第12話 『卒業と就職』
卒業式はとても呆気なかった。
いつも通りのリーモル先生のとっても有難いお話を聞き、
クラスでお別れ会をする。
ハリウスやヴェナは遠くの街からやって来て、
寮で暮らしていたのだが、
今日でお別れになる。
ここで別れると、次に会うのはいつになるだうか。
正直寂しい。特にヴェナとは、家で一緒に暮らしたい。
「あっ!ロミー。卒業おめでとう!」
「こちらこそおめでとう」
会話が続かない……。
引き止めたい。だけど言葉が思いつかない。
「あのね、ロミー?言いたいことがあって……」
鼓動が早くなる。
聞かないと後悔する、そう思った。
「なんだい?言ってごらんよ」
「うん。実はね?私、ロミーに……」
声を詰まらせ、泣きそうな声になっている。
いいや、わかってる。
俺だってそんなに鈍くないさ。
「俺もヴェナが大好きだぜ」
「違うよ」
「えっ?」
「えっ?」
違うの?
卒業式に告白するタイプじゃないの?
絶対そうだと思ったのに。
えっ?だったら何を言いに来たんだ?
「ロミーにこの間奢ってもらった時、
ひどい事しちゃったなぁって。
だから…お返しに来たの」
そっちか。そっちの事は全然気にしてないけどな。
……お返し?お金を返してくれるのか?
ヴェナは俺を抱きしめた。
俺を抱きしめて、離してくれない。
いや、離れようと思えば簡単だが、
俺の体は拒絶していなかった。
彼女は俺より少し身長が高い。
だから俺よりも少し大きかったし、
とても暖かかった。
ヴェナは泣いていた。
俺を抱きしめながら、涙を枯らすまで泣き続けた。
俺もつられて泣いてしまった。
ヴェナの頭を撫でながら、
泣いていると悟らせないように、静かに泣いた。
一通り泣き終わったヴェナは、
俺に項垂れてきた。
もちろん唇は頂いたよ。悪いね。
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家はお祭り騒ぎだった。
今までも何度か祭りと表現したけど、
今回はどちらかと言えば祝宴だな。
「おぉっと!主役のお帰りだぜ!」
「ロミー!卒業おめでとう!」
「わしの孫が…孫がぁぁぁぁ!」
酒を浴びるように飲んでいる変態は、
既にいい感じに出来上がっていて、
母の顔もほんのりと赤かった。
ギーモンは終始泣いていて、
ダンディな感じが台無しだった。
母は母で、胸元の開いた服を着ていて、
そのまま俺を抱きしめてくる。
父は酒をとにかく飲み続けて、
最後の方は熟睡していた。
メリッサは部屋の隅に静かに立っていた。
一緒に食べようと誘っても、
侍女だから構わないと、
誘いを断られた。
今日ぐらい無礼講でいいじゃない…。
母が寝てしまったので、
今日はお風呂に一人で入ることになる。
メリッサを探したが、どこにもいなかったので、
どうしようもない。諦めよう。
いや、メリッサはいた。
お風呂掃除をしていたのだ。
「メリッサ!お風呂入ろう?」
急に話しかけたのが悪かったのか、
メリッサは驚いて身を動かした結果、
服が濡れてしまった。
「あっごめん。服は洗っといて、
一緒にお風呂に入ろうよ!」
「ふぅ……仕方ないですね。
分かりました。お嬢様と一緒に入りますよ」
最近は段々、一緒にお風呂に入ってくれなくなってきた。
なんだか寂しいけど、
俺が成長したって事なのだろうか。
成長するって、なんだか嫌なもんだな。
メリッサの膝の上に乗ってみる。
メリッサは困ったような顔で、俺をみる。
俺はメリッサを抱きしめる。
山は目の前だ。いい匂いがする。
のぼせてしまった。
メリッサに抱きついて離れなかったため、
メリッサものぼせている。
だが、流石はメリッサと言ったところだろうか。
彼女はすぐに服を着て、
俺の着替えを持ってきてくれた。
「お嬢様、お急ぎください。
明日から学校のお仕事なのですよ?」
おっと、忘れてた。
卒業したからと言って、
ゆっくりしている暇はない。
明日からは、学校で働くことになっているのだ。
俺は武術担当なので、
朝のランニングや、魔法付与分野の先生になるわけだ。
「あぁ!そうだった!サンキューメリッサ!」
急いで着替えを済ませ、
部屋に戻る。
「我が主よ」
うわっ、びっくりした。
ボーンだ。既に2m近い体長になっている。
正直暗闇で見ると怖い。
「あぁ…ボーンか、どうした?」
「明日からのお仕事、私もついて行ってもよろしいでしょうか?」
ふむ、登校手段ぐらいになら使えるし、
連れて行っても大丈夫だろう。
「良いぜ、明日からよろしくな!」
ボーンは嬉しそうな顔をして、
体を横たわらせた。
なんというか、とても格好いい。
王者たる風貌が現れてきた感じだ。
ボーンは寝なくても良いのだが、
俺が寝ている間に動き回って、
起こしてはいけないので、と言って、
この間から夜の間はずっと横たわっている。
「おやすみ、ボーン」
ボーンは答えなかった。
俺の邪魔をしないためだ。
精霊って言うのはなんと不憫なのだろうか。
明日の学校のことを考えながら、
ゆっくりと眠った。
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「マスター?御主人?起きましたか?」
目の前には鋭い牙を持ったトカゲがいた。
「うわっ!誰かっ助けっ!」
焦りで声が出なかった。
「御主人様、私です。ボーンですよ」
そうだった…。
今までボーンが起こしてくれた事などなく、
メリッサが起こしてくれていたのだ。
初めはメリッサもボーンを恐れていたが、
今では従者仲間という事で、
とても仲良くなっている。
「御主人様、学校へ向かわなくてもよろしいのですか?」
そうだった!今日は学校だった!
「あぁそうだね、後どれくらいで学校は始まるの?」
「数分程度ですね」
ふぅ、数分程度か。まずは服を着替えて。
数分…。はっ?
「す、す、数分!?冗談だろ!?」
「御主人様に嘘はつけません」
まじかよ…どうしようどうしよう。
徒歩で10分程度だぞ…。
車とかがあれば間に合うだろうけど…。
服は着替えた。あとは出発だ。
「急ぐぞ!ボーン!乗っても良いか?」
「もちろんです。飛ばしますよ」
頼もしい相棒だ。
だがもう間に合わないだろ…。
数分の遅刻はどうにか許してもらえないかな。
ボーンは走り出した。
しかも相当な速さで。
そうだった。ボーンを召喚する際に、
足が速いって条件を入れたのだ。
今のボーンは、某パークの用に
車を追いかけることができるレベルなのだ!
万歳!流石ボーンだ!
学校には間に合った。
生徒達が青い顔をしてボーンを見ていたが、
間に合ったのは間に合ったのだ。
「おーい!ロメディア君!」
リーモル先生の声だ。
「ってこれは竜種!?
……いや、違うな。これは精霊だね?」
「その通りです。
彼の名前はボーン。暴君ですよ」
「初めまして。私はボーン。
ロメディア様に仕える精霊です」
リーモル先生は早速ボーンを撫でている。
ボーンは特に何も言わないが、
手触りは良いのだろうか。
「こんな生き物がいるなんてね。
新種の竜種かと思っちゃったよ」
リーモル先生は感嘆の声をあげながら、
俺を案内してくれた。
まだ入学式前で、
俺が担当するクラスの子はいないので、
まずは事務関係だ。
「ロメディア君にやってもらうのは、
次の修学旅行先を決めて欲しいんだ。
実は王国関係者が最近多くて、
旅行にはならないって子が多くてね」
なるほど。確かにハリウスやニーカは、
王国出身だったな。
久々って事ではしゃいではいたけど……
「なるほど、分かりました。
今日中に決めておきます」
「ありがとう。先生は生徒と違って、
夕方まで仕事があるから、頑張ってくれ」
とは言っても、この学校はおやつの時間前ぐらいには終わるのだ。
それで銀貨5枚。良い仕事だと思う。
早速、この世界に詳しいボーンさんにお話を伺ってみましょう。
「なぁボーンさん。
人間種の領地に、第二都市ってあるか?」
「ふむ。今は丁度町長選挙が行われている、
ウサの街などはどうでしょうか。
かつてはただの沢山の村だったのですが、
それが集合して、文化や技術に富んだ街になっています」
なるほど。王国が文明だとすると、
第二都市は進化の過程が見れるわけだ。
「人間種以外の国は行けないのか?」
ボーンが少し苦い顔をした。
「そうですね…人間種では、
獣人種や龍人種のいる世界では適応出来ませんし、
出来たとしても休戦状態ですので…」
休戦状態。
かつて亜人種が生まれた際、
国家は複数に別れた。
互いに支配をし合おうとし、
人滅大戦が始まった。
しかし結果はつかず、3,000年前から休戦状態なのだ。
現在の国王ブレイダルは、戦争の終結へ向けて動いてる様なのだが、
中々難しい話の様だ。
「わかった。じゃ今回はウサの街に行こう」
意外とすぐに行く場所が終わったので、
精霊武術について、ボーンに教わった。
「精霊武術とは、
私と御主人様をリンクさせ、
一時的に私を武器化させます。
その武器を持てば、精霊同様の動きをすることができる様になるので、
ダメージを受けにくくなり、
契約精霊の特性を受け継いだ戦いができる様になります」
だそうだが、
相当難しいのだ。
武器化という概念がまず難しく、
それを持った状態で精霊の戦い方をするというのが、
また難しいのだ。
夕方まで、精霊武術の練習をしていると、
いつの間にかリーモル先生が見ていた。
「ロメディア君。行く場所は決まったかね?」
「はい、先生。ウサの街などどうでしょうか?」
先生は驚いた様な顔をする。
「ウサの街か…選挙が終わった直後だとすれば、
確かにとても良い体験になるかもしれんな…
よし!分かった!ウサの街にしようではないか!」
ウサの街か…
どんなところなのだろうか。
ともかく、初日の仕事は終わった。
まぁ精霊武術ばかりしてたんだけどね。
家に帰って、ボーンを番竜にし、
食堂へ向かう。
今日もやはりお祭り騒ぎだ。
昨日やったばかりだというのに。
「就職おめでとう!」
「ロミーは流石だな!」
「わしの孫が…孫がァァァァ!」
ギーモンは最近それしか言わないな。
孫の成長ってこんなに嬉しいのだろうか。
今日は母親とお風呂に入った。
ちょっと酒の匂いがしたが、
それでも母はいい匂いだった。
ウサの街について調べながら、
その日は寝た。
入学式までもう少しだ。
すこし時間の加速が始まります。




