番外編 思い出
それはまだ、田川君と付き合う前のことだった。
二年生も残りわずかになった、ある日のこと。
「聡! たまちゃん! 大変だ!」
珍しく、石橋君が慌てた様子で駆け込んできた。
「どうしたの?」
「いや、どうしたもこうしたも!!」
そう言って、彼が差し出したのは一冊の写真集だった。
付箋の貼られたページを開くと、そこには見開きいっぱいに、さるやさんでじゃれ合う私と田川君の写真が載っていた。
「えっ!」
「げっ!」
私と田川君が同時に固まる。
石橋君は走ってきたのか、息を整えながら椅子に腰を下ろし、
「お前ら、この人、すげぇ写真家なんだぞ」
と、誇らしげに言った。
「確かに……SNSはダメって言ったけど……まさか写真集になるとは……」
頭を抱える田川君に、ち~ちゃんが
「わぁ! たまちゃん、可愛い!」
と、写真集を覗き込んで声を上げる。
写真の中では、私たち以外の景色がぼかされ、まるで時代を遡ったお茶屋さんで、いちゃつくカップルにしか見えなかった。
私の顔を覗き込む田川君の満面の笑みと、少しむくれて笑う私。
(あの時か……)
蘇る記憶に、思わず苦笑いが浮かぶ。
全文英語で書かれていて、何が書いてあるのか分からずにいると、
「お前ら、『初々しくて可愛らしい恋人』って紹介されてるぞ!」
と言われ、私と田川君は顔を見合わせた。
「あの時、ちゃんと説明しないから!」
「はぁ? お前だって否定しなかったじゃないかよ!」
「いや、あれはほら、そういう意味とは思わないじゃない?」
「それなら、俺だって同じだよ!」
言い合いになる私たちに、石橋君が呆れたように言う。
「いや、それ以前にさ……世界的に有名なカメラマンに撮られて、しかも写真集になって、世界中で売られてることにビビろうか?」
「あ! 本当だ!」
二人で顔を見合わせ、思わず笑ってしまった。
「もうさ、いい加減付き合っちゃいなよ。ダラダラ友達なんかやってないで!」
ち~ちゃんの言葉に、
「俺は、すぐにでも進展したいけど……」
と、田川君がぽつりと呟く。
その瞬間、三人の視線が一斉に私に突き刺さった。
苦笑いを浮かべた、その時だった。
「わぁ! たまちゃん、可愛い!」
繭花ちゃんまで乱入してきた。
「すごいね! 世界的に有名なカメラマンさんに写真撮られるなんて!」
その声につられて、クラスの人たちが集まってくる。
「え! ミシェル・クラシアの写真集じゃん! ヤバ!」
「たまちゃん可愛い! 田川、メロメロじゃん! この鼻の下が伸びた顔!」
みんな、好き勝手に言いたい放題だ。
そして写真集から私へと視線を移し、
「で、いつ付き合うの?」
「もう、付き合ってるようなもんじゃん?」
「ほら、世界中に恋人って知れ渡ったんだし、さっさと付き合えば?」
口々に言われ、私はますます居心地が悪くなった。




