番外編~思い出③~
『コンコン』
ドアをノックする音に、ハッと我に返る。
「こんな所にいたんだ」
歳を重ねた田川君が、ゆっくりと隣に並んだ。
「懐かしい物を持ってるな……」
私の手にある写真集に手を伸ばし、そのまま隣に腰を下ろす。
石橋君がミシェルさんに連絡を入れてくれて、寄贈された写真集。
パラパラとページを捲ると、まだ幼さの残る私と田川君が、楽しそうに笑って写っている。
不思議なもので、年齢を重ねてから見ると、まるで第三者の目で眺めているような気分になる。
「お似合いな、可愛らしいカップルだと思わない?」
そう笑って言うと、
「自分で言うか?」
田川君は呆れた顔をした。
改めて写真集を見つめながら思う。
あの頃の田川君の瞳は、こんなにもはっきりと「大好き」だと語ってくれていたんだと。
「私、鈍感だったのね……」
しみじみ呟くと、
「今更?」
と、また呆れた顔で返された。
その時、廊下をパタパタと走る音が近付いてくる。
「あ!居た居た! じいじ、ばあば! お客様が来たよ」
小さな孫が、ドアからひょっこりと顔を出した。
「これ、見せたら盛り上がるんじゃない?」
「いいよ、恥ずかしい」
こっそり大切に書斎に隠していた本人は、無造作に写真集を本棚へ戻す。
長く夫婦でいると、照れているのが手に取るように分かる。
「ほら、みんな待ってるよ」
差し出された手を取り、ゆっくりと立ち上がる。
幾つになっても、変わらず私の手を引いてくれる田川君。
この人と歩く未来を選んで、本当に良かったと、改めて思う。
賑やかな笑い声が聞こえる客間のドアを開けると、
「よぉ! 聡、たまちゃん」
同じく歳を重ねた、変わらない四人の笑顔が私たちを迎えてくれた。
⸻
お互いの呼び方が、「聡」「優里」から「パパ」「ママ」に変わり、
そして「じいじ」「ばあば」に変わっても──
それでも変わらず、私の手を引いてくれる大きな背中。
でもね、子供や孫がいない時は、ちゃんと「優里」って名前で呼んでくれる。
そんなささやかな優しさに、何度も救われてきた。
ねぇ、田川君。
口に出しては言わないけれど……生まれ変わっても、私はあなたの隣に居たいと思っているよ。
そうしたら今度は、私が先にあなたを見つけて、好きになるからね。
【完】




