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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
第一章 魔王の死編

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第5話 藤海那々子

本日は4話更新予定です。

「週末は、魔王のおじ様をぶっ殺しにいくから……実家の都合でね」


 東京は文京区にあるお嬢様学校──『冥楯(めいじゅん)女学院』。

 その教室の片隅で、プルムが始業前の朝っぱらから物騒なことを言った。


「ぶっ殺す」という、お嬢様学校ではあまり聞かない、治安が悪い言葉だけ聞こえた生徒たちが、怪訝(けげん)そうな顔でプルムたちの方へ、数秒視線をやる。

 だが、「いつもの()()()()か」と、自分たちのやるべきことに戻った。


 一方、プルムと机を挟んで目の前にいた少女は、泰然自若(たいぜんじじゃく)としていた。


「そういうことで、ごめんね藤海(ふじみ)


「ってことは、ウチとのおうちデートはリスケってこと?」


 藤海と呼ばれた、眼鏡をかけたそばかすの少女が、ドスの利いた声で言った。


 長い黒髪を後ろで三つ編みにしており、冥楯女学院の黒を基調とした制服もあいまって、文学少女という言葉がピッタリである。


 ただ身長は同世代の男子並みに高く、小柄なプルムより顔1つ分大きい。

 眼鏡の下の目つきも鋭く、気が強そうだった。第一印象は大人しそうだが、5秒も観察するか、声を聞けば、文学少女の皮を被った狂犬と感じるだろう。


 藤海(ふじみ)那々子(ななこ)


 プルムの数少ない、中等部時代からの友人だった。


 あのプルムと友人関係が続くのは、よほどの聖女か、本人もプルムと同じくらいのヤバい魔女かのどちらかである。藤海がどちら側なのか、彼女の名誉のために明言は避けておく。


「さむい」

「だ~か~ら~藤海~、マジで悪かったわよ~」


 珍しくプルムが、本心からの申し訳なさそうな顔をする。

 そんなプルムの顔を見て、渋々納得したような顔を藤海がした。


「まぁ、実家の事情なら仕方ないか。いつなら大丈夫そうプルム?」

「来週ならたぶん。そん時に、私んちでアニメの料理再現お泊り会しよーよ」

「……たぶん?」

「いや絶対絶対。マジで、そん時は絶対大丈夫」

「ならいい」


 藤海は不機嫌な時はハッキリ言うが、それで人を操ろうとする人間ではない。時間の無駄なので、とっとと話を切り替えた。


 そもそもプルムの魔王うんぬんはふざけた冗談だと藤海は思うが、実家の都合と言われては無理を言うわけにも、事情を深堀りするわけにもいかなかった。


「それよりプルム、頼まれてたもの買ってきたよ」


 そう言って藤海が、自分の学生カバンを机の上に置いた。


「マジで? マジで?」


 プルムが興奮気味に、身体を前のめりに乗り出した。


「そ、それ……そんな気持ちいいの藤海?」

「うん、凄いよ。一度使ったら世界変わっちゃって、戻れなくなっちゃうから」


 ふっふっふ、と怪しく笑いながら藤海がカバンからあるものを取り出して、机の上に置いた。


 男性用のボクサーパンツである。


「ば、馬鹿。そんな堂々と取り出さないでよ……!!」


 プルムが慌ててボクサーパンツをふんだくって、自分のカバンに入れた。


「何をそんなに恥ずかしがってるんだよー、プルム?」

「いや、男物の下着とか持ってたら、変に思われるかもしれないし……」

「ウチなんて、別に見られても気にしねーけどね」


 そう言って藤海が、自分のスカートを雑にめくりあげた。

 日の光を浴びてない白く、そしてちょっと駄肉がついた太ももの奥に、グレーのボクサーパンツが見える。


「見せなくていいって。荊州に流れ着いた時の劉備玄徳(りゅうびげんとく)みてーな太ももと、男物のパンツ見せられてもエロくない……いや、エロかしら? ちょっとエロティシズムかしら? ……ダメだ、やっぱ藤海じゃ抜けないわ」


「なんだァ? てめぇ……」


 そう言って藤海が、スローモーションで正拳突きを繰り出す。


 それを(ほほ)に受けたプルムが、「ぐわー、見えているのに避けられない」と大げさに悲鳴を上げながら、後ろに吹っ飛ぶ仕草をした。当然、痛くも痒くもない。


「ってかさぁ、プルム。メンズのパンツくらい、自分で買えばいいじゃん。コンビニでも売ってるんだしさぁ」


「い、いやだって……なんか恥ずかしいし」

「なんで?」

「男いないのに、男物のパンツ買うって、なんか見栄(みえ)張ってる感じしない?」

「自意識かじょー」

「いやいやいや、藤海あんたが人目を気にしなさすぎるだけだって!」


 上履きどころか、靴下まで脱いで、椅子の上であぐらをかく藤海を見てプルムがそう言った。高偏差値のお嬢様学校の、学年2位の姿にはとても見えない。


「ウチだって、これで結構人の目気にしてんだけど?」


 藤海が少しムッとした表情を見せる。


「舐められたくないじゃん」

「…………」


 藤海の言葉を聞いて、プルムが左右を見回す。


「あれ? ここってヤンキー校だっけ?」


 品のよさそうなお嬢様生徒たちを見ながら、プルムがそう呟いた。


「見ての通りお上品なお嬢様学校だけどさぁ、だからウチら世間から微妙に舐められてんじゃん。大人しそー、とか。運動苦手そー、とか。許せなくね?」

「何と戦ってるのよ、藤海……」

「世界と」

「うわっ……かっけぇ。主人公のセリフっぽいじゃない」


 感心と呆れが半々の声をプルムが出した。

 本来はもっと丁寧な言葉遣いだったのだが、藤海との3年以上の付き合いで影響されて、プルムも少々ラフな感じになってしまった。


「だからさぁ、ウチ横浜の伊勢佐木(いせざき)町……あそこらへんは福富(ふくとみ)町って言うんだっけ? ちょいコリアンタウンっぽくなってる町の店でさぁ。あー、そうだ。ウチそこで初めてソープ見たんよ、ソープ! 街中に普通にあってビックリしちった」


「えっマジで? そういう店って、隔離された場所にあるんじゃないの? 遊女の脱走防止の壁とかある」

「ウチも吉原遊郭のイメージあったから、そう思ってたんだけどさぁ。子供も通る街中にフツーにあってビビった。写真撮ろうと思ったけど、怖い人に囲まれたら怖いから、撮るのやめといたけどさー」


「えー、でもすごーい。今度一緒に見にいこーよ。私、そういうソープとかリアルで見たことないし、見てみたーい」


 きゃいきゃいと、女子ふたりが風俗店の話で盛り上がった。


「んで、なんの話してたっけプルム?」

「藤海が舐められたくないから、横浜のそーゆー町に行ったってとこ」



「あーそうだった。んでその町の店で、胸元にペイントタトゥーとか入れてみたりしたんだけど、あれって服脱がないと見せられないじゃん」

「え? 藤海あんたそんなん入れてたの? ってか、そういうお店って未成年でもOKなの?」

「ホントはダメだけど、プルムのお姉さんの紹介で、特別にやってもらった」

「……マジかよ、お姉様なにやってんのよ?」


 (えり)を緩め、服の中を見せる藤海を覗き込み、プルムが呆れた声を出した。鎖骨の下から乳房の上にかけて、リンゴをかじった蛇のタトゥーペイントが見える。入れてからだいぶ時間が経ったのか、かなり薄くなっていた。


「ま、これは不発だったんだけどさ、もっと安価で相手ビビらせて舐められないようにする方法、ウチ思いついたんよ」


 そう言って藤海が自分の財布を取り出して、中を見せた。

 小さなジッパー付きのポリ袋がある。

 そして、その中には────白い粉が入っていた。


「ちょ、ちょっと藤海……これって?」


(しお)


(しお)かー」


 少し安心したように、プルムが復唱する。


「酸の水素イオンを他の陽イオンに置き換えた『(えん)』な意味の(しお)じゃなくて?」

「塩化ナトリウム的なほうの塩。いや、そっちも塩酸の水素イオンを、ナトリウムに置き換えてるけどさ」


 そう答えて、藤海が塩が入ったポリ袋を取り出した。


「これ見せたらさ、ただの塩なのに相手勘違いしてビビるし、裏社会のこわい人たちからも舐められないんじゃねプルム?」

「ええ~? そうかしら?」

「まぁ、ちょっと待っててよ。実例見せるからさ」


 藤海がポリ袋を財布の中に入れる。そして靴下を履かず、上履きを(かかと)を部分を踏みながら履いて、意気(いき)揚々(ようよう)と近くで談笑していたグループへ向かっていった。


(嫌な予感がする……)


 一人残されたプルムが、内心そう思う。


「どうしたの、藤海さん?」


 クラスの問題児として名高い藤海が急にやってきても、女生徒たちは表向きは明るく受け入れてくれた。


「…………ん」


 藤海が財布を開き、女生徒たちに見せる。


「え?」「なに?」


 その奇行に、女生徒たちは困惑するばかりだった。


「ん……」


 藤海がわかりやすいように、塩の入ったポリ袋を指で取り出す。

 そしてわざとらしく、何度も隠したり見せたりを繰り返した。

 当然、そんな行動をされても女生徒たちの困惑は深まるばかりである。


 いや、わからんて……


 遠目に見てたプルムがそう思った。


 そもそも、いいところのお嬢さんばかりなんだし、白い粉=麻薬って思う発想すらない子たちなんだって。


「安心して」

 仏頂(ぶっちょう)(づら)だった藤海が、急に満面の笑みを見せる。


「これね、塩」

「えっ? あ……うん」


 最後まで疑問符を浮かべながら、女生徒たちがきょとんとしていた。

 だが、藤海は何かを成し遂げた顔で、満足そうにプルムのもとに戻ってくる。


「見てた?」

「見てらんなかったわよ!」


 共感性羞恥(しゅうち)に顔を真っ赤にしながら、プルムが叫んだ。

 そして、両手で頭をかかえて(うつむ)く。


「うわー、なんで私こんな冷笑系クソ陰キャ眼鏡と友達やってんのかしら?」

「言ってくれるじゃない、プルム」


「中学の自己紹介の時に『日本の漫画やアニメに興味あります』って言っちゃったのが失敗だったー。それでこいつに目ぇつけられたんだもん。藤海と出会わなければ、もっときらら漫画みたいな明るいJK生活送れてたのにぃ」


「いーや、プルムあんたはウチと同じで魂が陰キャの形してるしね。あの時、ウチに声かけられなくても、どこかで出会ってこうなってたはずだから」


「うーわ、最悪すぎる。呪われた運命すぎる……」


 はぁ、と深くプルムが溜息をつく。そして、一刻も早くこの藤海とかいうヤベー女と(たもと)を分かとうと決意した。


「そういや、話はずいぶん戻るけどさぁ」


 藤海が何か思い出したような顔をする。


「今度のお泊り会の食費分、ウチがメンズのパンツ買ってきたわけじゃん」

「ええ、そうだけど。その分、私が食材買うって感じで」


「金銭的には対等だけどさ、そっち一人で料理するんでしょ。ウチはファミマでパンツ買ってきただけだし、労力的に楽すぎてなんか申し訳ないなーって」


 人格に問題多かれど、なんだかんだで公正な藤海がそう言った。


「だったら、最後に皿洗いでもしてくれれば、それでいーよ」


 とプルムが提案する。


「ヤだ。家事とか女子供のすることだし」

「女子供でしょーが、あんた……」


 はぁ、とプルムが溜息をつく。


「ってか、今どきだと男の人がそれ言ったら炎上するよ、作家の藤海センセ」

「ウチ、女子供でよかったわ」

「やっぱ女子供じゃねーか。だったら家事してよ」

「絶対に()


 家事嫌いの藤海が、断固として拒否する。


「まぁ、いいわ。そんじゃ、ちょっと代わりに藤海にはやってもらいたいことがあるから」

「殺人なら2人まで請け負うよ、プルム」

「皿洗いの代わりで!? 命やっす。いや、でも2人どころか、数十万数百万の命に係わることになるかも……」

「?」


 プルムの言葉に、藤海がきょとんとした顔を浮かべる。


「魔王ぶっ殺したあとの、戦後処理に関して相談に乗ってほしいのよ」

そろそろ異世界を舞台にしないと、ジャンル詐欺になりそうで、ひやひやしています。

次の話からようやく異世界が舞台です。

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