番外編~涙の向こう側side千秋⑤~
別れる、別れないで揉め続ける私達に、
「もう……いい加減にしてやれよ」
そう言ったのは小野だった。
どうやら、私達の様子がおかしいことに気付き、後を付けて来たらしい。
「うるせぇな。ナイト気取りかよ、小野」
私が好きになった相手──というだけで、小野に強い憎しみを向ける篤。
「お前も、ヒロインぶって助けられてんじゃねぇよ!」
篤が私を叩こうと手を上げた、その瞬間。
小野がその手首を掴み、捻り上げた。
「何がどうなって、ここまで拗れたのかは知らない。
でも──女に手を上げるのだけは、絶対にダメだ」
低い声でそう言い切る小野に、
「千秋を誘惑したくせに、偉そうなこと言うな!」
篤は怒鳴り返した。
小野は驚いたように私を見てから、捻り上げた手を放す。
篤は腕を振り払うと、
「お前達が付き合うのは、絶対に許さない!」
そう言い残し、荒々しく去って行った。
取り残された私達の間に、しばらく沈黙が落ちる。
「……えっと?
篤、嫉妬で頭おかしくなったのかな?」
小野が、いつもの調子で笑った。
「ごめん……。
私が小野っちを好きになったから、八つ当たりされちゃって」
そう呟くと、小野は目を丸くして固まった。
「えぇっ!? いつから?
……ていうか、俺に添田が好きになる要素、見当たらないんだけど」
あたふたし出す小野に、私は思わず小さく笑ってしまう。
(……そういうところだよ)
私の“かおちゃん”は、優しくて格好良くて、いわゆるスパダリだった。
小野に関しては、スパダリ要素なんて皆無。
名前が一文字違いで、誕生日が同じ。
共通点なんて、それくらいしかない。
でも──今は、それが心地いい。
きっかけは「かおちゃん」だったかもしれない。
それでも今は、ちゃんと“小野自身”を好きになっている自分がいる。
「……まあ。理由は置いといてさ。大丈夫か?」
差し出された小野の手に、私は縋った。
狡いと言われても構わない。
他の誰にも、取られたくなかったから。
そのまま小野に抱き着き、言葉を吐き出す。
「小野。私と付き合ってよ。
あんたが私を好きじゃなくても、構わないから」
小野は驚きすぎたのか、尻もちをついて固まった。
「……え? なんで?」
「好きになるのに、理由っている?」
私の問いに、小野は本気で困った顔をする。
「俺さ……誰かを好きになれないんだよ」
「うん」
「恋愛感情なんて信じてない、最低な男なんだぞ?」
「知ってる」
真っ直ぐに見て頷くと、小野は慌てて捲し立てた。
「そんな俺がいいって……添田、病院行った方がいいって。
あっちゃん、今はああだけど、本当はいいヤツで──」
その唇を、私は唇で塞いだ。
突然のことに、小野は完全に固まる。
「……嫌じゃないなら。
私を彼女にしてよ、小野」
そう告げると、真っ赤になった小野が、下から私を見上げていた。
こうして私は、
押しかけ女房ならぬ──押し倒して彼女になった。




