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第1話「47号室の二段ベッド」

剣より頭、魔法より読み。


平民の少年が戦場の頂を目指す、泥臭い成り上がり戦記です。


ゆっくり読んでいただけると嬉しいです。

「私はヴェルタ国旗と、それが象徴する我が国の平和と独立を守るヴェルタ軍人の使命を自覚し、法律を順守し、心身を鍛え、技能を磨き、強い責任感をもって任務の遂行に当たり、事に臨んでは危険を顧みず職務の完遂に務め、国民と自由と正義の為、神の下分割するべからず一国家であるヴェルタとヴェルタ軍に、忠誠を誓います。」

 ヴェルタ歴210年春、マイトランドは16歳になっていた。

 声は1年前より低く、落ち着いていた。背も少し伸び、体つきもしっかりしてきた。だが何より変わったのは、その目だった。あの頃の頼りなさは消え、どこか静かな確信のようなものが宿っていた。

 宣誓を読み上げる声に、迷いはなかった。

「ラッセル二等兵、47号室、別命あるまで自室で待機せよ。」

「はい!」

 宣誓を読み上げ、部屋を出たマイトランドに、ジェラルトが話しかける。

「マイトランド、何号室だ?俺は47号室だ。」

 ジェラルトと同室でホッとしたのか、マイトランドは笑顔で答える。

「お前と一緒だ。多分同じ村だったからだろうな。自室で待機だ、部屋に行こう。」

「あぁ、何人部屋だろうな。5人10人かなぁ?女の子は一緒かなぁ?」

「女?そんなわけないだろ。大体志願して軍に入ろうなんて物好きが女にいると思うのか?俺達の村にはいなかっただろう?それを考えたら、物好きは1人か2人いればいい方じゃないか?」

「まぁそうだよなぁ。はぁ。」

 深くため息をつくジェラルトにマイトランドは笑って答える。

 部屋に向かい長い廊下を歩いていると、他の部屋が目に入ってくる。

「おい、マジかよ。20人位いるんじゃないのか?しかもありゃ二段ベッドだぜ。」

「気にするな。まぁ階級が上がれば、一人部屋がもらえるって聞いたしな。第一戦場で大部屋とか言ってられないだろ?」

 マイトランドの部屋ではないが、部屋の中は中央の通路を挟み二段ベッドが5台ずつ置いてあり、その外側にはロッカーと思われる棚が置いてある。

 言うまでもないが、プライバシーなど無い。

「同じベッドでいいよな?当然俺が上な!」

 ジェラルトがそう言うと、マイトランドはまた笑顔で返す。

「いいよ。そうしよう。俺も下がよかったし。」

 部屋に着くと、2人の相談は無駄になってしまうことになる。

「マイトランド、これ見てみろよ。ベッドの脇に名前が書いてあるプレートが付いてるぜ。」

「あぁ俺はこっちだ。」

 そう言ってマイトランドは右列一番目の上段を指差す。

 自分の位置を確認したジェラルトは3列目まで行くと、

「うわ。俺も上だよ。誰かに代わってもらえねえかな。」

「なんで変わる必要があるんだ?上がよかったんじゃないのか?」

「そうじゃないだろ。わかんねぇかな。」

 ジェラルトの意図を理解したのだろう、恥ずかしいからか、わからないふりをしてマイトランドが声を出して笑っていると、

「あんた達!うるさいね!この部屋は、あんた達だけの部屋じゃないんだ!少しは静かにおしよ!」

 2人の位置からは顔は見えないが、ジェラルトがこの声に反応する。

「マイトランド!お前が言ってた物好きがいたぞ!ほら女だ!女!」

 ジェラルトはそう言うと、声のする方に歩き出した。

 マイトランドも声の主に謝ろうと、ジェラルトの後を付いていく。

 そこには女が1人、男が1人座っていた。

 声の主を見て無言のジェラルトを尻目に、マイトランドはうるさくしたことを謝罪する。

「すまない。少しはしゃぎ過ぎたようで。」

 マイトランドが謝ると、その女は、

「わかってくれればいいんだ。あたいはジョディー、声からすると、黒髪のあんたがマイトランドね。そっちの金髪は?」

「こいつはジェラルトだ。ジェル、同室になる人にしっかり挨拶しろよ。」

 マイトランドが挨拶を促すと、ジェラルトは挨拶よりも先に、マイトランドに耳打ちした。

「おい、あいつ女か?おかしいと思わないのか?女にしちゃあ腹筋が割れてるし、体も俺よりもでかいぞ。女に化けた男なんじゃないか?」

 ジェラルトの言う通りだった。

 座っているにもかかわらず、ジェラルトより明らかに大きい。腹筋が割れているのは服の上からでもわかった。

「ちょっと、聞こえてるんだけど?あたいのどこが男だっていうのさ!あ、わかったよ。あんた、あたいの肉体に嫉妬してるね。」

 何処をどう取ったらそうなるのか、やはりそう思ったのだろう、ジェラルトは答える。

「なわけ。なわけねーだろ!馬鹿なこと言うなよ!」

「じゃあ何だって言うんだ?」

「お前みたいなヤツ羨ましいもんかよ。ただ……。」

 ジェラルトが言いかけたところでマイトランドが割って入る。

「まあまあ、2人とも、同室なんだ、仲良くやろう。」

 マイトランドの言葉に不思議な顔でジョディーが答える。

「あたい、班は一緒だけど、同室じゃないよ。弟のクリスがこの部屋さ、なぁクリス。」

 昨年秋に徴兵の制度が変わり、女子であっても希望する者は入隊することができるようになった。ジョディーはその数少ない一人だった。

 ジョディーがそう言うと、向かいに座っていた、細身の男が口を開く。

「ど、どうも、クリスです。よろしくお願いします。」

 俯き加減で、声も小さい。どこか頼りなげなその様子に、マイトランドはふと、1年前の自分を思い出した。

 マイトランドはクリスに手を出すと、

「マイトランドだ。よろしく!」

 マイトランドはクリスと握手をすると、ジョディーに尋ねる。

「ジョディー、班ってなんだ?軍のことに詳しいのか?」

「あぁ、兄貴が軍に先に入っていたからね。基本的なことは聞いたさ。班って言うのはね、グループさ。グループで模擬戦を戦うんだ。班は運命共同体で、良いことはみんなで分かち合う、もちろん悪いことはなんでも連帯責任さ。」

「ということは、2段ベッドが10個あるから、20人+アルファで班か。」

「察しがいいじゃないか、そう言うことになるね。あたい、あんた達、あと1人ってとこだね。とにかく弟とは仲良くやってくれよ。」

「もちろんだ、ジョディーも今後とも色々教えてくれ。」

 そう言って、マイトランドが手を差し出すと、2人は固い握手をした。

 握手を終えるとマイトランドに促され、ジェラルトもクリスと握手を交わし、ジョディーと握手をしながら、

「同じ部屋じゃなくてよかったぜ。」

「なにぃ?お前……。」

 ジョディーはそこまで言いかけると、ふぅと息を吐いた。

 こういう手合いはどこにでもいる——そう判断したのだろう、マイトランドに向き直った。

「まあいい、全員そろったら、適性検査を受けに行くことになると思う。荷物があるだろう?さっさと荷物を棚にしまって準備をしたほうがいい。」

「あぁ、ありがとう。そうさせてもらう。」

 マイトランドとジェラルトは2人の名前の付いた棚まで行くと、棚に荷物を片付ける。

 ジョディーの大人な対応に内心ほっとするも、ジェラルトの今後に頭を抱えるマイトランドだった。

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