第11話 『修学旅行・後編』
目が覚めた。
まわりを見渡すと、まだみんな寝ている。
外をみても、まだ日は登っていない。
絶好のトレーニングタイミングだ。
今日は何しよう。
とは言っても、腕立てとか懸垂はまずい。
ベッドが軋んで、敵や、
同じ班の奴を起こしかねない。
教員が来ると必然的に周りの奴が起きる。
こいつらが起きると、結構面倒くさいのだ。
やれ勝負しようとか、やれ上に乗ってやるとか。
今日はランニングすることにした。
王都一周計画だ。今日回る所の、下見もしておこう。
宿を出て軽く準備運動をしていると、
後ろからもう一人、俺について来た奴がいる。
リーモル先生だ。
「やぁ、おはようロメディア君。
こんな朝早くにどこへ行くんだ?
良かったら、私も連れて言っておくれよ」
「分かりました、とは言っても、
ただのランニングですよ?」
先生はずっと喋りながら俺について来る。
相当な肺活量だ。
喋りながら走っているのにも関わらず、
全く息を切らせる様子がない。
一体どれほどの実力を持っているのだろうか。
すごく気になってきた。
いつしか俺は目的を忘れ、先生に勝つために、
必死に走り続けていた。
走り終えて倒れ込んだ俺は、
リーモル先生に高笑いされた。
先生は息一つ切らしていない。
完敗だ。スタミナ量が違う。
「せ、先生は、なぜ、疲れないの、ですか?」
うわぁ…恥ずかしいわぁ。
息も絶え絶えになってるし、
凄い汗で、ベッタベタになっている。
先生はよくぞ聞いてくれたとばかりに、
過去の栄光について語ってくれた。
戦争を体験し、死にかけたこと、
様々な国の王と話したこと、
凄い魔法を見たこと。
疲れない理由と何の理由があるのか分からないが、
先生は熱心に語り続けてくれたけどさ……。
疲れない理由?
全く分からなかったよ。
何の関係もない話しかされなかったよ。
部屋に戻ると、みんなが起きていた。
「おっ、ロミーおかえり!トイレ?」
「えっと…うん。そう言うことにしとく」
机の上に所々赤丸のついた地図が広げられていた。
王様が勧めてくれたところに赤丸をつけている。
勧めてくれた店は以下の場所である。
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観光スポット
王国劇場
〜オススメ作品〜
群盗人形
ヴァルキャン夫人
青と緑
グレー爺さん
ヘリル凱旋門
ヘリルカジロウ
〜オススメ料理〜
魚の刺身
夜のオススメ
王国劇場演奏会
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王国劇場は、昼でも夜でも楽しめるようなので、
夕方向かうとして、
まずはヘリル凱旋門からだな。
王様は凄い自慢をしていたので、
きっととても大きいのだろう。
それにしても、ヘリルカジロウは楽しみだ。
なんてったって、魚の刺身があるのだ。
日本人として、寿司を食べたかったが、
今は魚の刺身で十分だ。
よだれが出そうになるのを必死で隠しながら、
まずはヘリル凱旋門へ向かった。
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ヘリル凱旋門はとてつもなく大きい、
と言うより大きすぎるだろ、あれ。
遠くから見ても相当な威圧を感じるな…。
いや、近くに寄っても圧巻だな…これ。
細部まで美しい装飾が施されているし、
何より、装飾の部分に魔法石がはめ込まれ、
この門自体が、巨大な魔法道具になっている。
恐らく効能は転移門じゃないかな。
「おい!ロミー!こんなののどこが面白いんだよ!さっさと飯食いに行こーぜ!」
愚か者め!
目の前にある芸術を見て、何とも思わないのか!
「そうよ!ただでかいだけじゃない!
こんなのを見て、何が楽しいのよ!
ハリウスの言う通りだわ!」
くそぅ…このバカップルめ…。
こらしめてやる……。
「よし分かった…。飯を食いに行こう。
そうだな。俺と勝負して勝てたら、
飯を奢ってやらんでもないぜ」
不思議そうに俺を見つめやがって。
だから、かかってこいって言ってんだよ。
いっつも俺の邪魔ばかりしやがって…。
一回殴らせろ。
「良いんだな?ロミー。約束は守るよな?」
「勿論だ。どうした?ビビったか?ほら、来いよ」
前のめりに体制を崩した。
背中が焼けるように熱い。
ニーカとヴェナが俺に火粉を打ち込んで来た。
完全な不意打ちだった。
「おいおい、待て待て待て!決闘形式じゃねぇのかよ!?」
「人数指定をしなかったロミーが悪いな!」
ボーラが俺に剣を振り下ろし、
ハリウスが俺の脇腹めがけて突進してくる。
馬鹿め!俺は突進する奴には負けねぇよ!
ボーラの剣を止め、ハリウスに右アッパーだ。
これでハリウスはKOだ。
そしてボーラに右フック。
ニーカには逃げ場のない殴打だ。
それからヴェナにキスをして、チェックメイトだ。
ボーラの剣を受け止め、ハリウスに右アッパーが決まった。
ボーラに右フックを決めようとして、
体に切り裂かれる痛みが走る。
ヴェナが本気で風切を俺に打ちやがった。
服が破れ背中を少し切り裂かれたが、
大したダメージではない。大丈夫だ。
少し問題があるとすれば、
服が破れて、下着が丸見えになってしまった。
すげぇ恥ずかしい。
ボーラに右フックをどうにか喰らわせ、
ニーカに標準を合わせる。
さっきからチクチク攻撃しやがって…。
ニーカは素早い。
普通のパンチじゃ避けられるだろうから、
逃げ場のない殴打の出番だ。
ワン、ツー、スリー。
よし、片付いた。
あとはヴェナだけだ。
こいつら…手こずらせやがって。
「ろ、ロミー?ご、ごめんなさい?
お、奢ってくれるって言うから、ついやっちゃって……」
俺は無言で近づき、抱きしめてやった。
頰にキスをした。頰が柔らかいなぁ。
良いぜ。かわいいは正義だ。
お前だけは許してやる。
体が地面に叩きつけられた。
ヴェナは策士だったんだ。
俺に思い切り水球をぶつけやがった。
ヴェナ達は俺を倒したことで、
飛び跳ねながら喜んでいる。
くそ…こいつらいつの間にこんなコンビネーションを……。
「俺たちの勝ちだぞ!約束は守ってもらうからな!」
ぐぅ……飯を奢るなんて言わなきゃよかった。
いてて……。無茶しすぎた。
ヘリルカジロウに着くと、
リーモル先生が酒を飲んでいた。
「ん?なんだ、ロメディア君達か。
ここは爵位を持ってないと入れないお店だよ。
だから残念だけど、帰った帰った。
「あぁ、先生も爵位をお持ちなんですね。
僕もちょうど昨日、国王に謁見した際に爵位を頂いたんですよ。」
店長は国王からの勅令を聞いているとかで、
奥の方の個室に案内してくれた。
リーモル先生もちゃっかり付いて来たけどね。
「いやぁ。まさか爵位を持っているとはねぇ?
この王国の貴族制度は面白いだろう?
1代に対し一つ。
権力をつけすぎないためなんだってね」
刺身が美味い!久々に食べる魚は美味しいな。
醤油はないけど、これなら全然イケる味だ。
ハリウス達も、刺身を大量に食べている。
気に入ってくれたみたいだ。
リーモル先生も、俺の金でどんどん注文しやがる。
この人ってやつは…来年からの給料、巻き上げてやる…。
俺は国王からの紹介があったし、
初回だと言うことで、店長は割引してくれた。
それでも財布の中の銀貨は、
大量に減った。
「これからもごひいきに!」
店を出ると日は高く登り、
劇を見にいくには、
良い感じの時間になっていた。
「ロメディア君!これからどこへ行くのかね?」
「あぁ、王国劇場です。
今は何を演じられてるか分かりませんが、
とりあえず行ってみようと思います」
リーモル先生は満足げに俺達に付いて来た。
一緒に劇を見たいんだそうだ。
ハリウス達が明らかに嫌な顔してるけど、
いい気味だ。俺に皆でかかって来たのだ。
天罰だよ天罰。
ん?天罰?
俺は神なんて信じてないのに、
よくこんな言葉が出たな…。
やっぱり深層心理に植えつけられてるのかもな。
王国劇場では、群盗人形を見た。
盗賊になった主人公が、
人形の様に操られていることを知らずに、
翻弄される話だ。
最後のシーンで主人公は、
妻や子供を助けるため、
自らの首を警察に差し出した。
自らの首にかかったお金を妻や子供に渡すためだ。
ヴェナは号泣していた。
俺も泣きそうになっていたが、
ハリウスが熟睡しているのを見て、
冷めてしまった。
夜の演奏会を聴きたかったが、
リーモル先生が、
そろそろ帰らないと、明日の朝に間に合わないと言うので、
仕方なく宿に戻った。
ハリウスが熟睡している間にお風呂に入り、
今日も、俺が女だと言うことはばれなかった。
内容が濃い1日だった。
ヴェナを抱きしめると、とても暖かかった。
寝ているヴェナにキスをして、
俺も、深い眠りに入っていった。
すこし、短くなってしまいました。
前編に内容を持っていきすぎましたね…。




