番外編~思い出②~
それからというもの、みんなの生暖かい視線が、やけに痛かった。
二年最後の日。
クラス全員で打ち上げをすることになった。
なんだかんだ仲の良いクラスで、カラオケに行ったものの、歌うより会話ばかりで終わるような、そんな集まりだった。
打ち上げも終盤に差し掛かった頃。
「私たちさ、心残りがあるのよ」
須藤さんが、ふっと真剣な顔で切り出した。
「マジで、そろそろ田川と付き合ってあげたら?」
思いがけない言葉に、思わず息を呑む。
「まぁ、好きじゃないなら仕方ないけど」
その一言に、反射的に声が出た。
「そんなことない!」
はっとして口を押さえると、顔が一気に熱くなる。
「たまちゃん、田川の気持ちも考えてあげなよ」
そう言って、須藤さんは私の頭をぽん、と撫でた。
「じゃないと、他の人に取られちゃうぞ?」
微笑みながら言われて、私は小さく頷く。
そうだよね。
あの日からずっと、田川君は私がしたいように、私のペースに合わせてくれていた。
きちんと向き合わなきゃ、ダメだよね。
須藤さんにもう一度頷いた、その瞬間。
「田川〜! たまちゃん、田川と付き合うって!」
突然の大声に、場が一気にざわついた。
「えぇっ!? 言ってない!」
慌てる私をよそに、クラスの男子が田川君に近づき、
「良かったな〜、田川。これ、俺たちからのプレゼント」
そう言って、紙袋を押し付ける。
怪訝そうに中を覗いた田川君は、次の瞬間、慌てて袋を閉じて突き返した。
「お前ら、ふざけんな!」
真っ赤になって怒る田川君に、思わず疑問の視線を向けると、
「田上は知らなくていいから!」
と、ムキになって怒鳴られた。
そんな様子に男子たちは大爆笑。
それを呆れた顔で眺めている石橋君は、さすがという感じだった。
「ほらほら、さっさとくっついちゃいなさいよ!」
須藤さんに背中を押され、田川君の隣に並ばされる。
左右からグイグイ押されて身動きが取れないでいると、
「あ〜! お前らうるさい!」
田川君が叫び、私の手をぎゅっと握った。
そして、そのまま逃走。
⸻
すっかり暗くなった夜道を、並んで歩く。
「気にしなくていいからな……」
ぽつりとそう言われて、握られたままの手の温もりに、胸がドキドキと高鳴った。
「田川君」
「ん?」
「まだ……私を彼女にしてくれる?」
そう呟いた瞬間、田川君の足が止まる。
「それって……」
驚いたように見下ろされて、私はゆっくり微笑んだ。
「大好きだよ。出会った頃より、ずっとずっと大好き」
真っ直ぐ見つめてそう言うと、田川君が息を呑む。
「……本気で言ってるのか?」
真剣な眼差しに、静かに頷いた。
次の瞬間、田川君は私を強く……本当に強く抱き締めた。
「ずっと不安だった……。
また、アイツのところに戻るんじゃないかって」
その言葉に、そっと背中に腕を回す。
「戻らないよ。だって、私の居場所は田川君の隣だもん」
そう言った、その時だった。
「バカ! 押すな!」
「え? やっとくっついた!」
「ちょっと、見えないんだけど!」
「ちょっ……マジで押すなって!」
振り向くと、なぜかクラスのみんなが曲がり角の壁にへばりついて、こちらを覗いていた。
一気に羞恥心が込み上げて顔が熱くなる。
田川君はプルプル震えながら、
「お前ら……応援してるのか、邪魔してるのか、どっちなんだよ!」
と叫び、男子たちの方へ走っていってしまった。
夜の追いかけっこを横目に見ながら、
「良かった〜。二人がくっついたから、安心して三年生になれるよ」
須藤さんが、心から安堵したように微笑んだ。
その時、ふと胸をよぎる。
(もしかして……須藤さん、田川君のこと……)
そう思ったけれど、口には出さなかった。
「男子って……ほんとにバカ!」
須藤さんの言葉に、周りの女子たちが笑う。
「たまちゃん、ついに付き合ったんだね!」
飛びついてきたのは、ち〜ちゃんだった。
なぜか繭花ちゃんまで泣いて喜んでいて、それは少し不思議だったけれど……。
後から聞いた話では、ずっとハラハラしながら見守ってくれていたらしい。
その話を聞いて、改めて思う。
私は、本当にたくさんの人に見守られていたんだ。
あの写真集と、クラスのみんなのおかげで、私はようやく素直に田川君と向き合えた。
そう感じながら、じゃれ合う男子たちを、私は笑って眺めていた。




