第12話「一時的な同盟」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
ジェラルトが騎兵もどきの残り19騎を連れて戻ってきたのは、マイトランドがフレデリカと話し始めてすぐのことだった。
騎兵もどきとは、騎兵のフリをした馬に乗れない騎兵——新貴族班20名、つまりフレデリカ達のことである。
「だって、だってしょうがないじゃないか!戦ったことなんてないんだから!」
マイトランドが理由を尋ねると、さっきまでの威勢はどこ吹く風とフレデリカは声を詰まらせた。
「いや、別に責めている訳じゃないんだ。それに俺だって実践の経験はない。」
フレデリカは唇をかみしめ、声が震えないように努めながら答えた。
「早く偉くなって、父の敵が討ちたいだけなんだ。協力してくれ。頼む。」
「だったらどうすればいいんだ?お前達を抱え込んで俺達だけで戦えって言うのか?」
「俺は反対だぜ!こんなヤツら!貴族だか新貴族だか知らないけどよ。俺達は戦いに来てるんだぜ?こんなクソの役にも立たないようなヤツらと協力なんて御免だぜ。」
「あたいだって反対だよ!」
ジェイクとジョディーが声を上げると、俺も俺もと班員はこぞって反対の意見を出した。
その言葉を聞いたフレデリカは、目に涙をためていた。
それを見た騎兵もどきの中の一人、フルプレートを着てベンテールを上げた女が、腰のロングソードに手を掛けながら前に出た。
ベンテールとは甲冑の兜についた可動式の面頬のことだ。通常は顔を守るために下ろして使うが、視界が狭くなるため、移動中や周囲を確認する際には上げておくことが多い。つまりこの女、移動中からずっと戦闘態勢だったということだ。
「貴様ぁ!平民の分際でフレデリカ様を泣かせたな!」
声には明らかな侮蔑が滲んでいた。貴族には頭が上がらない分、平民には人一倍高圧的に出る——新貴族とはそういうものだ。
「おい、フレデリカ、このフルプレートに着られている女を何とかしてくれ。」
マイトランドがそう言って笑うと、今度はその女がロングソードを抜き、振りかぶって叫んだ。
「貴様ぁぁぁ!平民の分際でフレデリカ様を呼び捨てにするとは!そこに直れ!成敗してやる!」
「クレア!やめろ!こちらが持ち掛けた同盟だぞ!マイトランドに失礼ではないか!」
フレデリカが威厳を取り戻すと、クレアと呼ばれたフルプレートの女は、悔しそうに答えた。
「で、ですが、フレデリカ様、こんな身分の違いも分からない輩は、成敗したほうが世の為です!」
マイトランドはクレアの言葉を聞き流すと、フレデリカに向き直った。
「フレデリカ、協力してやってもいいが、条件がある。まず聞く。馬に乗れる者は何人だ?」
「私とクレアを含めて5人だ。」
「馬に乗れないが戦える者は?」
「10名だ。残りの5名は訓練はしたが……正直怪しい。」
マイトランドは頭の中で素早く計算した。
「作戦参謀か参軍は誰だ?」
「クレア・ハイルブロンだ。私の幼馴染で護衛でもある。剣の腕も確かだ。」
ジェラルトはちらりとクレアに目をやると、堪えきれずに口を開いた。
「剣の腕が確かなのに、なんであの鎧に着られてんだ?女性にしては確かってことか?」
フレデリカは顔を赤くしながら答えた。
「う、うるさい!クレアはまだ成長期なんだ!鎧が大きいのはしょうがないだろ!それに女性にしてはじゃない、誰と比べても確かだ!」
「当初の作戦は?」
フレデリカは少し恥ずかしそうに答えた。
「おぼつかない騎兵を後方に、強い騎兵を前面に出して騎兵突撃を繰り返す予定だった。もちろん平地でだが。」
ジェラルトが思わず口を開いた。
「それで勝てると思ってたのか?森の中で騎兵突撃って、木にぶつかるだろ。アッハッハ。」
フレデリカは顔を赤くした。
「う、うるさい!他にいい案がなかったんだ!それに平地での話だ!」
マイトランドは黙って聞いていたが、小さく息をついた。
「……フレデリカとクレアの作戦は正直作戦と呼べるものではないな。」
「協力してくれるならなんでもしよう!」
「なんでもと言うのは本当だな?」
「ああ、もちろんだ!」
フレデリカの了承を得たマイトランドは、大きな声で班員に伝えた。
「皆、聞いたか?俺達は、フレデリカ達に協力するぞ!」
マイトランドの言葉にジェラルトは笑っていたが、ジョディーとジェイクは反論した。
「あたいは嫌だよ!」
「俺だって貴族に協力するなんて嫌だ!」
そうなると他の班員達も2人に乗った。
「「「嫌だ、嫌だ。貴族なんて嫌だ!」」」
反論でざわつく班員達を見て、困った顔をするフレデリカを尻目に、マイトランドが口を開いた。
「よし、ジェイク、皆に馬に乗れる5人以外から、装備と馬を奪わせてくれ。フレデリカ、馬に乗れるやつを集めてくれ。」
ジェイクはにやりと笑うと、クレアに近寄り確認した。
「お前馬に乗れるのか?」
クレアは顔を真っ赤にすると、
「平民に答える必要はないわ!」
そう言ってそっぽを向いた。
ジェイクはマイトランドに目をやり、マイトランドが頷くのを見ると、クレアに歩み寄り静かにロングソードを手から取り上げた。
それを見たフレデリカは、マイトランドの前で深く頭を下げた。
「マイトランド……お願い。やめさせてよ。みんないい子たちなんだ。酷いことしないで。装備も馬も全部渡すから……本当に、お願いします。」
フレデリカの目から涙がぼろぼろとこぼれ落ちた。
もはや威厳も何もなかった。マイトランドはため息を一つつくと、
「ジェイク、だそうだ。自発的に差し出してもらおう。」
ジェイクは頷くと、馬に乗りなれない新貴族達が装備と馬を差し出すのを待った。
「ジェル、クレアと少し打ち合ってくれるか。実力を把握しておきたい。」
「俺が?まぁいいけど。」
クレアは鼻で笑った。
「平民と打ち合いなんて御免だわ。」
「女性にしては剣の腕が確かなんだろ?怖いなら断っていいぞ。」
ジェラルトがそう言うと、クレアは顔を真っ赤にしてジェイクの持っていたロングソードを取り返すと鞘から引き抜いた。
「売られた喧嘩は買うわ!」
その間にマイトランドはフレデリカと指揮所に移動し作戦の確認を始めた。
しばらくして、悔しそうな顔のクレアを連れてジェラルトが指揮所に戻ってきた。
マイトランドはフレデリカとの作戦確認を終えると、ジェラルトに尋ねた。
「実力はどうだった?正直に言ってくれ。」
ジェラルトは少し考えてから答えた。
「正直、女性にしては確かだ。反応速度は本物だし、剣筋も悪くない。ただ鎧が大きすぎて動きが半分以下になってる。あの鎧さえなければ、もう少し手こずってたかもな。」
クレアは顔を真っ赤にしながらそっぽを向いた。
「……鎧は関係ないわ。木剣に負けたんだもの、実力がなかっただけよ。次は負けないわ。」
「大いに関係あるぞ。」
ジェラルトとマイトランドが同時に答えた。
「フレデリカ、馬に乗れる者以外で槍を扱える人数は?それと2位でいいか?」
フレデリカはマイトランドの言葉を聞くと、涙をぬぐい答えた。
「槍は……5人だ。それと2位でいいかって、もちろんだ。でもマイトランドは最優秀班を狙う気がないということか?」
「そうじゃない。お前達の順位だ。当然俺達は最優秀班だ。」
フレデリカは頬を赤く染めると、
「約束だぞ!」
そう言ってマイトランドの背中を押した。
マイトランドは思わず口元が緩むのを感じると、慌てて表情を引き締めた。
班員とフレデリカ達5名に森林出口までの進出経路を確認すると、
「シュウ、フラン、クリス、ジョディー、フレデリカと新貴族1名は俺と共にポエルの警戒する北東の森林出口に進出する。余りのパイクを2頭の馬に引かせて、ジョディーが引っ張って来てくれ。ジェラルトはアルベルト、ジェイク、と新貴族3名を率いて北西の森林出口に進出してくれ。分断作戦になるが、念話で連携を取れるようにして、危ないと思ったらすぐに、引いてくれ。残りの者はフィンの指示の下、陣地の強化とフレデリカ班の槍5人はヘクターの護衛に回ってくれ。蟇目鏑矢の合図3回でパイク準備を!では各員の健闘を期待する!かかれ!」
班員と新貴族が準備に取り掛かると、ジェラルトがマイトランドに近寄り、
「なんか軍師って言うより指揮官ぽいな。俺達は危ないと感じたら道を塞ぐ感じでいいな?パイクと馬も少し貰って行くぜ?できるだけ戦力は削ぎたいからな。」
「ああ、わかってる。頼んだぜ。相棒。」
「その呼び方、あの時以来だな。こっちこそ頼んだぜ、相棒。」
2人は無言で拳を握り、突き出すと静かに合わせた。
「さぁ、みんな!狩の時間だ。」
進軍準備を終えると、マイトランドとジェラルトの隊は進軍の合図と共にそれぞれの地域へと進軍を開始した。模擬戦1日目の日が暮れかけた頃だった。
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