最終話(後編)
さて。
その後の話をしよう。
少年はどうなったのかというと、村から届けられた鏡を利用して、山神とともに “あちら” の世界へと無事に渡った。
本来であれば村に戻される年明けになっても少年は帰ってこなかった。
死んだとかそういうわけではなく、ただ「山神の傍にいたいのだ」と自ら帰ることを拒んだという。山神もそれを許したため、彼はあの日から一度もこの村には帰ってきていない。
村長の息子である少年の異母兄はというと、神事が終わった後に葬儀が行われ、墓に入れられた。
あの場から逃げ出した異母弟は、あの後山の中を彷徨っているところを村の者に保護されたものの、多少なりとも精神面に不安が残ってしまった。
きっと将来はしっかり者の娘を嫁に迎えることになるだろう。
少年の異母兄弟に賛同して事を起こした連中は、しっかりと処罰を受けた。
逆に、少年を守った4人の男たちは英雄扱いされたという。
この先、時代の波に翻弄されることになろうとも、この村はいま山神の庇護の下、平和であった。
「僕ね、ずっとよく分からなかった言葉があるんだ」
青年が呟く。右袖が風に揺られ、ゆらりと揺れた。
隣に立つずいぶんと背が高くなった青年を、橙色の小袖を頭から被った女性が仰ぎ見る。
「こっちに来る前、村長に『ひとつだけ、なんでも答える』って言われたから『どうして僕が生まれたんですか』って聞いたんだよ。そうしたら」
―― 彼女をあいしていた。力及ばず、守ることができなくてすまない。
「って、教えてくれたんだよね。でも、そのときの僕は “あい” ってなんだろうって思ってたんだよ」
青年は女性に振り返った。
そうして左手で、彼女の右手を握る。
「でもあなたと一緒に過ごしていくうち、弥兵衛の夢を見ていくうちに、思ったんだ。”あい” って、好きなところも苦手なところもひっくるめて一緒にいたいって思う気持ちなんだなぁって」
「……それで?」
「僕はあなたが自分自身を卑下するところは苦手だけれど、やっぱりずっと一緒にいたいと思ってる」
「私はそうやってズケズケと突っ込んでくるところはお前さんの苦手なところだよ」
「一緒にいるのも嫌?」
「嫌だったらとうの昔に放りだしているよ」
そう言って青年の左手を握り返した女性は、嬉しそうに笑った。
かつて、姉神は美しい妹神と一緒にとある男神に嫁いだことがあったが、男神から「お前は醜い」とすぐに追い返されてしまったという。
嘆き悲しむ姉神に、父神は「いろいろと歩き回ってみてはどうか」と提案した。じっとしていると気が沈む。多少なりとも動いている方が、姉神の気が紛れると思ったのだ。
姉神は気が進まなかったが、父神の言う通りさまざまな地を巡った。
そこで、姉神はたったひとりの青年に出会った。
彼との出会いがなければ、きっと姉神はそう遠くない未来に淵に身を投げていただろう、と言われている。
悲しくも誤解がありその青年と姉神は結ばれなかったが、後年、生まれながら右腕のない少年と出会った。
少年は姉神と心を交わし、最終的に姉神の下へ召し上げられたという。
少年はやがて青年となり、姉神の夫となった。
小高い山の上にあるこの小さな神社には、二柱の神が祀られている。
健康長寿、夫婦円満、開運で有名だそうだ。
もし近くに立ち寄ったならばぜひ、足を運んでほしい。
運が良ければ、仲睦まじい夫婦神 ―― 右腕のない夫神、被布を被り顔を隠した妻神の錦絵が飾られているという。
終.
ここまでお付き合いいただきありがとうございました。
短編のつもりが……増える文字数……。
結局中編規模になりました。
お気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、作中登場する山神のモデルは日本神話に登場する女神の一柱です。
バナナ型神話のひとつですね。日本神話では人の死のきっかけとなったのは「花」ですが、インドネシア神話などでは「バナナ」なんだそうです。
でも「石」が不老不死(長寿)の象徴なのはどこの国でも変わらないんだなぁと。
その女神、色々調べると最後、自分の容姿を嘆いて淵に身を投げたとか、流れ着いた先で村の人と一緒に暮らしたとか色々な逸話がありました。
今回はその辺りから考えて書き上げてみました。
鏡を割る逸話もありますが、この作品に登場する彼女は「通り道」という認識しか持っていないのであまり気にしてません。
次回は、カクヨムで公開中の作品をリメイクしたものを掲載する予定です。
準備が整い次第、公開していきます。
どうぞよろしくお願いします。




