番外編~涙の向こう側side千秋⑨~
アメリカに渡ってからも、
盆休みや年末年始には必ず日本へ帰国していた。
帰国するたび、必ず小野が空港で待っていてくれる。
それが、お互いにフリーだった頃の私達の約束だった。
――もし、小野が結婚したら。
その時は、空港に小野の姿は無い。
だから、日本に降り立つたび、
私はいつも祈るような気持ちでゲートを抜けていた。
石橋と石塚さんの結婚式で帰国した時も、
それまでと同じだった。
毎回、毎回――
小野の姿を探して、心臓がぎゅっと縮む。
そんなある日。
日本に降り立ち、到着ロビーに出た瞬間、
小野の腕に赤ちゃんが抱かれているのが見えた。
ぐにゃり、と世界が歪む。
(あぁ……とうとう、小野も誰かのものになってしまった)
涙が込み上げ、声が出なくなる。
だったら──
約束通り、迎えになんて来なければ良かったのに。
ずっと恐れていた。
他の女性と幸せそうに笑う小野の姿なんて、見たくなかった。
(どうして……どうして連れて来たの……?)
泣き出しそうになった、その時だった。
「ち~ちゃん!」
大好きな声が、私を呼んだ。
振り向くと、
たまちゃんが女の子の手を引いて、小野の後ろから現れた。
そして、小野の腕から赤ちゃんを受け取ると、
「ち~ちゃん、お帰りなさい」
そう言って、笑顔で手を振った。
──その瞬間、
張り詰めていたものが、すっと解けた。
(良かった……薫の子供じゃない。
本当に、良かった……)
涙が溢れて止まらない。
私はゲートを抜け、そのまま小野に抱き着いた。
「やっぱり、アメリカに連れて行く!」
思わず叫んだ私に、小野が目をまん丸にする。
「はぁ?」
「お前、帰って来るなり何なんだよ!」
慌てる小野に、私は続けた。
「お金なら心配いらない!
私が養うから!
だから小野、私と結婚して!」
人目もはばからず、叫んでいた。
小野は真っ赤な顔で完全にフリーズしていたが、
その次の瞬間──
ドンッ、と背中に衝撃。
どうやら田川に蹴られたらしい。
「聡!痛ぇよ!」
そう叫びながら前につんのめった小野は、
それでも私を抱き締め、力強く言った。
「仕方ねぇな……
結婚してやるよ」
その言葉に、私は小野の胸に顔を埋めた。
そんな私達を、
たまちゃんと田川が、静かに、優しく微笑んで見守っていた。




