開拓村の夏まつり1
コハンの村に来てから早3ヵ月。
夏を迎えたこの村は日々あたらしい出来事に満ち溢れていた。
畑の野菜もすくすく育ち、いくつかの種類は収穫期を迎え、食卓には新鮮な野菜が毎日並んでいる。
大量に採れたトマトなどの余った野菜や近海で採れるサバやイワシなどは缶詰にすることで、交易品にもなっていた。
そして、時間をかけて建てられていたクマの家もようやく完成した。
桟橋を50メートルほど進んだ先に建てられたその家は、地上3階水面下2階の細長い鉄筋コンクリート造で、以前住んでいたカイリの村の家ほどではないが、円筒状の壁から様々な構造物が突き出している。
そんな夏の暑い昼間、クマの家に僕とニウブはお邪魔していた。
「いいなぁ~クマちゃんの家! ベッドから周りの景色全部見えるの素敵です!」
「360度見渡せるのはすごいな!」
「にひひ……」
最上階の寝室は、柱のない360度すべてガラスを繋ぎ合わせた壁で囲まれ、中央から伸びる鉄骨の傘の骨組みに屋根がしつらえてある。
「でもでも! 晴れの日は暑くてありませんか?」
「氷で冷やしてるしー、もし溶けても地下があるしー」
「なるほど!」
クマの家の地下には湖の水を取り込む口が付いていて、そこから取り入れた水をアレクサが凍らせてストックしていた。
ちょうど湖の中にあるこの家より氷を作るのに便利な場所はない。
なので、アレクサが地下階が出来た時から氷工場として使っているのだ。
「ところで、クマちゃん! 家も完成したんだし、水車の方も手伝ってくださいよ!」
「えー、あれチマチマしてて面倒くさいやん。はぐれ人がやってるからええやん! それに、暑いからー、昼間は動きたくないわー」
最近の暑さで、新たな建築現場はどこも作業が滞り気味だった。
そして、クマも暑い季節になり、昼間の活動量が減ってダラダラしていることが少なくない。
もちろん、着ぐるみが暑いからという理由で……。
「クマちゃんは何で夏でも着ぐるみなんだ? 僕たちだって夏服に衣替えしたよ」
僕は、藍染の半袖短パンの甚平。
ニウブはノースリーブの涼しげな黒い膝丈ワンピに着替えていた。
しかも、アレクサに作って貰ったので、以前のツルツルスモッグと違って所々ギャザーの入ってふんわり感のあるオシャレなワンピースになっている。
「うーん? 守ってくれるから」
「確かに、防御力は高そうだけど……。今までの夏は暑いなかどうしてたの?」
「夏は川に入ってたで」
「ふやけちゃいません?」
「くまちゃん防水だから……」
結局、クマの手は借りられそうもなく地道に作って行くしかないようだ。
寺院に戻ろうと玄関に降りて来ると、ちょうどアレクサが地下から上がってきた。
「あら、良いじゃない? やっぱりオシャレしないとね」
「アレクサさん! 可愛いですけど、修道女が着て良いんですかね?」
「村の司祭でしょ! あんたは? 修道会でも偉い人は、良い服着てるし! アクセサリーじゃらじゃらさせてるじゃん!」
「あれはアクセサリーじゃなくて、お守りで……」
「まぁ、あんたもネックレスくらいタスクに作ってもらいなさいよ! ねぇ? タスク!」
「お、おう」
そう言うアレクサは、クリスタルのネックレスや腕輪や髪飾りをじゃらじゃら付けている。
確かに、アレクサの言う通りかもしれない。
日頃の感謝を込めて、何かプレゼントするにはいい機会かもしれない。
そんなことを考えながら、クマの家から桟橋を歩いて戻っていると、岸辺あたりで水しぶきと歓声が上がっているのが見え……。
「あーもう! また、サボってる!!」
叫んだニウブの視線の先にいるのは、水着に着替えて水遊びをしているエルとはぐれ人たちだ。
「おー! タスクも一緒に泳がないか?」
「工事はどうしたんだよエル! それにイワ達も……」
「こんな暑いんだよ! 根詰めてやってたら参っちゃうよ! なぁ~みんな?」
「「「んだ! んだ!」」」
そして、そんなはぐれ人の先には、木陰で寝そべる水着姿のキキョウがいる。
要するに、クマ以外もこの暑さでだらけきっていたのだ。
「もう、私だけなんですけどー! ちゃんと働いているの!」
そう言って、空の上から現れたのはシギだった。
ちょうど、配送から帰ってきたところみたいだ。
夏でも長袖の風魔法使いたちは、空を飛ぶ風に冷やされ暑さとは無縁らしい。
「ほんとに、みんなだらけきって困ったものねぇ~」
「うは、カルミアさん凄い……」
「そういうカルミアさんもなんで水着なんですか!」
遅く起きて、今から湖水浴に向かおうとしているカルミア。
大きな麦わら帽子にサングラス、赤いビキニからは胸が今にもはみ出しそうだ。
「あー、カルミアも泳ぐんなら、私も泳ごうかなー」
「もう、シギさんまで!」
「これは、たまらん! ニウブ! さっさと寺院に戻って水着に着替えてこよう!」
「ダメです! タスクさん、しっかりしてください! 仕事するように説得に来たんじゃないんですか?」
「え~、だってみんな楽しそうじゃん……」
「もう! そんなこと言ってると、晩ご飯抜きにしますよ!!」
「じょじょ、冗談ですよ……、ニウブさん」
さすがに毎日頑張ってくれているニウブには頭が上がらない。
僕らは、トボトボと寺院に帰って行ったのだった。
寺院に帰ってからも、だらけきった村の現状に嘆くニウブ。
「なんとかならないですかね~。このままじゃ、ダラダラしてるだけで夏が過ぎて行っちゃいますよ」
「そうだなぁ~。中途半端にだらだら遊んでないで、一回思いっきり夏祭りで騒いで! 気持ちを切り替えるなんてどうだろう? 花火とか打ち上げちゃったりしてさ!」
「ああ! 祭りも寺院の仕事でしたね。そっか、修道院暮らしで祭りとかしたことなかったからなぁ~、良いかもしれませんね。ところで花火ってなんですか?」
「ヒストリアで見てみなよ」
ニウブは僕を見つめ、魔法で記憶を呼び出す。
「わぁー……。きれい……これが花火ですか!」
ヒストリアの魔法で夏の風物詩を追体験するニウブ。
その華やかな情景にうっとりする。
「でもオレンジと赤と黄色と白くらいしか作れなさそうだなぁ」
元々の火花の色であるオレンジと添加することで発色する物質、赤の硫酸カルシウム、黄色のシュウ酸ナトリウム、白のマグネシウムは材料をそろえることが出来る。
しかし、緑のバリウムや、現代でも難しい青や紫などは材料や技術的問題で作ることが出来ないのだ。
「それでも十分きれいですよ!」
「そうかなぁ~」
「さっそく作りましょう!」
僕らは、研究室に移り、さっそく制作に取り掛かった。
まずは、木のお椀をいくつかと硫黄、炭、硝石をそれぞれ取り出す。
「じゃあ、別々にすりつぶしていこう」
「はい!」
それぞれの物質を細かくすりつぶした後は、水を入れて混ぜ合わせる。
「まだまだ、細かくしていこう」
水を加えながらどんどん滑らかにしていく。
「赤にする火薬には硫酸カルシウム、黄色はシュウ酸ナトリウム、白はマグネシウム、オレンジはそのままで……、丸めたら天日干しにしよう」
何日か試行錯誤し、手持ち花火と打ち上げ花火が完成する。
夏祭りの開催も、みんなに話したところ、よろこんで賛成してくれた。
そして、いよいよ夏祭りの当日が訪れた。
ていた。




