番外編~通り雨side長塚⑤~
そんなギクシャクした空気のまま月日は流れ、バレンタインがやって来た。
なんとなく、数名の男子がソワソワしている。
彼女にチョコ欲しいアピールをしている奴等もいて、彼女はチロ○チョコを皆に配っていた。
俺は特別仲が良い訳でもないから、チロ○チョコすら貰えないだろうと思い、そんな自分に苦笑いを浮かべていると──
「田上、これ好きだって言ってたよな」
前に彼女の隣の席だった寺島が、キャラメルとナッツをチョコでコーティングしたスニッカー○を差し出した。
「え? これ、どうしたの?」
「駅で配ってた。やるよ」
「わぁ!ありがとう!いいなぁ~、駅使うとスニッカー○貰えるんだぁ~」
そう言いながら、彼女は
「はい、お返し」
と、チロ○チョコといくつかのお菓子を寺島に手渡していた。
(おいおい……。バレンタインにチョコ配るとか、あるわけないだろ。察しろ)
心の中でツッコミを入れていると、星川がぽつりと呟いた。
「凄い人気だね、田上さん。佐野なんてさ、田上さんからチョコ欲しくて、1,000円のギフトカード渡したらしいけど、全然気付いてもらえなかったらしいよ」
「結局、みんなと一緒のチロ○チョコだったみたい」
星川の言葉に、
(1,000円が10円に化けるとは……大暴落にも程がある)
と、思わず心の中で突っ込んだ。
⸻
放課後になる少し前。
隣の席の女子が、そっと紙を机の上に置いていった。
田上の友達だったから、嫌な予感……いや、まさかなと思いながら紙を開くと、
『放課後、図書室に来てください。田上』
と書かれていた。
彼女からチョコが欲しくてソワソワしている奴等を横目に、放課後、図書室へ向かう。
そこには、緊張した面持ちの彼女が立っていた。
「呼び出してごめんなさい。あの……これ!」
綺麗にラッピングされたチョコを差し出され、思わず受け取りながら口を開く。
「……友達から始めてみない?」
差し出した姿勢のまま、彼女が完全に固まった。
どうやら、想定外の答えだったらしい。
驚いたまま、しばらく俺の顔を見つめている。
(人間って、本当に鳩が豆鉄砲食らった顔するんだな……)
込み上げる笑いを必死で噛み殺しながら続ける。
「俺、彼女とか初めてでさ。とりあえず、友達から関係作っていくのでもいい?」
反応が無い。
「……やっぱり、恋人じゃないとダメ?」
そう聞くと、彼女はハッとした顔になり、首がもげるんじゃないかと思うほど勢いよく横に振った。
そして、ふわりと笑顔を浮かべる。
「嬉しい! 本当に?」
なぜか、チョコの箱をがっちり掴んだまま、俺の顔を見上げてくる。
その様子が、散歩に行けると分かった時の犬みたいで、思わず可笑しくなった。
「……それ、くれるんだよな?」
しばらく二人でチョコを持ったまま固まっていたので聞くと、
「あ! ごめんなさい!」
彼女は慌てて手を離し、真っ赤な顔でアワアワし始める。
「じゃあ……これから、よろしくな」
そう言って手を差し出すと、彼女は目を見開き、勢いよく俺の手を握り返した。
「ありがとう! 私、頑張るから!
彼女になれるように、頑張るから!」
ブンブンと俺の手を振りながら、子供みたいに無邪気に笑う彼女を見て──
興味本位から始まったこの関係が、
少しずつ恋愛感情に変わっていく予感を、確かに感じていた。




