番外編~涙の向こう側side千秋⑦~
「えぇっ!? ち~ちゃんと小野君が!?」
翌朝、たまちゃんに報告すると、驚きの声を上げた。
「まだ……篤と揉めてるから。正式じゃないけどね……」
苦笑いする私に、たまちゃんは心配そうに顔を歪める。
「ち~ちゃん。
私は、何があっても味方だからね」
そう言って、ぎゅっと私の手を握り締めてくれる。
「……たまちゃんのところは?」
そう尋ねると、たまちゃんは少しだけ目を伏せてから答えた。
「あっさりだったよ。
本音を言えば、少しくらい引き留めてほしかったかな」
寂しそうに笑うたまちゃん。
「もし……長塚が引き留めてたら?」
「う~ん……別れてなかったかもね。
ここだけの話だけど」
そう言って、少し間を置いてから続けた。
「今でもね、正直未練はあるよ。
でも、ちゃんと田川君と向き合うって決めたから。
だから……自分の気持ちを整理したかったの」
苦笑いするたまちゃんに、
「……そっか」
とだけ呟くと、たまちゃんは私を見て、優しく微笑んだ。
「ち~ちゃん。
私は何も聞かないけど……辛かったり、頼りたくなったら言ってね。
私、待ってるから」
「……うん。ありがとう」
泣きそうになりながら、私は頷いた。
たまちゃんはいつだって、あれこれ詮索されたくない私の気持ちを、ちゃんと分かってくれる。
⸻
その日の昼休み。
私は篤を呼び出し、今日こそ決着をつけようと思っていた。
今までのデート代を計算し、コツコツ貯めていたお金を下ろす。
もらったプレゼント、借りていたCDや本──全部を紙袋に入れて、篤に差し出した。
「……ごめん。
もう本当に無理。別れて」
そう言うと、篤は無言で紙袋を受け取った。
(……終わった)
そう思った、次の瞬間。
「ふざけんな!」
篤が叫び、紙袋を私に叩き付けてきた。
その瞬間だった。
「やめて!」
たまちゃんが、私と篤の間に飛び込んできた。
「たまちゃん!」
叫んだその刹那、
たまちゃんを庇うように、田川が彼女を抱き締める。
ガシャン、と嫌な音が響き、
田川の背中に当たって紙袋が破れ、中身が床に散乱した。
次の瞬間──
振り向いた田川の拳が、篤の顔に叩き込まれた。
「いい加減にしろ!」
怒鳴る田川の背後から、小野が駆け寄り、真っ直ぐ私の前に立つ。
「添田、大丈夫か?」
呆然とする私を見下ろし、篤が吐き捨てるように言った。
「……寝取り野郎が二人揃って、結構なこった」
「お前……!」
田川が篤の胸ぐらを掴む。
「事実だろ?
お前は長塚から田上を寝取って、
小野は俺の彼女を寝取ったんだから」
皮肉な笑みを浮かべる篤に、田川が叫ぶ。
「俺のことは、何と言われてもいい!
でもな──田上を悪く言うのだけは、絶対に許さない!」
その言葉に、私は思わず──
自分の修羅場の真っ只中だということを忘れて、
(……これじゃ、長塚が田川に勝てるわけないよね)
と、冷静に思ってしまった。
すると小野が一歩前に出て、篤と真正面から向き合う。
「今までは黙ってたけど……もう容赦しない。
次に添田に何かしたら──俺が許さない」
低く、はっきりとした声だった。




