表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
114/125

番外編~涙の向こう側side千秋⑩~

 あれから、幾つもの季節が過ぎていった。


「ダディ、マミー!日本が見えてきたよ!」


 飛行機の窓に顔を寄せ、私達の一人息子――彰が声を弾ませる。


「ほら、彰。もうすぐ着陸だから、シートベルトして」


 すっかり専業主夫が板についた薫が、手慣れた様子で彰のシートベルトを締めた。


 私は相変わらず、新薬の研究に没頭している。

 そう出来るのは、全てを捨ててアメリカに着いて来てくれた薫のお陰だ。


 ……とはいえ、薫の祖父母も一緒にアメリカへ連れて来た。

 生活が馴染めるか心配していたが、薫の話ではアメリカの暮らしが気に入ったらしく、日本に居た頃より元気になったらしい。


 彰の出産の時も、祖父母には本当に助けられた。

 薫も持ち前のコミュニケーション力で、あっという間に現地の生活に溶け込んだ。


 こうして、笑いの絶えない毎日を送れているのは、私の我儘を受け入れてくれた薫のお陰だと、心から思っている。


 今回の帰国は、私が開発した新薬を学会で発表するためのものだが、少し前乗りして──

 大好きな人達に会いに行く。


「千秋が妊娠して以来だから……四年振りか?」

「たまちゃんの家の長女、もう小学校に入学したらしいよ」

「早いなぁ……」


 そんな会話を交わしながら、まさか自分が母親になる日が来るなんて、当時は想像もしていなかったな……と、しみじみ思う。


 薫に抱っこされながら窓の外を眺めている彰の頭を撫でると、にこっと笑って私を見上げた。


「マミーのお友達に会える?」

「会えるよ」

「じゃあ、ダディのお友達にも?」

「もちろん」


 微笑んで答えると、彰は少し照れたように言った。


「僕、仲良く出来るかな?」

「大丈夫だよ、彰なら」


 そう言うと、薫によく似た笑顔を浮かべた。


 着陸し、久しぶりに日本の空気を吸う。

 少しだけ、胸が高鳴る。


「ち~ちゃん!」


 聞き慣れた声と一緒に、変わらない笑顔が目に飛び込んで来た。


 たまちゃんの手には、小さな男の子の手。

 その隣で、田川が変わらない笑顔で手を上げている。


 さらにその後ろから、パパによく似た女の子が、恥ずかしそうに顔を出した。


「ほら、実花。ご挨拶は?」


 すっかり父親の顔になった田川に、思わず頬が緩む。


「こんにちは……」


 もじもじしながら挨拶する実花ちゃん──可愛い。


「可愛い!」


 思わず叫ぶと、彰が一歩前に出て、


「こんにちは。お世話になります」


 と、人懐っこい笑顔でペコリとお辞儀をした。


(……こういう抜け目ない所は、薫似だな)


 心の中でそう呟いていると、


「きゃ~! ち~ちゃんのミニチュア版!

絶対イケメンになるよ!!」


たまちゃんがジタバタし始めた。


「ママ、落ち着いて」


冷静にたしなめるのは、たまちゃん家の長男・春人君。

見た目はママ似、中身は完全にパパ似だ。


そんな時──


「玲奈! 走らないの!!」


 聞き覚えのある声と共に、たまちゃんJrの春人君に勢いよく抱きつく少女が現れた。


「春人君、捕まえた!」


 完全に恋する乙女の瞳をした、石橋家の長女。

 当の春人君は、驚くほど無表情だ。


「玲奈ちゃん、走ったら危ないよ」


 これまた冷静な対応に、思わず“あの人物”が脳裏をよぎる。


 私は、こっそりたまちゃんの耳元で囁いた。


「たまちゃん……まさかこの子、長塚との子じゃないよね?」


 途端に、たまちゃんが真っ赤になって、


「ち~ちゃん!!」


 そう叫んだその背後から、


「残念だけど、俺の子供だよ!」


 と、ムッとした田川が現れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ