高炉
コハンの村の本境地から少し川を上って、渓流を崩して作った鉄穴流しの近くに高炉は造られた。
その高さは5メートルにもなる。
今回の溶鉱炉は、フイゴよりも強力なシギとカルミアの魔法を使うことでより高い温度まで鉄を加熱し、完全に溶けだした鉄を作り出すことを目指している。
そして、とうとう高炉が稼働する日がやってきた。
「シギさんカルミアさん!お願いします!」
溶鉱炉につながるラッパ上の吸気口に向けてシギとカルミアの合わせ技にによる猛烈な火炎放射が注ぎ込まれる。
温度が上がってきたところで、高炉の天辺に被せられた蓋が上がり、砂鉄と炭が投入されていく。
炉に付けられた小さなガラス窓を覗くと、火花を爆ぜながら燃え盛る内部が見える。
やがて、底部の穴からノロが流れ出し、出きったところでレンガで流れ出す経路を塞ぐ。
そして、より高温になったところで、出てきた銑鉄を別経路に流していく。
下流では、クマが鋳型がいっぱいになるごとに、次の鋳型と交換していった。
この高炉の実現により、開拓村は一日に約300キロもの鉄を生産できるようになった。
電気分解槽も完成し、水酸化ナトリウムを作れるようになったことで、ガラスの生産量も5倍に増えた。
しかし……。
カルミアが、合掌した手を口元に寄せて発言する。
「交易品は増えたけど、運びきれなくなってきたわね」
コハンの村に移住して一ケ月が過ぎ、大人たちが寺院の集会所に集まり会議をしていた。
ガラスのビー玉が主要な交易品だった頃と違い、鍋や包丁、ガラス瓶に窓ガラスなど、多くの産品が出来てきて、シギや運び屋、新しい風魔法使いの力だけでは扱いきれなくなってきていた。
僕は会議の席上、一つのアイデアを提案する。
「気球を作るのはどうでしょう?」
「気球?」
「風魔法使いと火炎魔法使いの力が両方必要なんですが、重いものも運べるので作る意味があると思います」
「でも、風と炎だと私とシギが必要ってことでしょ? まだまだ女の子たちにガラスや鉄の生産は任せられない中、私たちにそこまで手を出す余裕が無いわ」
カルミアの言うことももっともだった。
しかし、僕にはそれをも解決する方法を前々から温めていたのだ。
「カルミアさん。確かに、今の住民だけでは無理でしょう。しかし、この気球はカルミアさんやシギさん程の能力が無くても使えます」
「何が言いたいのタスクくん?」
「はぐれ人たちを村の仲間に入れて下さい」
僕の予想外の発言に周囲がいろめき立つ。
アレクサが、テーブルに手を着いて立ち上がった。
「ちょっと! 何で使えない連中をコハンの村に引き入れる必要があんの? 頭おかしくなった?」
「黙っててアレクサ! タスクくんの考えを聞こうじゃないの」
「気球なら能力の低い風魔法使いと火炎魔法使いのペアでも使いこなせるからです。そしてダイナマイトが有れば魔法が使えなくても鉱脈をバラバラに出来る。どうですか? はぐれ人を勧誘できたら、一気に村の人口を増やすことができますよ?」
「私は賛成~。だって風使いが一番忙しいもん! 猫の手も借りたいくらいだし~」
「俺も良いと思うぜ! 大人が増えればカルミアの仕事も減るだろ? 高炉も水車が完成すりゃ魔法も必要なくなるって話じゃん。カルミアには最初に子作りしてもらいたいしな」
シギとキキョウが賛同する発言をしてきた。
カルミアは二人の顔を見た後、僕の方に向き直る。
「なるほどね。新しい発明品が出来てからでないと答えられないけど、その前に、はぐれ人たちを説得できるの?」
「それは……」
「やってみないと判らないよなぁ~」
会議の後、ニウブとの夕食を食べながら話していた。
「あんなに酷い事されたのに、はぐれ人を仲間に入れようと思えるなんてすごいですね」
……はぐれ人たちに酷い事をしたのはコッチ側のような気がするんだけど。
僕は一瞬そんな風に考えたが話を合わせることにした。
「ああ。でも、彼女らは悪気があってやったわけじゃないだろ? 魔法力が低いから定住できないだけであって、根っからのならず者ってわけじゃない」
「そうですよね。あの人たちだって、生まれた村が有ったわけだし。最初っからはぐれ人だったわけじゃないんですもんね」
僕は、はぐれ人たちがどのような理由で村から離れざる負えなかったのかに思いを馳せる。
そして、この弱肉強食の魔法世界を気球とダイナマイトの発明をきっかけに変えていければ良いなという思いを強くした。
「こんな大きな袋が、ホントに空を飛べるの?」
数日後、完成した気球を飛ばすためにカルミアとシギに来てもらっていた。
「まずは、シギさん!気球の中に空気を送り込んでください」
「ほーい」
シギの風魔法で膨らむ気球。
しだいに、横向きながら本来の形が見えてくる。
「次は、カルミアさん! 中の空気を温めて下さい」
「分かったわ」
カルミアの放つ炎によって、徐々に気球が立ち上がっていく。
「よし、浮き上がって来たぞ! シギさんはもう止めてください」
「なにこれ? 私、何もしてないのに浮いてる?」
シギは自分の魔法以外で空に浮かび上がっている事実に驚き、気球の籠のフチからまわりをキョロキョロ見渡していた。
「気球の中の空気を温める事で膨張して、外の空気より軽くなるんです。だから、水の中で体が浮くように空気の中で浮かび上がれるんです」
「私だけでも、動かせそうね」
カルミアが気球に炎を送り込みながら言う。
「元の世界ではそうでしたね。風の流れを読んで操縦するのが普通の動かし方ですけど、シギさんに風向きを変えてもらえば、もっと自由に空を動き回れるかと!」
気流の流れに乗りながら魔法の力で倍速になった気球は、普段の飛行魔法と遜色ないスピードを確保していた。
「これなら長距離飛行しても大丈夫そうね。シギ?」
「もちろん! これ、けっこう楽しい~!」




