番外編~通り雨side長塚⑥~
初めてのデートは、動物園だった。
待ち合わせより十分早く着いてしまった自分に、
案外、彼女とのデートを楽しみにしていたんだな……と、ひとり苦笑いを浮かべる。
彼女は待ち合わせの五分前にやって来て、
俺の姿を見つけると、驚いたように目を見開いたっけ。
小走りで駆け寄って来て、
「ごめんね! 待たせちゃった?」
そう言って、俺の隣に並ぶ。
並んでみて、思ったよりずっと小柄で、少し驚いた。
「じゃあ、行こうか?」
そう声を掛けて歩き出したが、
計画性のない俺と彼女に、まともな下調べなんて出来るはずもなく──
動物園は、見事に休園日だった。
『休園日』と書かれたプレートを前に、
彼女はぽかんと口を開けたまま、呆然と立ち尽くしている。
どちらかが事前に調べていれば済む話なのに、
見事に二人とも何も考えていなかった。
真っ白になった彼女の姿が可笑しくて、
それだけで、ここまで来た価値はあったと思えてしまった。
結局、その日は映画を観て、喫茶店に寄って、そこで別れた。
けれど、くるくると変わる彼女の表情が可愛くて、
そんなふうに感じている自分に、また苦笑いしてしまった。
──「好みのタイプじゃない」と、一度は振った相手なのに。
彼女は、どんな俺を見せても、決して否定しなかった。
「どんな長塚君でも、私は大好きだよ」
そう言って俺を見上げる瞳は、
まるで最初から、俺しか見ていないみたいだった。
女の子って、好きになると皆こんなふうになるものだと、
その頃の俺は、本気で思っていた。
俺が方向音痴でも、
朝が弱くてぼんやりしていても、
そんな俺を「好きだよ」と笑ってくれた。
「完璧な人間なんていないし、
むしろ、人間味があって良いと思う」
そう言ってくれた彼女に、
自分がどれほど救われていたのか──
それに気付いたのは、別れた後だった。




