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アウトロープリンセス~異世界の嘘つきお姫様はスローライフがしたいのに事件や陰謀ばかり【なので】日本と行き来するスキルと暗躍で解決します!  作者: 青色39号
序章 カーバンクル編

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第1話 奇妙な女

初作品です。よろしくお願いします。

主人公が暗躍メインのお姫様なので、ハメられる相手視点の描写が多いです。

 パパ活目当ての馬鹿女というよりは、異世界のお姫様にしか見えなかった。


「プルムと申します」


 長い長い銀の髪を持つ少女が、そう日本語で名乗る。

 そして黒いロングスカートの(すそ)をつまんで持ち上げ、片膝を軽く曲げながら


「ごきげんよう」


 と優雅な挨拶をした。

 大仰(おおぎょう)だが芝居じみてはおらず、自然な手つきである。


那狼(なろう)組の紹介で参りました。今宵(こよい)何卒(なにとぞ)よろしくお願い申し上げます」


「あ、ああ……」


 プルムと名乗った少女に、映画やアニメでしか見たことがない挨拶をされ、家主の若い男がたじろぎながら、少し間抜けな声で返した。


 ここは、東京は港区の高級マンションである。


 中古であるがそれでも二桁の億はくだらない部屋で、以前はとある芸能事務所の社長に、私宅兼アイドルの合宿所として用いられていたものだ。


 だが、目の前の少女から発せられる王族のような高貴なオーラの前には、不相応なみすぼらしい部屋に見えてしまう。


 しかし、不釣り合いというのであれば、男も負けていない。


 二十代前半で背はそこそこ高いが、やせ気味のこれと言って特徴のない顔。

 覇気も才気も感じない、町に出ればそこら中にいそうな顔。


 ハイブランドを身に着けているが、服に着られてるといった印象だった。


「どうかなさいましたか?」


 困惑する男を見て、プルムが少し不安そうに首を(かし)げた。

 アメジストの輝きを持つ紫の瞳で、男の顔をじっと見つめる。


「もしかして、わたくしではお気に召しませんでした?」


「あっ……いや、そうじゃなくて……ええっと」


 パパ活女なんかに、何を気を使っているんだ俺は……


 若い男はそう思いながらも、プルムの容姿が気に食わなかったという誤解を解くために、なんと言うべきか考えた。事実プルムは男が今まで見た中で、とびきりの美少女と言ってよい容姿をしている。


 だが、正直に「異世界のお姫様に見えた」と告げるのも恥ずかしい。口説き文句としても、うすら寒い。ゆえに、適当に困惑していた理由をでっちあげた。


「その制服を見て、驚いたんだよ」


 プルムの着ている黒いセーラー服を、男が指さした。


「メイジュンの制服だろ、それ?」


 冥楯(めいじゅん)女学院────通称メイジュン。


 メイジュンは、都内でもトップクラスの偏差値を誇るお嬢様学校だった。

 パパ活とは、イメージ的にはもっとも程遠い学校の制服である。そのことに男が違和感を覚えていたのは、本当であった。


「ええ、わたくしはそこの生徒なんです。あっ、学生証ご覧になります?」


 屈託のない笑顔を浮かべ、プルムが男へ近づいてくる。


 すぐそばで見ると、思ったよりプルムは小柄だった。身長は150センチあるかないかしかない。男は先ほどまでオーラに圧されて、少しプルムのことが大きく見えていたようだ。


「ええっと……ああ、これです」


 プルムが淡いピンク色のフラグメントケースから、学生証を取り出す。


冥楯(めいじゅん)女学院高等部 プルム・アンシャール』


 そこには確かに、プルムの名前と顔写真があった。

 生年月日からして、もう誕生日を迎えた16歳の高校1年生のようだ。


 勉強は出来るが、馬鹿なのか?


 男が、そう思った。


 初めて出会うパパ活相手に、平気で個人情報を漏らす危機感のなさ。

 いや、逆にこれこそが、何も知らないお嬢様ゆえなのかも知れない。売春(ウリ)に慣れたスレた連中だと、偏差値は低くても警戒心は高い。


 那狼(なろう)組の連中め、SSR(大当たり)の女をよこしてくれたな。


 そう男が思った時


「……ん?」


 何かに気付いた。


 学生証を持つプルムの左手。その手のひらが、異常に(ただ)れているのだ。


 火傷の(きずあと)


 もうだいぶ前に治っているようだが、それでも痛々しく引き()れている。


「お恥ずかしい限りです。お見苦しいものを見せてしまいました」


 男の視線が意味するものを、プルムが察する。学生証をケースの中にしまい、左の手のひらが見えないよう、握りしめて隠した。


「本当はこの傷痕も消してしまいたいのですが、両親がそれを許してくれず……でもわたくし、どうしてもこの醜い傷痕を治したくて……」


「ああ、いいからいいから。辛そうだし、無理に言わなくて大丈夫だよ」


 泣きそうな声で言葉を絞り出すプルムを、男がなだめた。


 お嬢様学校の優等生が、パパ活する理由はこれか?


 男が、そう推測する。


 もしかしたら、親に虐待されて出来た火傷の痕で、病院に行くと虐待がバレるから親に止められているのかもしれない。だとしたら、可哀想だ。


「優しいんですね……」


 プルムが目に涙をにじませながら、安心したような(はかな)げな笑顔を見せた。


 男は正直、その笑みにかなりぐっとくる。


 白磁(はくじ)で出来た芸術品のように、完璧な美を持つ少女が見せた、弱々しい笑顔。


 男は思わず、プルムを抱き寄せようとした。


「おっと、少々お待ちください」

「……うっ」


 理性が飛びかけた男の顔の前に、火傷のあと痛々しい左の掌を突き出してプルムが男を制した。


(……あれ?)


 男が微かに、違和感を覚える。


 これが傷痕のない右手であれば、男は気にせずプルムを押し倒していたかもしれない。

 だが、流石に顔の目の前でグロい傷痕を見せられては、性衝動とは別の本能的なものがブレーキとなって、止まらざるをえなかった。


 そして、なんとなくではあるが、プルムはそれをわかっていて


 ────計算の上で行ったような気配がした。


 人に見せるのが恥ずかしい、治したいとついさっき言っていたはずの傷痕であるのにだ。それをまるで、水戸黄門の印籠(いんろう)のように、便利使いしている。


 だが、男が深く考えるより先に、プルムは聞き捨てならない言葉を放った。


「ゴムは絶対にしてくださいね」

「えっ?」

「妊娠して子供が出来たら、お兄様から叱られてしまうので」


 そう言って、プルムが、先ほど学生証を出したケースの中から避妊具を────コンドームを1枚取り出した。


「い、いや経口避妊薬(ピル)もあるし……それにナマの方が、そっちも気持ちいいよ」


 と男が食い下がった。


「んー、でもアフターピルの避妊率95%くらいですし、副作用も嫌ですしねぇ」


「じゃ、じゃあお金もっと出す!! ほら、その手の手術にかかる金額を、今回の分とは別に負担してもいい」


「ええ~、どうしよっかなぁ~?」


 必死に食らいつく男に対して、先ほどの泣きそうな弱々しい顔とは打って変わって、プルムが獲物をいたぶって遊ぶ猫のような顔で見ている。


「それに、1枚だけじゃゴム絶対に足りないよ」


「そうですねぇ、ならば……ああ、ちょっと顔の位置下げてください。そうそう、そのくらいで」


 男の腰と膝を曲げさせたあと、プルムは、くすっと小悪魔のような微笑みを浮かべ、男の耳元で囁いた。



 ────私が持ってるゴム、使い切れたらナマでいいですよ



「…………ッ」


 脳を溶かすような甘い言葉を、耳から直接頭蓋骨に流し込まれ、それだけで男が絶頂しそうになる。


 下半身のごとく硬直している男から一歩離れ、プルムがまた1つコンドームを取り出した。


 2個か? 3個か? それとも5個か?


 また一枚新たに取り出され、無造作に床に捨てられたコンドームを見て男がそう思う。


 男の意地をかけて、絶対ナマでやる。ヤってやる。


 今の俺には()()()がある。


 10回だって余裕だ。

 見ていろ、そんな小さなケースに入る枚数じゃ足りないくらい夜通し……


「……あれ?」


 男が間抜けな声を漏らした。


 プルムが取り出しているコンドームは、すでに20枚を余裕で超えている。

 小さな山のように、足元にコンドームがこんもり積もっていた。


 そして、まだまだ何枚も、何枚も、コンドームが無限にプルムの持つ小さなケースから出てきた。


 馬鹿な……ありえない!!


 そう男が思った。


 あきらかに、ケースの体積以上のコンドームが出ているじゃあないか!?


 異常な現象に、男の中で性的興奮が、急激に冷めてくる。

 代わりに不気味な感覚が、背筋から無数の蜘蛛のように這い上がってきた。


「ん? もう終わりかな?」


 プルムが、ケースの中を覗き込む。

 すでに十分異常事態だが、これ以上は起こらないと思った男が、その言葉にほっとすると……


「ああ、まだ奥の方にありました」


 そう言ってプルムが、ケースをひっくり返す。

 すると、まるで蛇口をひねった水道かのごとく、ケースの中から大量のコンドームがあふれ出してきた。

 床を覆いつくさんばかりの勢いで、大量のコンドームが散らばっていく。


「なっ……あ? ………ええ?」


 あまりに、あまりにも現実感のない出来事に、男が言葉を失う。


 まるで、下品なギャグマンガのワンシーンだった。

 だが、それが現実に目の前で起こると、想像を絶するほど不気味でしかない。


「あれ、ペットの鳴き声かな?」


 と、プルムが小さく呟いた。


「────ッ!?」


 その言葉に、男が雷に打たれたかのようにビクンと反応し、自分の右後ろを振り返って見た。


「ああ、気のせいですよね。このマンション、ペット禁止ですもんね」


 ふふっとプルムが小さく笑う。

 冷や汗をかいた男が、プルムに視線を戻した。

 その瞬間、男の顔からさらに冷や汗が溢れ出ることになる。


「え……ッ?」


 ない。

 どこにも───ない。


 先ほどまで床に大量に散らばっていたコンドーム、それが煙のように消え去ってしまっているのだ。

 いや、2枚だけプルムが、指でつまんでゆらゆらと揺らしている。


「あれ? そんなに汗をかいて、どうかしました? 若いのに、2発以上するのは無理なのかなぁ? それともぉ~……」


 ゆらり、とプルムが歩みを寄せ、男の下あごを()でる。




()()()()()()を、飼っているんですかぁ?」




「────ッッッッ!!」


 今までとは違う冷たい声、冷たい瞳、そして冷たい笑顔。

 まるで別人のような────氷柱(つらら)をそのまま耳の穴から、脳みそに突っ込んでくるかのようなプルムの言葉。

 そして、その言葉に()()()()があったため、男の顔は一気に青ざめた。


「どこにいるのかなぁ? こっちかなぁ?」


 わざとらしい棒読みで、プルムが勝手にリビングから寝室に入っていった。


「お、おい待て……ッ!!」


 慌てて男がプルムを追って、自分も寝室に入っていく。


「あらら、いませんね。まぁベッドルームだし、ちゃっちゃとヤることヤってからペット探ししますか」

「だから待て!! お、お前は一体何を知っている!?」


 掛け布団を持ち上げ、中を確認しているプルムに、男が声を引きつらせながら尋ねた。


「え、なになにこわ~い? お腹でも空きましたか? ご飯食べます?」

「疑問文に疑問文で返すな!! 俺の質問に……」


 男の言葉の途中で、プルムが掛け布団を戻す。

 そして、もう一度掛け布団をめくった。


 そこには……


「ほら、ディナーも用意しましたし、一緒に食べましょうよ」

「────ッッッ!!!!????」


 先ほどまで何もなかったベッドの上に、料理があった。

 フルコース一式が、綺麗に並べられている。

 まるで今シェフが用意したかのように、ほかほかと湯気が立ち上っていた。


「なんだ……なんだこれはッ!?」

「メインはタチウオのミキュイ、タプナードソース乗せですけど。スープの方は三浦大根の……」


「料理名を聞いてるんじゃあないッ!!」


 男の心からの絶叫に「疑問文で疑問文で返すなって言うからちゃんと答えたのに……勝手な人ねぇ」とプルムが呆れたように、やれやれとため息をついた。


 おかしい……やはりおかしい……


 男が、そう思う。


 めちゃくちゃだ。

 そもそも、最初から設定が変だったんだ。

 異世界のお姫様のような見た目をした、お嬢様学校の生徒がパパ活に来る?

 この時点で、ありえなかったんだ。


 俺は正気を、とっくに失っていたんだ。


 そうだ……きっと()()()が切れて……


「薬を……薬を飲まなくちゃ……」


 男がそうぶつぶつと言いながら、フラフラと寝室から出ていく。

 そして書斎として使っている部屋に入り、ドアをしっかり施錠した。


 黒檀(こくたん)の机の引き出し開けると、中に重厚な鈍い輝きの金属が見える。 


 拳銃だ。


 男がガバメントと呼ばれる拳銃を右手で取り、さらに引き出しの奥を漁った。


 すると、そこからビニール袋が出てくる。

 その中に、赤く輝く小さなルビーのようなものが、いくつか入っていた。


 この薬だ。

 この薬に俺は救われてきた。

 これさえあれば、なんだって上手く……


「これが、噂の麻薬『レッド・キャンディ』ね」


「うわああああああああッッッッ!!!!????」


 背後からの声に男が驚き、ぐるんと声の方を向こうとしながら、腰が抜けて派手にきりもみになって転んだ。

 声の主、プルムは男が転ぶ際に空中に放り投げたレッドキャンディと呼ばれるものをキャッチしている。


 男が、そんなプルムの姿を見て思った。


 なんで?


 なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでななななななななななななんで?


 どうやってここに現れた?


 確かに、ドアには鍵を閉めた。

 そもそもドアが開く音すら、俺は聞いていないぞ???


「おっおまっ…お前はいったい……ッ?」


 男が腰が抜けた状態のまま、握りしめていたままの銃をプルムに向ける。


「あーあ、ずっと探していたのよね。『カーバンクル』の宝玉の欠片(かけら)。三か月かけてやって見つけたわ。不死の密売人の時より、時間かかっちゃった」


 男も銃口も気にする素振りすらなく、プルムがレッド・キャンディを1粒指でつまんで凝視していた。

 そして……


「前から気になってたけど、どんな味がするのかしら?」


 と、映画館のポップコーンかのように、その赤く光る薬を口の中に入れた。

序章は日本が舞台ですが、全体的に異世界が舞台になることが多いのでジャンルは『ハイファンタジー』にいたしました。

比率は日本3、異世界7くらいの予定です。

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