第11話「アルドリックの馬」
剣より頭、魔法より読み。
平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。
ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。
明らかに自分たちの陣地に近づいてくる騎兵1騎にマイトランド、ジョディー、ジェイクの3人が身構えると、ジェイクが口を開いた。
「なあ、あいつこっちに気付いてるんだよな?なんで剣を抜かないんだ?それに槍も持ってないぞ?」
ジェイクの言う通り、例え森の中で3人が伏せている状態だったとしても、30mほどの距離であれば馬上の騎兵に見えないことはないだろう。
「あんた、馬鹿だね。あたいにはわかるよ。こっちを油断させようとしてるのさ。貴族様のやりそうなこった。」
ジョディーが自信満々に言うと、ジェイクは顔を真っ赤にして怒った。
「2人とも、喧嘩はやめろ。それより攻撃してきたら、ジェイクがタウント、俺が馬上のヤツを落とすから、馬をジョディーが奪取してくれ。」
「「わかった!」」
ジョディーが立ち上がり弓を構えた。マイトランドとジェイクは伏せたまま武器を手に取り、息を潜めた。
騎兵が更に近づき、マイトランド達との距離が10mほどに達すると、その騎兵は馬の手綱を引き、マイトランド達に気付いた様子でその場に止まると、
「こちらに交戦の意思はない。」
両手を上げて、そう言った。
「明らかに女の声だな。特段油断させようとしている様には感じない。」
マイトランドが2人に言うと、ジョディーはアダムスとイブラヒムが制作した避難梯子製の簡易弓を構え、その騎兵に大声で言った。
「おい、あんた、あたいらを、平民だからって舐めてるんだろ。そうはいかないよ。」
「いや、そうではない。この通り武器は持っていないだろう。伏兵もいない。信じてくれ。こっちに来て確認してもいい。」
「信じろって言って、あたいの村から沢山の税金をいつも巻き上げるじゃないか。」
「いや、私は新貴族だ。領地は持っていないし、税金も巻き上げてなどいない。父も系譜を辿れば平民だ。」
騎兵の言葉にジョディーが黙ると、今度はマイトランドが、
「じゃあ、何の用があって来たんだ?」
「私は・・・。」
騎兵が言いかけたところで、所定の警戒位置からジェラルトが戻ってきた。
ジェラルトは戻ってくるなり小声で、
「マイトランド!戻ってくる途中で確認したが、騎兵が19騎この先の窪みで待機してるぜ!」
そこまで言うと、ようやく騎兵に気付いたのか、今度は緊張感なく大声で続けた。
「んで?こいつはなんだ?ジョディーにビビって両手を上げてんのか?面白い騎兵だぜ。なぁ、マイトランド、ジョディーの矢なんて、この距離じゃ当たりっこないのにな。赤ん坊でも判断できそうなことだ。アッハッハ。」
笑いながらそう言ったジェラルトに、ジョディーは矢を向けた。
「あんたねえ・・・。」
そうジョディーが言いかけると、騎兵が話に割って入った。
「お前、マイトランドと言ったのか?私はマイトランドという男に会いに来たんだ。誰がマイトランドなんだ?」
「俺だけど。なんで俺がここにいるとわかった?」
「新貴族班は平民班より先に布陣できる。平民班で最初に森林に入ったのはお前達だ。それにグレイグおじ様から、困ったときは森林に布陣するであろう平民のマイトランドを頼れと言われていた。」
「……グレイグめ。」
マイトランドは小さく呟いた。
「私が貰うはずだった父の茶色い馬を貰わなかったか?なぜ乗っていない?」
そこまで言われて、マイトランドもピンと来たようで、
「お前、フレデリカ・アルドリックか?」
そう言うと、その騎兵が兜を脱ぎ答えた。
「そうだ。」
返事をしたフレデリカ、金髪碧眼で、切れ長の目が特徴的な美人は、かつて、マイトランドとジェラルトが持って帰った首の主、ヴェルタ第1軍司令官だったフランコ・アルドリック将軍の娘だった。
「おい、すっげー美人だな。マイトランドよぉ、こんな美人が知り合いにいたのかよ。なんで紹介してくれないんだよ。」
「へぇ、ジェル、こういうのがタイプだったんだね。」
ジョディーがニヤリと笑いながら言うと、ジェラルトは顔を赤くした。
「う、うるさい!そういう話じゃねえよ!」
ジェラルトの言葉に、マイトランドはため息交じりで返した。
「はぁ、忘れたのか。俺も会ったことはないけど、お前も知っているはずだ。」
「俺が?知ってる?なんで?こんな美人忘れる訳ないだろ。」
「もういい。後で説明するから。ちょっと今は黙っていてくれ。」
マイトランドはそう言うと、ジェラルトが黙ったところでフレデリカに続けた。
「で?その新貴族様が何しに来た?」
「ああ、礼を言いに。」
「礼ならもう貰った。俺はお前たちに特段用はない、帰って戦いに備えろ。」
素早いマイトランドの返しにフレデリカは、
「あの、その、それが・・・。」
「なんだ、礼を言いに来たんだろ。もう終わったんだから、とっとと帰れって。」
フレデリカは少し黙ると、地面の土を右足でつつきながら、恥ずかしそうに口を開いた。
「き、き、協力してほしいんだ。実の所、困っていてな。貴族班、新貴族班共に協力して戦おうと言う気が無いみたいなのだ。それに、グレイグおじ様に、困ったときは平民のマイトランドを頼れと言われている。なんとかしてはくれないだろうか。」
「はぁ?お前正気か?俺達は敵同士だろ?グレイグは普段の生活で困ったらという意味で言ったはずだ。帰れ帰れ!」
「そう言わずに聞いてくれないか。こうして恥を忍んで来ているんだ。どうしても上位に入りたい。協力してくれ。」
マイトランドは、ため息を一つついた。
——めんどくさい。だが、他の騎兵と戦うには馬は欲しい。最後は打って出たいからな。
「ジェル、残りの騎兵も呼んで来てくれ。多分全員騎兵ではないから、馬から降ろして連れて来ればいい。」
「なんでだ?馬から降りたら騎兵じゃないだろ。」
「多分だが、全員女か馬に乗れる者が少ないんだろう。そもそも馬に乗れる者がいない可能性もある。」
「わかったよ。」
ジェラルトが返事をすると、フレデリカが驚いた顔で、
「なんで知っている?私は言った覚えがないぞ。」
「考えればわかるだろ。もういい、馬に乗ってこっちに来い。」
結局、マイトランドは馬に乗れないであろう19名の騎兵と、フレデリカの騎兵1騎を抱え込むことになった。
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