番外編~通り雨side長塚⑦~
二年になるとクラス替えがあり、星川の友達だという青山が、俺たちのグループに入り込んできた。
気の強さを隠しもしない、綺麗だが鼻につくタイプの女だった。
俺は、青山みたいな女が苦手だった。
距離を詰め、踏み込み、相手の領域にずかずかと入り込んでくる──そんなタイプだ。
だから、だ。
彼女と付き合っていながら、俺は勝手に思い込んでいた。
──田上も、いずれそうなるんじゃないか。
──学校でも、俺にベタベタ絡んでくるんじゃないか。
何一つ、実際には起きていないのに。
その勝手な予測だけで、俺は彼女との距離を意図的に取った。
今思えば、あれがすべての始まりだったのだと思う。
当時の俺は、女の子と向き合うより、星川たちと気兼ねなく過ごす方が楽だった。
だから、月に一度の日曜デートと、毎日の電話。
それだけあれば十分だろうと、彼女の気持ちも考えずに押し付けた。
いつの間にか、彼女の俺を見る眼差しは変わっていた。
「大好き」だったはずの瞳が、不安そうに俺の顔色を窺うようになっていた。
そんな時だった。
「ちょっと! そんなにバカスカ人の頭を叩かないでよ!」
「中身がスカスカなんだから、問題ないだろう?」
仲良く並んで歩く二人の姿を見て、理由も分からず苛立った。
俺には見せない、無防備な笑顔。
くるくると変わる表情を、楽しそうに見下ろすあいつ。
──あいつ、彼女のことが好きなんだろうな。
今まで彼女にアプローチして、気付かれもせず玉砕していった連中とは違う。
そう直感した。
その苛立ちを、俺は彼女にぶつけた。
何度も、何度も、傷付けて、泣かせた。
本当は優しくしたかった。
なのに出来ない自分に、腹が立って仕方がなかった。
そして、あの運命の日。
姉貴に譲ってもらったチケットで、二人で夢の国へ行った。
彼女に渡そうとしたキーホルダーを、店員が見て言った。
「彼女さんへのプレゼントですか? でしたら、こちらの方が良いですよ。
恋愛成就のお守りにもなるんです」
「じゃあ、それで」
深い意味なんて、何もなかった。
ただ、それを渡した時の彼女の笑顔が、あまりにも嬉しそうだった。
あんなに喜ばれるなら、たまにはプレゼントするのも悪くない──
その程度にしか思っていなかった。
後になって知った。
彼女が喜んでいたのは、物じゃない。
「プレゼントを贈ってくれた」という、その気持ちだったのだと。
あの日、青山に引きちぎられ、投げ捨てられたキーホルダー。
俺は単純に
──新しいのを買えばいいだろう。
──そんな難癖付いた物より、新しい物の方が良いだろう。
本当に、そう思っていた。
修学旅行から戻った後、彼女に呼び出された時、
俺はなんとなく察していた。
──終わるな。
別れを告げられた時、あっさり受け入れたのは、
戻ってくると思っていたからだ。
「あの日に勝負はついていたんだな……」
なんて格好をつけたのは、俺のちっぽけなプライドだった。
残りの高校生活は、青山のおかげで散々だった。
俺に近付く女子を蹴散らし、いつも俺の隣に居座った。
卒業式で告白されたが、さすがに断った。
大学に入ってからは、青山もいない。
俺は、隣に並べて自慢できる女ばかりを選んで付き合った。
日替わりで女を変え、
「俺は、お前と別れてから幸せなんだ」
そう見せつけるように遊び続けた。
けれど、心は乾いていった。
欲望を吐き出すほど、空虚になっていった。
結婚を考えた相手もいた。
それでも、結局別れを告げられたのは、俺が原因だった。
一時期、彼女を恨んだこともある。
何も求めず、
ただ無条件に愛情を向けてくれる人が、
どれほど貴重だったのか──
それを、失ってから知ってしまったからだ。




