなものだ。
世界の果てにいようと爆発が届く。
しかし、偶々生き残ってしまう奴もいるのだ。
例えば妖精園出身のボーンや、
逃げ出した子龍などが当たる。
そういう方々を救う為に、
俺は決断を迫られたというわけだ。
この中で必ず一人だけ生き残る。
テオトルの加護だ。
これだけは彼女もオヤツをどうこうする問題ではないらしい。
「準備は出来たか魔王の娘よ!
最大出力で、父に勝るが良い!
今こそ、英雄を超えるのだ!」
ギーモンからは赤や青、
ワーザックからは紫や黄色の光が出ている。
炎魔法、水魔法、闇魔法に光魔法だ。
風、土魔法は、この周りに覆う様に作り出すのだ。
全魔法がぶつかれば大爆発が起きるのだが、
この原理は王の石に使われている。
あの石は魔法がぶつかる直前の物を石にしただけなのだ。
魔法は魔法でも世界樹内最恐の魔術なのだが。
既にテオトルはこの世界に大結界を張り巡らせている。
爆発が他の世界に干渉するのを防ぐためだ。
「後は、祈るだけじゃのぅ。
ヴォーラフが成功すれば、
成功してさえくれれば良いのじゃが、
おそらく、無理じゃろうなぁ」
「もう少し彼奴の顔をじっくりと見ておけば良かったのぅ。
しんみりしても仕方は無いのだがのぅ?」
いつも強く弱音など吐かない二人が、
この様にしんみり話していると、
こちらまで悲しくなってしまう。
ヴォーラフが死ぬ。
考えたく無い可能性だ。
あんなに優しくて、
仲が良く、俺を兄弟とまで読んでくれた。
奴隷になってから今まで、
ずっと親身になって考えてくれたりした仲だ。
「……………あぁ……畜生」
後悔と怒りが同時に湧き出てくる。
どこかで似た様な感覚を覚えた気がする。
確か、あれは地球で、
死ぬ直前に自分の人生にうんざりした時だ。
こっちでもまた。
うんざりする瞬間が来るとは思ってもみなかった。
きっと楽しく、チート能力を使って、
世界征服なり魔王討伐なりを、
やるんだと、楽しみにしていたのだ。
だが待っていた運命は、
唯々、魔法が使える世界。
別段、元の世界とは変わりない。
科学か、魔法かだ。
それでも、平凡な人生が送れるのなら、
まだ良しだったかもしれない。
こんなに苦労するだなんて。
カルマの法則だったっけ。
楽したやつはいずれ苦をするっていう、
因果応報のやつ。
前世でも結構苦労した気もするんだけどな。
「ロミー、残念じゃがプランBに賭けよう。
それで無理なら総力戦、
それでもダメだったなら腹をくくれい。
最終手段の出番じゃ」
ギーモンの手には、
赤いランプの付いた箱が握られている。
ヴォーラフの生体反応が消えた時に、
光がつく様にしている。
魂の考え方がどうだと、
テオトルは言っていた。
ヴォーラフはどんな最後を迎えたのだろうか。
それを知ろうにも、もう遅いかもしれない。
何故なら既に結界にはヒビが入り、
内部の様子が見える様になって来たからだ。
「貴様等許さんぞ!我を侮辱しおってから、
糞虫の様に動きおって!
長く苦しみを与えて殺してやる!
首を差し出す覚悟は出来たか!?」
偉くご立腹のようだ。
こりゃまずいね、魔力の量的な問題で、
すごいことになってるよ。
「我はギーモンを片付ける。
貴様はロメディアとヴェナをやれ!」
「仰せの通りに」
ヴェナの顔が強張る。
俺も側から見れば驚いている顔だろう。
目の前にいるのはかつての友人で、
バカップルなどと罵った事もある、
ボーラとハリウスが剣を俺達に向けているのだ。
「あら、ロミー?今回私達が勝ったら何を奢ってくれるのかしら?」
「何もいらねーよ、強いて言うならお前の命だな」
友人は既に敵と化していた。




