第13話 『二度目の入学式』
学校は新入生で賑わっていた。
母親に抱きついて泣き出す者、
誇らしげに胸を張る者、
大量の執事を連れている者。
見た感じ皆、違う境遇だ。
貴族もいれば、平民もいる。
だが、それらが入り混じって勉学をする、
というのが重要なのだとリーモルは言った。
遠足の時に、
"人手不足だから教員になってくれ"
とリーモルに誘われていたのだ。
最近はギーモンも王都へ向かうことが多く、
余りお小遣いが入らなかったのだ。
だからこそ、リーモルに提示された、
月給、銀貨5枚というのは、
俺にとっては満足のいく値段だったのだ。
今のところ買うものもなく、
ギーモンから昔貰ったお小遣いは、
金貨数枚、銀貨は数十枚、
銅貨に至っては百数枚に達している。
異世界でのお金の価値は、
常に変動しているが、
平均していうと、金貨1枚が銀貨30枚程度、
銀貨1枚は銅貨70枚程度と同じだ。
銀貨1枚が1000円程度と考えると、
銅貨は1枚15円程度、
金貨は1枚あたり3万円程度となるだろう。
月給は銀貨5枚=つまり5000円程度だ。
6ヶ月働けば金貨一枚分=つまり3万円程度になる。
正社員としては安い気もするが、
今の俺は6歳の子供だし、
第1正社員ではなく、いつでも止めることが出来るような契約内容だ。
……と話がずれたが、
つまり6歳で働き始められるのだ。
前世では親の死によって、
フリーターすらやめたが、
この世界ではうまくやって行こう。
よし、いける気がしてきた。
俺の担当するクラスは、
新入生の2階位クラスで、
最も貴族の多いクラスでもある。
今回の新入生にはヘリル王国以外の、
人族の国から王家の子が来ているらしいので、
丁重に扱えと言われている。
ちなみに1年生の武闘大会はなくなった。
俺が昔、近くの森を吹っ飛ばしたせいなのだが、
正直この行事が一番危険であったため、
俺としては安心である。
入学式はやはりリーモルの、
有り難く素晴らしい話を、
新入生全員が聞き、各クラスへと向かう。
俺のクラスに人が集まり切ったのを見測り、
クラステントに入る。
「今日から君達の先生になります、
ロメディア・ハーキュリーズと言います。
去年までこの学校の生徒だったので、
分からないことなどがあれば、
是非、僕に聞いてください」
親からどよめきが起こった。
若すぎる、本当に教えられるのか、
うちの子より弱そう、絶対に弱い。
好き勝手言われるのは嫌いだが、
今の俺の立場は教員なので、
ここで怒鳴ってしまったりすれば負けだ。
幸い、生徒達もちゃんと聞いてくれている。
いや……、顔を見合わせて話を始めている。
あの子見た感じ弱そう、倒せば先生になれるかもしれない。
なれねーよ……。
言いたい言葉をぐっと抑え込み、続ける。
「明日からの授業では、
朝のランニングや、魔法付与分野を担当します。
魔法付与について、
分からないって子はいるかな?」
親の方から手が上がった。
「その魔法付与というのは、
危なくないんですの?
例えば魔力を込めすぎて爆発したりとか、
魔力込めすぎて、人を殺めてしまったりしないんですの?
本当に安全な授業ですの?
第1先生がそんなに小さいのに、
この子達をまとめる事なんて出来ますの?」
確かにごもっともだ。
だけど、今の所爆発したっていう話は聞かないし、
人を殺める力を子供が出せるかも危ういところだ。
「ご安心ください。
爆発するということはございませんし、
お子様の安全は保障いたしましょう。
それに……」
親の顔や、生徒の顔を見渡す。
見たところ生徒は弱そうだし、
親の方は、ある男を除いて弱そうではある。
ある男とは、間違いなく王族の血筋だろう。
見るだけで圧倒される雰囲気に、
荘厳なオーラや、腰につけた美しい剣は、
いつしか見た、ブレイダル国王に似ている。
「それに、もし心配であるならば、
私と戦っていただければ、分かるかと」
親達が再びどよめく。
このような子供ならば、簡単に勝てるだろう。
口々に我こそはと手を上げる貴族の中、
王族は静かに、様子を伺っていた。
「静まらぬか皆の衆!
この者に勝てるものなどこの中には、
我と、我妻しかおらぬわ!
その様な事を見抜けずに、
何が貴族だ!恥を知れ!」
貴族達はその威圧にたじろぐ。
彼は他国の国王だ。
だが、ヘリル王国は文化で発展したのであれば、
彼の国--アバルディア王国--は、
武力や軍事力によって発展してきているのであった。
ヘリルとアバルディアが戦争になったとすれば、
間違いなくアバルディア王国が勝利し、
弱った所を多種族に突かれ、
人族は滅亡を迎えることになる。
それはまずいという事は、
どの貴族も知っている。
例え他国といえど、その地位は我らが王と同等。
無礼な態度は許されず、
我らが王がいない際は、他国の王に従え。
古くからの貴族の教えである。
先程まで騒いでいた貴族は口をつぐみ、
静かに俺の方を向いて、
話を聞いてくれる体制になった。
「よろしいでしょうか?
……ありがとうございます。
では、明日からは朝から昼まで、
お子様を預からせていただきます。
お子様方のご健勝をお祈りしております」
その日のホームルームは終わり、
生徒は皆、友を作りながら帰っていった。
懐かしい風景を見ている様で、
胸が締め付けられたが、
あいつらにまたいつか会えるだろうか?と聞かれれば、
根拠はないが、会える!と確信を持って言える。
これからもあいつらに会うだろうし、
迷惑だってかけるかもしれない。
あった時の為にいろいろな話を用意して、
楽しく語り合うのだ。
前世できなかった事を、
今世でやってやるのだ。
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夕方までの仕事を終えて、
家に帰る支度をしていると、
いつの間にか校庭で、
リーモルがアバルディア国王と会話をしていた。
馴れ馴れしい感じでとても不思議だったが、
アバルディア王も愉快そうに手を叩いていた。
友達なのだろうか?
恐らくこの間、修学旅行の時にしてくれた、
武勇伝に出てきていたのかもしれない。
最後の方は聞いてなかったので、
あまり確信は持てないし、
ただお世辞などを言って、笑わせているのかも知れないが、
先程の国王の威圧からみて、
お世辞で笑う様な人じゃないし、
リーモル自体、お世辞を言う人ではない。
だから恐らく友達なのだろうか?
支度が終わったので、
明日の授業に備えて、早めに家に帰った。
ボーンはずっと待っていてくれた様で、
隣につながれている馬と世間話をしている。
いや、ただ一方的に語りかけているだけだが。
「そうかい、君のご主人様も凄いね。
でも私のご主人様はもっと……」
「よぅボーン!待たせたな!」
「おっとご主人様が帰ってきました。
また明日続きは話しましょう。
はい。ご主人様、待ってはおりませんよ」
ボーンはやはり早かった。
村内の人が、ボーンを見て呆気にとられている。
家にたどり着くと、
玄関ではメリッサが待っていた。
今日起こった事を、粗方話して、
父母に話しておいてくれと頼んでおいた。
祖父はいいのか?と聞かれたが、
聞きたいこともあるし、
自分で言うと伝えた。
アバルディア王についてだ。
ギーモンにアバルディア王について聞くと、
リーモルとアバルディア、そしてギーモンは、
古い悪友だと言っていた。
懐かしく語るギーモンは、
どことなく悲しく、
それとなく楽しそうだった。
晩御飯は祭り騒ぎではなかったが、
それでも豪華な食事だった。
最近では余興で、侍女達が披露する芸を見るので、
夕食の時間はとても楽しみなのだ。
芸の内容が面白かったらボーナスを貰えるという、
ギーモンの粋な計らいで、
侍女達は日々、芸を磨いている。
お風呂には母と入った。
「大変だったね?アバルディア様に助けてもらったんだって?」
「うん……やっぱり小さいから馬鹿にされちゃうね」
「良いのよ。それがロミーの可愛い所だし、
その歳で働けるだなんて、
とっても凄いことなのよ?
胸を張って行きなさい」
母はよしよし、と頭を撫でてくれた。
安心したのか、
思い出したかの様に疲れてきた。
今日はぐっすり眠れそうだな。
明日からは、新入生と一緒に、
遠足や修学旅行を共にするのだ。
6年間学校に通うことになる。
なんだ、結局前世と対して変わらないな。
良い子が多ければ良いな。
新入生の顔や、
夕食前のギーモンの顔を思い出し、
少し不安な気持ちを胸に、
母を抱きしめて、眠りについた。
今回から少女期です。




