番外編~涙の向こう側side千秋⑪~
「あははは、聞こえてた?」
「一語一句、残さず聞こえたよ!」
田川の言葉に笑って誤魔化すと、
「だって、こんなにイケメンで無表情って、反則じゃない?」
そう言って繭花ちゃんに視線を向けると、
「邪道です! たまちゃんには田川君! 田川君にはたまちゃん!」
と、力説し始めた。
繭花ちゃんの“田川ナイト妄想”が未だ健在なことに、思わず笑ってしまう。
「千秋、その辺にしておけ。
今日は田川の家に泊めてもらうんだから」
苦笑いする薫に視線を戻すと、いつの間にか子ども達は仲良く戯れていた。
「それにしても、小野のところの子ども、日本語話せるんだな」
田川が薫に話しかけると、薫はニヤリと笑って言った。
「まぁな。自分の子どもを、誰かさんの幼少期みたいな “はちゃめちゃ日本語”を話す子供にしたくなかったからな」
その瞬間、
「ハクション!」
と、石橋が盛大なくしゃみをしながら、末っ子の女の子を抱いて現れた。
田川と薫は顔を見合わせ、吹き出して笑い出す。
私とたまちゃん、繭花ちゃんは意味が分からず顔を見合わせたけれど──どうやら男性陣だけの秘密らしい。
年齢を重ねても、こうして集まれる仲間がいる。
それは本当に、ありがたいことだ。
私は、大好きだった“かおちゃん”のように、幼くして命の灯が消えてしまう子供たちを救いたくて、薬の研究の道に進んだ。
そんな私を、日本でこうして迎えてくれる仲間がいる。
実家があることとは別に、子どもが増えても、家族が増えても、「帰る場所」がここにもある──。
それが、どれほど心強いことか。
この仲間となら、きっと白髪になっても笑い合える。
私は、そう信じている。
出会いは、高校二年の春。
今やラブラブ夫婦になった二人の前の席になったことが、すべての始まりだった。
モノクロだった私の世界を、色鮮やかにしてくれたのは、この仲間達だ。
涙の先には、ちゃんと幸せが待っている──そう教えてくれた。
「今日は久しぶりに、女子トークしようね」
たまちゃんが微笑んで言うと、
「女子トーク?」
と、田川が相変わらずのツッコミを入れる。
「なによ! 女性が集まれば女子トークでしょ~?」
そう言って私に同意を求めるたまちゃんの頭を掴み、
「話しながら歩くとぶつかるだろ。前を向いて歩いてろ」
田川が呟いた。
「パパ、大丈夫。ママは僕が守るから」
ずっとたまちゃんの手を握って離さない小さなナイトがそう言うと、
「春人~!」
たまちゃんは息子を抱き締めた。
「聡……相変わらず、ライバルが多くて大変だな」
石橋がそう言って田川の肩を叩き、
「知ってるか?寝る時、田川・実花ちゃん・春人君・たまちゃんの順らしいぜ」
と、私と薫に笑いながら話す。
「聡、ドンマイ」
薫まで肩を叩くと、
「いいんだよ! 俺には実花が……」
そう言って振り向いた田川の視線の先で、実花ちゃんは──我が息子と手を繋いでいた。
「実花……」
寂しそうに呟く田川に、
「頑張れ!」
「ファイト!」
二人が再び肩を叩く。
「お前らなぁ~!」
ブルブル震える田川。
「やべぇ、怒らせたかも」
そう言って薫と石橋はダッシュで逃げ出した。
──もう、三十代の会話じゃないな。
そう思いながら、たまちゃんと顔を見合わせて笑う。
「ち~ちゃん、幸せ?」
たまちゃんにそう聞かれて、私は迷わず答えた。
「うん。幸せだよ!」
六人別々だった苗字が、今は三組の家族になった。
高校生で、悩んで、苦しんで、躓いた日々があったから──今の幸せがある。
今なら、胸を張ってそう言える。
「ち~ちゃん。どこに居ても、ち~ちゃんは私の親友だからね」
そう呟く大好きなたまちゃんに、私は微笑み返した。
あの日から幾つもの月日が経っても、
私達の友情は変わらない。
──ねぇ、かおちゃん。
涙の向こう側には、たくさんの幸せが待っていたよ。
かおちゃんも、生まれ変わって幸せでいてくれたら嬉しいな。
そんなことを思いながら、私はたまちゃんと手を繋ぎ、少し先を歩く、それぞれの“愛する人”の元へ向かう。
「千秋」
差し出された、優しくて大きな手。
私はそれを、二度と離さないと決めて、強く握り返した。
私達の未来は──
どこまでも、幸せへと続いている。
【完】




