番外編~涙の向こう側 side千秋~
私には、物心ついた頃から仲良しの幼馴染みがいた。
スポーツ万能で、成長するにつれて爽やかなイケメンになったあいつは、いつも女の子に囲まれていた。
それでもあいつは、いつだって私の後ろばかりをついて来ては、
「ち~、ち~」
そう呼んでいた。
あいつが私を「ち~」と呼ぶ、その声が大好きだった。
幼い頃、私たちは二人だけの秘密の約束をしていた。
シロツメクサの花が咲くたびに、指輪を作って私の左薬指にはめながら、
「大人になったら、結婚しようね」
──今思えば、ずいぶんマセた子供だったと思う。
でも、あいつは中学に上がる前に病に倒れ、この世を去った。
あまりにも突然のことだった。
「ち~、約束を守れなくてごめん」
そう言って、短い生涯を閉じたあいつの前で、私は泣かなかった。
……いや、正確には、泣けなかった。
あいつが病に倒れた時、私は長かった髪をショートにした。
スカートもすべて捨てた。
今思えば、それは短い生涯を終えたあいつへの、私なりの弔いだったのかもしれない。
中学では、制服のスカートの下にジャージを履いて登校し続けた。
女の子として見られないように、話し方も振る舞いも、わざと男の子っぽくした。
そのせいで、
「足に醜い怪我があるらしい」
「実は性同一性障害なんじゃないか」
──そんな勝手な噂が飛び交った。
それでも、どうでも良かった。
あいつのいない世界は、ずっとモノクロだったから。
高校に上がると、そんな私を好きだと言う物好きが現れた。
正直、付き合う気はなかった。
でも、私の両親も、彼の両親も、私の将来を心配していた。
その空気に押されるように、私は付き合うことを選んだ。
告白された彼には、あいつのことも、
だから誰も本気で好きになれそうにないことも、ちゃんと伝えた。
それでも彼は、
「添田さんが、好きになってくれるまで待つよ」
そう言ってくれた。
実際、彼はとても優しくて、私を大切にしてくれた。
──この人なら、好きになれるかもしれない。
本当に、そう思っていた。
……彼に出会うまでは。
二年生になった頃、後ろの席でお笑いコンビのような会話を繰り広げる二人がいた。
あれだけ息が合っているのに、付き合っていないことが不思議で仕方なかった。
それがきっかけで、
ボケ担当──もとい、女の子の方の田上優里さんと仲良くなった。
明らかにツッコミ役の田川君は、どう見ても田上さんが好きそうなのに、
当の本人が驚くほど鈍感で、まったく気付いていない。
最初は、その関係を高みの見物くらいの気持ちで眺めていた。
でも次第に、この鈍感で天然な田上優里ちゃんが、
とんでもない確率で「不幸な道」を選びかねない人物だと気付き──
なんだかんだと面倒を見ているうちに、
気付けば、私たちはお互いに大切な友達になっていた。




