必要とされる存在2
「さて、どうしたもんか?!」
僕は食後に連れてこられた幽閉場所である塔の最上階から、窓の外に見える海辺の景色を眺めていた。
海の上では、小舟が何艘も浮かんでいて、海中に向けて雷撃が放たれるのが見える。
その後にぷかぷか浮かんできた何匹もの魚を竹の棒で寄せ集めてから舟に拾い上げていた。
反対の集落の方に目を向けると、たまに屋根の上から飛び立つ人がいるくらいで、道端に人の気配は全くなかった。
あの後カルミアに、少しだけ村の普段の生活について聞いて分かったことがある。
それは、魔法が使えることによって、文明の利器が無くても優雅に暮らしているということだ。
雷撃での魚釣り以外にも、火炎魔法で料理が出来るし、長時間かかるものはさすがに炭とか薪を使うが、簡単なものだとカルミアがしてたように直接魔法で調理だ。
力の魔法使いが丸太を引っこ抜いて建材に使い、冷凍魔法使いは洞窟を凍らせて保存庫にしている。
風魔法使いが空中で脱穀し、空を飛んで家畜を遊牧する。
そのように、一軒に何人かで住みながら魔法のチート能力で作業を分担しながら家事や仕事をこなしているのだ。
ある意味、魔法で何とかなってしまうので鉄鉱石を採掘して精錬するみたいな時間と手間と人員の掛かるような物はまったくなく、そこらの石を加工したような包丁や石斧を使っている。
一番複雑なものといっても、粘土を使った素朴な陶器くらいだろう。
ただ、見つけてきた天然石や木彫りの飾りと暇な時間を費やして作った織物や編み物などの装飾品や衣服のレベルは高い。
これは、余裕のある暮らしをしているがゆえに、趣味としてオシャレに時間を費やせるからだろう。
「よし! 決めた」
その日の日が暮れる前、僕を食堂に連れていくため、ニウブが部屋を訪れた。
「鉄を作ろうと思うんだ」
「なんですか”てつ”って?」
「鉄は硬くて柔らかい、加工すれば色々な道具に使える便利なものだよ」
「硬くて柔らかい? よくわからないです」
「熱を加えれば柔らかくなって加工しやすい。なので、柔らかくしてからカタチを整えて冷ませば、いろんなものが作れる」
「それなら粘土でもよくないですか? 冷たい時に形を変えて、焼けば堅くなります」
「粘土は強い衝撃を与えると割れるでしょ? 鉄は硬くて割れない。しかも曲げたり、叩いてカタチを変えたり出来る」
「うーん……」
「ともかくだ! ヒストリアの魔法を僕に使ってよ。どうやって作るかは分かるんだけど、細かい材料の集めかたとか溶解の仕方とかはうる覚えで、今の僕の状態では作ることが出来ない」
「分かりました。タスクさんが言うなら役に立つモノなんでしょう。思い出したい事を考えながら、私の目を見つめて下さい」
「砂鉄から鉄を作る方法……砂鉄から鉄を……」
と頭の中で考えながらニウブの目を見つめる。
すると、眼の前に見たことのある画像や映像が鮮明に浮かんできた。
「今、初めて鉄がどんなものか見ました」
「初めて見た? え? どういうこと?」
「タスクさんが思い出している時に私も同じものを見ているんです。ヒストリアは相手の持っている知識をコピーして伝えていくのにも使いますから」
僕は、少しがっかりしていた。
なぜなら、ヒストリアの能力を使って過去のエロ資産をハードディスクなしに鮮明に再生出来ると考えていたからだ。
……しかし、ニウブにはゼッタイ観せられないしなぁ。
「ん? 何か言いましたか?」
「なんでもない! なんでもない!」
僕は、必死に誤魔化しながら話題を鉄精錬に戻す。
「磁石ってあるかな?」
「磁石って、この砂鉄を吸いつけてる物ですか?」
ニウブが頭の中の映像をもとに答える。
「そう、それそれ!」
「見たことないです」
「となると……」
その後も、ヒストリアの魔法を使いながら揃えられる材料や道具を相談し、鉄を精錬する段取りを決めた。
「やっぱり、僕も一緒に外で作業するわけにはいかないの?」
「村の人の目に触れさせてはいけないですから」
村に来る時にカルミアが話していた通り、普通に村人が生活している空間に僕は出てはいけない。
”村の人の目に触れさせてはいけない”のは、一つの村に男は一人だけというこの世界を支配する教団の掟と関係がある。
男は奴隷ではあるが、その村の中心でもある。
しかし、それが2人以上の中心に分かれると、争いが起こる。
どちらの男を抱くのか、あっちが良いとかこっちは劣るとか、この男は我々のグループのモノだから渡さないとか。
遥か昔のルールができる前は、男を略奪するために村を襲うこともあったそうだ。
そのような、古来からいざこざの原因になってきた男を巡る争いを避けるために、一つの村にひとりの男だけということになったのだ。
なので、新しく出来る別の村の男である僕は、カイリの村の人々は見ることさえ許されない。
ゆえに、外に出ることは出来ないのだった。
「私一人でもがんばります!」
「分からないことあったら、すぐ相談に来てよ」
僕は不安になりながらも、ニウブがやる気になってくれたことに僅かな希望を見いだしていた。




