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深淵少女フラグメンツ  作者: 雨宮ヤスミ
[欠]欠片の行方
12/33

欠-1

 

 

 市議会議員不明、山中のバラバラ遺体を議員と断定


 H県警はきのう、一週間前に加賀屋木市郊外の山中で見つかったスーツケースに入った遺体の身元について、同市の市議会議員で7月から行方の分からなくなっている月本ジュンジさん(42)であることが、DNA鑑定の結果判明したと発表した。


 月本さんは××××年H県生まれ。××大学卒業後、経済産業省に入省。××××年に地元の加賀屋木市議会議員選挙にて初当選、現在二期目だった。


 ことし7月には、月本さんの妻であるキヌコさん(40)と中学二年生の娘マシロさん(14)の遺体が見つかっており、警察は連絡の取れないジュンジさんが何らかの事情を知っているとみて、行方を追っていた。


 遺体は手足や胴体が切り放された状態でスーツケースに入れられており、警察は月本さんの妻子の殺害との関わりも含め、慎重に捜査を進めている。


 なお、加賀屋木市議会は今月末に任期満了を迎えるため、補欠選挙や繰り上がり当選などの処置はしないものとしている。



 ◆ ◇ ◆



 落ち葉の積もる峠道のバス停で、ブラックスターは新聞から顔を上げた。


 手にした古びたそれをくすんだ青いベンチの上に投げおくと、大きくため息をついた。


「ごめん、ごめん、お待たっせー」


 明るい声を上げて、セレニテスが近づいてくる。


 バス停の近くにあった土産物屋に興味を示した彼女は、「外で待ってる」というブラックスターを置いて、ショッピングを楽しんでいた。


「じゃーん、ソフトクリーム売ってたよ? 食べる?」


 両手に持った白いソフトクリームの片方を差し出してくるので、ブラックスターはそれを手に取った。


「なあ、お前……」

「何?」


 ベンチに腰掛けたセレニテスの、尻に敷かれてしまった新聞をブラックスターは指した。


「その新聞でお前、死んでることになってんだけど?」

「え、何? どういうこと?」


 お尻を片方持ち上げて、セレニテスは新聞を引っ張り出した。


「ほら、そこの記事。月本マシロ死んでるって書いてあるぞ」

「ふーん。てか見つかったんだ、あのスーツケース」

「雑に置いてくからだろ……」


 少し呆れた調子で言って、ブラックスターはソフトクリームの横っ腹をかじる。


 街を出た時、セレニテスは大きなスーツケースを引いていた。


 「捨てるヤツだから」というそれについては、ブラックスターは詮索していなかったが、やはりというか彼女の父親の死体が入っていたらしい。


 それと知ってりゃ「埋めろ」って言ったのにな、とブラックスターは内心でつぶやいた。


「両親殺してたんだな」

「うん、そう」


 それが整理、とセレニテスはソフトクリームを舐めた。


「ケセラに頼んでさ、わたしも死んだことにしてもらって。ついでにお母さん殺して、お父さんは容疑者ってことになってほしかったから、死体持ってったの」

「父親を犯人にしたかったのに、何でバラバラにしてんだよ……」


 色々雑過ぎるだろ、とブラックスターは肩をすくめた。


「だってスーツケースに入んないし。始末してほしいって言ったら、ケセラは『それ以上は手伝えない』とか言うし……」


 「インガの改変」量としては、「死んだ月本マシロ」を用意した時点で、一人の「ディストキーパー」に対してできるサービスとしては過剰だったらしく、殺人の偽装まではできなかったようだ。


「自分に正直にしても衝動的が過ぎるぜ……」


 どうやったってバレないからいいんだろうけどよ、とブラックスターは残ったソフトクリームごとコーンの半分ばかりを口の中に入れた。


「考えるよりも感じちゃうタイプだから、わたし」

「それはよく知ってる」


 加賀屋木市を離れ市のあるH県を出て、三か月。その間に通った街々で、ブラックスターはセレニテスの衝動性を嫌になるほど思い知っていた。


 各街には街の「ディストキーパー」がいるのだが、その彼女らと鉢合わせた時、セレニテスは必ずトラブルを起こすのだ。


 「ディスト」を横取りするぐらいならばともかく、「ディストキーパー」に平気でケンカを売るわ、攻撃を仕掛けるわ……。何を考えてるんだと思いつつも、ブラックスターもケンカは好きなのでついついそれに加わってしまう。


「何人殺ったんだっけ? この道中で」

「さあな、10人超えたあたりで数えんのやめたし」


 「エクサラントの使い」も、特にそれについて責めることはしない。「何やってもいいってことなんだよー」とはセレニテスの拡大解釈だと思っているが、心のどこかでブラックスターもそういう自由が与えられているのではないか、と最近は思っている。


「でも、アレは強かったよね。『最終深点』」

「あんなのがあるんだな。まだまだ『ディストキーパー』も奥が深いってことか」


 旅立って二か月目のことだ。


 いつものようにセレニテスが現地の「ディストキーパー」にちょっかいをかけると、その内の一人が仲間をかばうように前に立った。


(噂になってるよ、あんたら。『ディストキーパー』狩りってね。半端な強さで、あんまりいい気にならないことだ。あたしが本当の強さってヤツを教えてやるよ――!)


 その言葉と同時に、彼女は姿を変えた。「ディストキーパー」の姿から、更に変身したのだ。


 近未来的な機械の鎧をまとったような姿となり、両手のジャマダハルはより刀身が長く鋭くなった。全身にまとった雷が激しく放電した。


(これが『ディストキーパー』の極み『最終深点』だ! その力、身をもって学びな!)


 動きは素早く、斬撃は鋭く、雷撃は強烈。セレニテスはたちまち追い詰められたのだが――。


「とはいえ、アレも『無明の暗黒』で抑え込めるんだよなあ……」


 セレニテスをかばい、割って入ったブラックスターが伸ばした影に触れた瞬間、たちまちその雷撃が勢いを失った。


 「最終深点」に達していても、力を失った彼女は、最早ブラックスターの敵ではなかった。


「ブラスがいれば無敵だね」

「そうでもないぜ。オレの『無明の暗黒』も、一対一でなきゃ効果がないしな」


 複数の「ディストキーパー」を相手にした時、最初に影に触れた一名の能力は抑え込めるが、それ以外の者の力は削ぐことができない。それもまた、ここまでの戦いで身をもって知った。


「その時はわたしがフォローするじゃん」


 セレニテスの気質「抱擁の大地」は相手を浮かせるほかに、触れずにこちらに引き寄せたり遠くに吹き飛ばしたりすることもできた。


 この力を使えば、複数人に囲まれても、セレニテスが一人を残して吹き飛ばして、ブラックスターが一対一の状況に持ち込めば安定して勝てるのだ。


「そんな感じで殺ってこうよ、これからも」


 ソフトクリームを口の端に付けて、セレニテスは微笑んだ。


 その無邪気な笑みに、今自分たちのしている会話、してきたことがかき消されていくような気がした。


「……お前、ところでブラスってなんだ、さっきの」

「ブラックスターのあだ名。何か名前長いし」

「いや、お前が付けたんだろうが」


 ソフトクリームのコーンに巻かれていた紙を丸めて捨てて、ブラックスターは大きく伸びをして立ち上がった。


「よし、行くか。毛玉の用事、とっとと片付けるぞ」

「あ、うん……」


 残ったコーンを口に放り込んで、もぐもぐさせながらセレニテスも立ち上がる。


「……それにしてもケセラ、一体わたしらに何させようっていうんだろね?」

「さあな。てかケセラじゃねぇぞ、アレ」


 何つったかな、とブラックスターは首をかしげる。


 ケセラは加賀屋木市の担当端末だ。旅立ってからは、見た目が同じで首輪の色だけが違う別の端末が二人の担当になったのだが、名前も似たような三文字だし、連絡もあまりとってこないしで印象が薄かった。


「まあいいや、毛玉にゃ変わんねぇし」

「そだね。毛玉でいいよね」


 二人は連れ立って峠道を歩きだした。


 目的地は、この山の頂上にある。

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