第16話 『土人形大会・後編』
激しい金属音が鳴り響いている。
避けられたり防がれたりで互いに全く譲らない戦いだ。
シギーのゴーレムは、
土魔法で壁を作られたり、
全てを避けられたりで、
彼の自慢の攻撃力が生かせていない。
テッサの剣は特に警戒されていて、
避けられ続けている。
一度ワットを切りつけ、
魔力が漏れだしたが、
ワットは土魔法で穴を埋めた。
素早い判断だった。しかし埋めた部分は魔力に馴染んでいないため、
ワットのゴーレムは鈍くなっている。
その点ではテッサは成功したといえよう。
アコールは全ての攻撃を見切っている。
しかし決定打に欠けており、
大したダメージを与えることができていない。
しばらく均衡した戦いが続いていた。
攻撃をして、避けられ、防がれる。
観客が少し飽き始めた時だった。
テッサが動いた。
剣に魔法付与をしたんだ。
水属性魔法付与だ。
周囲の土が泥に、そして沼になっていく。
アコールは沼の範囲から抜けた。
ワットは自分の下の地面のみ固めている。
シギーが逃げ遅れた。
ゴーレムは沼の中に沈み込み、
身動きができなくなっている。
「くそっ!くそっ!動け!動いてくれ!
あぁ!駄目だ!頼む!動けぇ!」
ゴーレムは必死にもがくが、
もがけばもがくほど沈んでいく。
テッサは無慈悲にもシギーゴーレムの頭を、
跳ね飛ばした。
「おおっとぉ!シギーが脱落した!
この健闘に拍手をお願いします!」
シギーは泣き崩れて、
父であるアバルディア王が慰めている。
微笑ましい光景だ。
だが残念、残り3ゴーレムだ。
再び硬直状態に陥る。
いや、テッサが主導権を握っていると言っても過言ではないだろう。
沼のせいでアコールはワットに近付く事もできない。
ワットは徐々に魔力切れに近づいている。
それに対しテッサの剣は沼の上を自由に渡れる。
その上魔法は剣由来のため魔力切れを起こさない。
この勝負、テッサが勝ったな。
予想通りワットは魔力切れを起こし、
操作者が倒れた。
魔力の供給を切られたゴーレムは、
足場の土が消え、沼の中へ落ちて行った。
「ワットも脱落!魔力切れを起こした模様です!
治癒魔法の先生がワットを休憩所へと連れて行きました!
後はテッサとアコールの一騎打ちですが、
このままではテッサが勝ってしまいます!
さぁどうするアコール!この恐ろしい水にどう対抗していくのか!」
対抗も何も出来ないんじゃないだろうか。
まず近づけないし、このままじゃずっと戦況は動かないだろうし。
アコールは勝負を仕掛けた。
助走を付けて、テッサのゴーレムに殴りかかった。
しかし、カウンターを取られた。
剣で腕を切り落とされ、魔力が放出された。
ゴーレムはゆっくりと動かなくなっていく。
テッサの勝利だ。
「勝負ありぃぃぃ!
勝者!テッサァァァ・アァァァリムスゥゥ!」
アコールが泣き崩れてしまった。
テッサは勝ち誇った様な顔をして、
観客にアピールしている。
「勝った!勝ったぞおおおお!」
観客が盛り上がっている。
優勝者に用意した賞品を取りに行こうと思った矢先だった。
「ロメディア先生!
あなたのゴーレムと勝負がしたい!
今なら貴方に勝てるかもしれない!」
ほう?言うねぇ?
俺に勝てるかも…だって?
よし分かった乗ってやろう。
「ふむ、良いだろう!
その勝負、買ってやろう!」
俺は冥界の王を呼び起こす。
畏怖の声や、賞賛の声、色々な声が聞こえる。
しかし共通して言えることは、
その巨大さ、迸る冷酷なオーラは、
観客の息を飲む一種の美しさとも言えるほどだった。
「ロメディア先生、良いんですか?
あの剣はアズーラ・マーデルの特注品、
いくらロメディア先生のゴーレムとはいえ…」
「心配には及びませんよ。
リーモル先生と戦っても勝てる可能性だってあるんですから」
リーモルは驚いた様な顔で俺を見つめてくる。
俺は嘘なんて言ってないさ。
それほど強いのは確かだ。
「おっふぉん!優勝者テッサくんの要望で、
エキシビジョンマッチを開催することになりました!
どうか引き続き、ゴーレム武闘大会をお楽しみください!
今回戦うのは、
皆様ご存知、今大会の優勝者!
テッサァァァァ・アァァァリムスゥゥ!
彼が持つ剣は名工アズーラ・マーデルが鍛え上げた特注品の剣となっており、
対ゴーレム戦で、最強の剣となっております!
対する相手は、
我が校最年少教師!
近年稀に見る拳闘士で、
最強の武術と言われる、精霊武術の使い手にして、
魔法道具としてのゴーレムの生みの親!
扱うゴーレムは冥界の王!
今回の勝負、どちらに女神が微笑むのか!」
テッサが剣で冥界の王を切りつける。
完璧に決まった。
観客は嘲笑した。先生は先生でもやはり子供。
アズーラ・マーデルの剣の前では無力だ、
生徒に負けやがった……など、色々な声が聞こえる。
「ロメディア先生も大したことがないですね!
僕の剣の恐ろしさを知っていながら、
剣を避けないだなんて!」
「おいおい、甘いぜテッサくん?
誰がやられたって?よぉく見てみな?」
傷一つ付いてない黒いボディに、
刃こぼれをした剣を持ったテッサのゴーレム。
観客から歓声が起こった。
テッサは驚いた顔をして、
何度も剣を振るい続け、
剣は完全に柄から外れた。
観客は最早唖然としている。
生徒内最強で、名工の剣を切りつけたのにもかかわらず、
目の前の化け物は、
首を傾げ、腕を組んだまま対戦相手を見つめている。
この強さの秘密は、
内部にある全属性付与の魔法石による結界で、
俺の魔力供給関係なく、全属性に対し結界を張っている。
つまり冥界の王の結界より強い魔力を叩かなければならない。
アルクでも無理だった難行だ。
テッサには出来るまい。
「どうしたんだい?テッサくん?
まさかその程度…なんて言わないよね?」
だが、俺はここでわざと挑発をしてみる。
挑発というものは時に素晴らしいスパイスになるもんさ。
例えば今の様な状況で使えば、
さらなる成長だって見込めるかもね。
「ぐ…ぐぐぐ…がぁぁぁぁ!」
獣の様な雄叫びをあげ、
無我夢中で殴り続けてくる。
もちろんその程度の攻撃では冥界の王はビクともしない。
「なぁテッサくん。
奥の手…とか、必殺奥義!とかないのか?
まさかあの剣が奥の手じゃないだろう?
こう、俺を驚かせてみろ?
そしたら勝ちにしてやるよ」
俺は悪役の様に言い放った。
テッサは突然ニヤリと笑った。
----テッサ視点----
くそっ!どうなってんだ!
パパはあの剣があれば最強って!
なんで先生のゴーレムは壊れないんだ!
さっきから余裕そうな顔をしやがってぇ!
「なぁテッサくん。
奥の手…とか、必殺奥義!とかないのか?
まさかあの剣が奥の手じゃないだろう?
こう、俺を驚かせてみろ?
そしたら勝ちにしてやるよ」
奥の手…必殺奥義?あるわけな……い…こともないぞ?
確か、パパが言ってたはずだ。
えっと…なんだっけなんだっけ…。
思い出せ…思い出せ、僕…。
そうだ!魔法石の暴走のさせ方だ!
どうするんだっけ…。
確か石に亀裂を当てて、
そこに全魔力を打ち付ける…だったはず!
俺は顔が自然とにやけるのは分かった。
先生に自分の言ったことを後悔させてやる!
驚かせば勝ちだ!
僕の買った魔法石の爆発は、
第4階位魔法より、少し強いくらいだって、
パパが言ってたはずだ!
勝てる!僕のゴーレムからそれぐらいの攻撃が出れば、
先生は驚くに決まってる!
「ロメディア先生!驚かせば勝ちなんですよね!」
「おうよ!やってみな!俺はちょっとやそっとじゃ驚かないぜ!」
甘いですね先生も…。
僕はゴーレムの背中に穴を開けて、
魔法石を露出させ、
魔法を打ち込んだ。
露出した魔法石に亀裂が入り、内部から光が漏れた。
俺はそこに思い切り魔力を込めた。
意識が遠のきそうになり、供給をストップした。
ふと先生に目をやると、
さっきと変わらず腕を組んで、
つまらなさそうにする顔が見えた。
光は辺りを包み、そして爆発した。
目の前にいる冥界の王も、
爆発に巻き込まれた。
これで僕の勝ちだ!
少なくとも先生は驚いただろうし、
あの爆発じゃ冥界の王だって、
無傷じゃ済まないはずだ。
だけど、もちろん僕のゴーレムは消え去った。
勝利条件は満たしたはず!どうだ!
「……ふ、ふふ…はははは!」
舞い上がった煙の中から、可愛らしい笑い声が響いた。
笑ってる?この状況で笑ってるのか?
「いやぁ…驚いたよ。まさか魔法石が、
爆発するだなんてね。
俺も初めて知ったよ。良いこと知った!
よし!俺を驚かせてくれたし、
約束通り、テッサ君!君の勝ちだ!
おめでとう!」
「あり、がとうございます?」
思わず腑抜けた声を出してしまった。
あまりにも呆気なく勝ってしまったので、
がっくり疲れが出てしまった。
腰からへなへなと倒れこみ、
煙の中を見ていた。
大量の土の塊があり、その近くに大きな影が蠢いている。
緑色の光を出し、黒いボディを持った、
冥界の王は無傷だった。
あの爆発で無傷?はは…巫山戯てる。
僕は冥界の王を見た後すぐ、
そのまま意識が遠のいて行った。
----ロメディア視点----
あぁ、びっくりした。
壊れたかと思ったよ。
テッサの魔法石の大きさでこの威力だとすれば、
俺のゴーレムを破壊すれば、
どうなるだろうか。
いつか使う日がくるかもしれないな。
ちょっと覚えておこう。
さて、急な勝負で忘れていたが、
優勝賞品だ。
ゴーレムの素材となる腕のパーツだ。
俺が作り上げた。
鉄のような硬さに、美しい彫刻。
これを使えば、きっとシギー並みに強い攻撃力が生まれると思うが……。
テッサは意識を失ってしまったし、
賞品の授与はまた今度だな。
「ロメディアく…いや先生。」
「どうしました?」
「その冥界の王は、なぜそこまで硬いんです?」
「リーモル先生とあろうお方が、
タネを見破けなかったんですか?
良いでしょう、種明かしです。
タネは単純、いたって簡単。
聞くとつまらなく思えてきますよ。
内部にある魔法石が、
全属性耐性石なんです。
つまり、全属性に結界が貼られているんですよ。
先生は納得したような顔で、
うんうんと頷いている。
本当に分かったのだろうか?
とにかく今日は疲れた。
後のことはリーモル先生に押し付けて、
家帰って寝よっと。
「勝者!ロメディアァァァァ・ハーキュリィィィズ!
最年少の先生はやってくれました!
なんと強い!あの爆発にも、
アズーラ・マーデルの名剣にも、
全く相手にせず、冥界の王は帰還しました!
素晴らしい戦いを送った両者に、
盛大な拍手をお願いします!」
リーモルの叫び声を後ろに、
俺は家に帰った。
入り口でボーンから降りて、
出迎えてくれたメリッサを抱きしめる。
今日の晩御飯は豪華にしてくれたらしい。
ふぅ。やっと一年の大行事が終わった。
次の大行事は修学旅行だ。
確かしばらくウサの街のドナルド・エフダさんが、
この村に滞在してくれるはずだ。
明日にでも挨拶に行って、
色々と話をしよう。
こうして俺の教員生活の2年は、
順調かつ、流れるように過ぎて行った。
教員生活1、2年目をここで終わらせて見ました。
ちょっと強引だったような気もしますが……。
次話からは修学旅行に入ります。
それが終わればまた次の章かなぁと、
考えております。




