後の英雄、モニカと戦うこととなる
神殿で結構時間が掛かってしまった。
時刻は既に夕方。
だが、まだやらないといけないことがある。
犬猫の捕獲だ。
俺一人では絶対に無理なのはわかっている。
そこでクレソンの領主に話をして協力してもらう事にした。
俺はギルドを経由して領主へと連絡を取ってもらう。
幸いなことに領主は在宅しているとのことですぐに会えることとなった。
現れたのは領主のピエールさん。
領主としての貫禄がにじみ出ている50前後の男性だ。
「クローブの領主のアレンさんは元気にしておりますか?」
「ええ、元気にしております」
クローブの領主であるアレンさんの奥さんはピエールさんの妹だとのこと。
アレンさんは無駄に元気過ぎてドラゴンの卵を孵したりという馬鹿なことをしてくれた。
そのおかげで俺はえらい目に遭ってる。
俺は事情を説明して協力を頼みこんだ。
話を聞いたピエールさんは全面的に協力してくれるという。
「クレソンの街が襲われるという話を聞いてしまったので、協力をしないわけにはいかないですな」
明日の朝に全住民と冒険者を動員してドラゴンの雛探しを手伝ってくれることとなった。
魔道具の魔力の補充が終わったら、捕まえた犬猫を片っ端から魔道具で調べまくればドラゴンを見つけられる。
俺がやれることはすべてやり終えた。
*
モニカを冒険者ギルドに置きっぱなしだったのを思い出した俺。
さすがに長時間一人ぼっちで食堂に置きっぱなしはやり過ぎだ。
なかなか戻ってこないから捨てられたと勘違いして俺を探しに酒場を出て迷子になってないかな?
そんなこと子どもじゃないんだからするわけが……モニカならありうる。
俺は心配になって足早に酒場へ戻る。
酒場でモニカの姿を見つけてほっと胸を撫でおろす。
積みあがった皿の山の中にモニカがいた。
そしてモニカの前には青い顔をした巨漢の男が。
「おえっぷ!」
今にもリバースしそうな男。
目に涙を浮かべながら、口を必死に押さえている。
「くそー! もうダメか、もう食えねぇ!」
「ふふふ、素直に負けを認めるんだ」
「参った! この姉ちゃんの食欲は底なしかよ!」
どうやら大食い勝負をしているようだ。
仕切っている男が周りを煽る。
「勝者、モニカ姉ぇ! さあ、次の挑戦者はもういないのか? 挑戦金たったの5万で勝てたら10倍の50万ゴルダだぞ!」
誰も手を上げない。
今の男が最後の挑戦者だったらしい。
今まで見かけなかった俺が顔を出すと仕切っていた男が俺の腕を捕まえる。
「さあ、兄ちゃん! 挑戦するかい?」
これでもかとグイグイ顔を寄せてくる男。
モニカを見ると俺に向かってウインクをしている。
これは受けろという事なのか?
「わかった。受ける!」
俺は挑戦金の5万ゴルダを渡す。
すると、目の前に大きなトマーラパスタが置かれた。
大皿に盛られてて10人前ぐらいある。
結構うまそうだけど量が凄いな。
「さあ、挑戦者はこの兄ちゃん! 勝てると思ったやつはドンドン賭けてくれよ!」
どうやらこの男は賭けもやってるみたい。
「さあ、張った! 張った!」
誰も張らなかった。
モニカの食欲じゃな……。
「さあ、始め!」
お、うまいな。
ジューシーで味も濃くてって、モニカは容赦なしに完食する勢いじゃねーか!
ちょっ! モニカ!
なんで本気で食ってる?
手加減なしかよ!
さっきのウィンクはなんだったんだよ?
これは負けるんじゃね?
俺は必死になって食うがモニカの勢いには追い付けない。
俺が三分の一を食う頃にはモニカは皿を殆ど空にしていた。
こりゃ負けだ。
大皿を掲げてフィニッシュするモニカ!
その時!
「おえっぷ!」
モニカの顔が青くなり、そして……。
「ぶひょー!」
大リバースだ!
食ったものを噴水のようにぶちまけるモニカ。
あまりのリバース量にドン引きするギャラリー。
どんだけ食ってたんだよ!
俺は期せずして勝利と50万ゴルダの大金を手にした。
*
宿屋についた俺たち。
服を真っ赤に染めているモニカを見て宿屋のおっちゃんはビビりまくりだ。
「ど、どうしたんですか? 血だらけの大けがじゃないですか!」
「ああ、これパスタの皿をひっくり返したんですよ」
「へっ? パスタ?」
トマーラまみれの服では部屋が汚れるということでモニカは風呂場に強制連行されていった。
*
宿屋の部屋。
俺は儲けた50万ゴルダを金貨袋の中から出して数えていた。
久しぶりの大金だ。
これで御者のおっちゃんに代金を支払えるな。
シャワーを浴びて出てきたモニカ。
大切なのか相変わらず帽子は被ったままで手放さない。
さっぱりした表情でトマーラの匂いも消えていた。
バスタオルを巻いたまま俺の横に座っるモニカ。
俺の金貨袋を覗いてきた。
「儲かっただろ?」
「儲かったって、あれ演技だったのかよ?」
「そうだけど?」
「演技なら口押さえて真っ青になったあとに机に突っ伏すとか、吐かなくとも色々手はあっただろ」
「その手があったか」
舌をペロッと出した後に大笑いするモニカ。
ちなみに反省してる様子はなし。
まあ、リバース自体が罰ゲームみたいなものだしな。
これ以上責めるのはやめておこう。
「全部吐いちゃって……腹減ったろ?」
「いや、大丈夫。ちょっとしか吐いてないから」
聞くとあの10倍は食ってたらしい。
どんだけ食ったんだよ?
「でも、吐いたのは失敗したな」
「どうした?」
「服を洗濯したから着るものが無くなっちゃった。パジャマ持ってくればよかったよ」
そういえば、俺も着替えを持ってくるのを忘れたな。
向こうを出るとき慌ただしかったからそこまで気が回らなかった。
「じゃあブランケットを服代わりにして包まっておけよ」
俺はブランケットをモニカに渡す。
それを聞いたモニカはニタっと笑った。
「ブランケットよりも、もっといい身体を温める方法があるんだけど……」
モニカはバスタオルを床に落とす。
そこには生まれたままの姿のモニカが……。
「一緒に温まろう! 私を温めて!」
そして俺たちはとても仲良くなった。




