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花咲く丘で出会ったきみへ ~ 寂しがりやの山神と隻腕の少年の異類婚姻譚 ~  作者: かわもりかぐら


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第1話


 とある農村で暮らしている少年は、時折不思議な夢を見ていた。


 様々な花々が咲き乱れる丘に、小袖を被衣(かずき)のように頭から被っているひとりの女性が座り込んでいた。

 女性がふとこちらに振り返ると ―― 小袖に隠れて目元は見えないが、嬉しそうに口元に笑みを浮かべてこちらに向かって手を振っている。

 視界の端に見えた、大人の男の右手が応じるように振られ、視界は女性に近づいていく。

 まるで男の視界を借りているかのようだった。


 何かを話している。

 聞こえない。

 けれど女性の口元は幸せそうに笑っている。

 ふたり手を握り、肩を寄せ合って丘に座り込んで何かを話している。まるで恋人同士のようだった。


 やがて別れの時間が来たようで、名残惜しげにふたりの間に距離ができる。

 女性の口が動いた。「またね」と言っているようだった。


 お互い淋しげに手を振り合って、男が踵を返す。



 夢はいつもそこで終わる。

 そしてこの夢を見た日は必ず、涙を流しながら少年は起きるのだ。



 ◇◇



 長らく内に閉じこもっていた国が、外つ国と交流を始めた時代。



 少年が世話になっている家はとても大きく、この農村の中でも村長と呼ばれる立場の人間の家であった。


 世話になっている、というのは言葉通りの意味だ。

 いや、村長の血を引いているのは確かだ。

 ただ正妻に認められた関係から生まれた子ではない。

 だが事情があって正妻は渋々と少年の存在を認めている。


 ならば少年は村長の息子として認められたのかというと、そうでもない。


「やいやいかたわもん! いつまでやってんだよ!」

「っ」


 庭の隅で掃除をしていた少年の頭に、鋭い痛みが走った。

 その衝撃で目を瞑った少年は、ゆるゆると目を開ける。どろりと頭から生暖かい何かが流れて、パタパタと地面に落ちた。

 少年がかき集めていた落ち葉に赤く鉄臭い液体が落ちていく。

 傍には手のひらぐらいの大きさの石が転がっていた。


「ああ、ダメだよ兄ちゃん! あいつは怪我させたら面倒だ!」

「いいんだよ、どうせ自分で転んだっていうんだから。そうだよな?」

「……はい」


 俯きながら少年がそう答えると、慌てたようにふたりの子どもはその場から駆けていった。

 それを半ば呆然と見送って、少年はしゃがみ込む。

 手にしていた箒を置いて、箒を持っていた方の左手で傷口をおさえた。


 ―― 右腕があるべき部分の着物の袖は、風で揺らめいている。


 あのふたりの子どもはこの屋敷の息子たちだ。

 正確には少年とほとんど年が変わらぬ異母兄弟たち。

 兄は正妻の子、弟は妾の子。少年はその枠からはみ出た子。

 だから少年の立場はこの屋敷ではないに等しい。


「またあんたは転んだんか!」


 怒声を浴びせかけられ、少年の体が震える。

 少年がゆっくりと顔を上げると老齢の男が険しい表情を浮かべて少年を見下ろしている。

 ぐいと乱暴に少年の左腕を掴んだ老人は、そのまま力任せに少年を立ち上がらせると歩き始めた。

 引っ張られてぐらついた少年だったが、倒れ込むまいとおぼつかない足取りながらも進む。


 連れてこられたのは少年が寝起きしているあばら小屋だった。

 建付けが悪く、老人が舌打ちしながらガタガタと引き戸を開ける。


 老人が少年の腕から手を離し、鼻息荒く小屋の中に入っていく。

 中からガサゴソと音がするのをぼんやりと眺めていた少年は、老人の「早く来んか!」という怒声にようやく動き出した。

 ゆっくりと小屋の中に入り、少しコツがいる引き戸を閉めた。


 連子窓から差し込む光が、狭い小屋の中を照らしていた。

 まだ時間が昼間なのも幸いしたのだろう。

 目的のものを見つけていた老人は囲炉裏の傍に座っており、じとりと少年を睨んでいる。老人の前にはボロボロの円座が置いてあった。


 その円座に少年が座ると、老人が盛大にため息を吐きながら手を伸ばした。


「あんたも反論せい」

「……反論しても、ひどくなるだけだから」

「だからといって人形のようにいても良くはならんじゃろ。まあ、若たちに言えん儂が言うことでもないが」


 老人は額の切れた部分に手早く塗り薬を塗り、少年の頭に包帯を巻いた。

 包帯は汚れていて清潔とは言えないが、ないよりはマシである。


 先ほどまでの怒声はどこへやら、ぽつりぽつりと老人と少年は言葉を交わす。


「飯は食っとるんか」

「うん」

「まさか腐ったモンじゃなかろうな」

「大丈夫。腐る手前だから、まだ食べられる」

「は〜〜、村長も何考えてんだ全く」


 包帯や薬などが入った箱をボロボロの棚に片付けながら老人は先ほどとは比べ物にならないほど盛大なため息を吐いた。

 くるりと踵を返し、座ったままの少年を見下ろす老人の眼差しは優しい。

 だが、老人がすうと息を吸った次の瞬間。


「いい加減に転ばんで掃除できるようにならんか! 儂の手を煩わせるんじゃねえ!」

「はい、すみません」


 老人の怒声に少年もやや大きめの声で答えると、老人は苛立たしげにガタガタと引き戸を開け、乱暴に閉めた。

 その衝撃でパラパラと、屋根から木くずのようなものが少年の上に落ちてくる。

 少年は軽く自分の頭を振るって木くずを落とし、軽く笑った。


 今日も一日、生き延びられると。



なんちゃって和風ファンタジーです。

どうぞよろしくお願いします。

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