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賭けの行方 その3

ようやく最終話です。大変お待たせしました!

 ひきこもりと高校生の攻防は、栃木が思いもよらない形で決着を見せたらしい。

 これは栃木が藤堂から聞いたことの顛末である。






+ + +





 留学する気満々の奈々枝となんとかそれを思いとどまって欲しい藤堂。藤堂は海外がいかに危険かということを滔々と語るものの、奈々枝は鼻で一蹴。行ってみなければわからないし、そもそもそこで生活している人たちだっているのだから、気をつけてさえいれば大丈夫と主張する奈々枝。どちらに分があるか、といえばそれは勿論奈々枝である。


「で、結局引き留められなかったんだろ?」


 栃木がにやにやと藤堂にそう問いかければ、ふてくされた顔で、そうだよ、と返された。


「だいたいさ、フランスとか遠すぎるじゃん。ひきこもりじゃないのかよ。しかもフランスでは柏崎さんの家で生活するとか言うし」

「同棲か」

「同居っ!」

「いやいや、男女が一つ屋根の下に住むんだぞ?これを同棲といわずしてなんという?」

「言い方がエロいんだよ。いとこ同士が同じ部屋に住むのはそう変な話じゃないだろう?だから、同居」

「本当にそんなこと思ってんのかぁ?いとこ同士でも結婚できるんだぞ」


 栃木の言葉にひるむ藤堂。それはそうだ。藤堂は有志と奈々枝が性的関係にあったことを知っている。たとえそれが四年前に終わった話だとしても、いつ再燃するかわからないではないか。

 だから、せめて違う部屋に住みなよ、と言った藤堂に奈々枝は、もったいないだろ、とけろりと言った。


+ + +


「部屋にお金を使うくらいだったら、その分、旅行したい。それに、藤堂が心配してるようなことはないよ」

「なんでそんなこと言えるの。奈々枝さんはそうかもだけど、向こうは違うかもじゃん」

「ないな。仮に有志がそういうことしようとしても、わたしが拒絶すればいいだけの話だし、それに、わたしがフランスに行っている間、あいつも演奏旅行だとかなんだとかであんまりフランスにはいないんだ。だからちょうどよかったっていうのもあるし」

 へたれのお守りは嫌だからな、と奈々枝は言う。

「でも」

「でも、と言われても、もう決まったことだし、止めるつもりはない。まあ諦めろ。お土産は何かリクエストあるか?なければ適当に買ってくるが?」



 奈々枝の質問にうつむいていた藤堂は、どうしようもなくなったかのように、奈々枝を見上げて、迷惑?、とつぶやいた。


「奈々枝さんはさ、僕の奈々枝さんの特別になりたい、っていう要求は迷惑?」

「はぁ?」


 奈々枝にしてみれば、この男はいきなり何を言い出すんやら、といった心境である。高校生はやっぱりよくわからない。


「だって、奈々枝さん、動揺もしてくれない」

「それはもともとの性格だ。そのくらいで動揺を他人に見せたりはしないよ」

「じゃあ僕の言葉に動揺してくれた?」

「多少は、な。ただ、申し訳ないと思ったがな」

「申し訳ない?」

「貴重な高校時代にわたしみたいなのにひっかかるなんて、可哀想じゃないか。藤堂の気持ちが勘違いじゃないとしてもだな、わたしはそれに返せる気持ちを持ってないからな」

「今すぐ同じ気持ちになれなくてもいいよ。だけど、この先、そういう対象として僕を見てくれるって可能性はないの?」

「未来の可能性をいうのなら、百パーセントないと否定することはできないんだろう。人の気持ちはかわるものだし。だけど、だ。わたしはそういう対象を必要としていないし、これからいつ必要とするかもわからない。おそらくよっぽどのことがない限りは、そういう対象を必要としないだろう。なぜならもっと他にやりたいことがあって、そういうことを考える余裕は正直ない」


 ああ、と藤堂は思った。

 だからそういうことをさらりと言ってしまうから、ダメなのだと。

 年下だから、とかそういうことを理由にしてしまえばいいのに、あくまで問題があるのは奈々枝なのだ、と。

 藤堂に対しても誠実に答えようとするその姿勢がどれほどまぶしく映るのか、この人は理解していないのだ。






+ + +





「で、まあ奈々枝さんも頑固じゃん?」

「まー、おそらくそうだろうな。自分の納得いかないことには首を縦に振ったりはしないだろうな」

「だから、このまま正攻法でいってもだめだと思って」

 それに、今まで僕が持っていたスキルじゃ、奈々枝さんに通用しないってよくわかったし、と小声でつぶやく藤堂が怖い。


「で結局どうするわけ?」

「ふふ。ね、栃木はさ、もともと僕と奈々枝さんの賭けの内容を知ってるだろ?」

「ああ。俺らの夏休み中に藤堂を説得できれば、奈々枝女史の勝ち。藤堂は奈々枝女史の家には近寄らないってやつな」

「そう、それ。結論からいけば、奈々枝さんはさ、僕を説得できなかったわけだよ。だから僕は堂々と奈々枝さん家に通えるってわけ」

「押しかけ女房かよ」

「いやだなぁ。正当な権利でしょ?賭けに勝ったのは僕なんだから」 


 どうでもいいけど、美形が笑うと迫力あるなぁ、というのが栃木の感想である。いつもよりいきいきしているように見えるのは、錯覚ではないだろう。こういうのは大抵、よろしくない企みごとを考えているときだ。


「だからね、僕は奈々枝さんをあきらめる気ないし、賭けに勝ったんだから、奈々枝さんが帰国したら今度は口説くことにするね、って言ったんだ」

「ご愁傷様」

「なんでだよー。それにさ、僕にお土産買ってこようか、って奈々枝さんが言ったんだよ?お土産買ってきてくれるなら、それを受け取りに行かなきゃ失礼じゃないか。そのついでに口説いて何が悪い?」

「悪いとかじゃなくてさー。俺、奈々枝女史がだんだん哀れになってきた。お前みたいなのに狙われたらすっぽん並みにしつこそう」

「うるさいよ。でも奈々枝さんってそういうの淡泊っぽいから、僕くらいしつこいのでちょうどいいんだよ」

「自己中な論理展開をどうもありがとう」


 どうやら賭けの行方はまだ決まったわけではないらしい。

 これからも高校生に奈々枝女史は振り回されることになるのだろう。それと同時に藤堂だって奈々枝女史に振り回されることになるのだ。

 どちらがご愁傷様なのかは案外わからない。






 これがひきこもりと男子高校生の戦いの結末である。

 ひきこもりが最終的に男子高校生に捕まえられたかどうかはまた別のお話。

 こうして毎日は過ぎさっていくのだ。


 事実は小説より奇なり

お付き合いいただき、ありがとうございました。

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