序章4
キャラクターがアバター装備込みで居るのなら武器も持っている筈なのだが、現在の俺は徒手だ。
周囲に転がっている風でもない。
黒いドレスのアバター装備の時に使っていた武器は大きくて目立つから、森の中だからといって見落とす事は万が一にもない…が、ない物に固執しても仕方ない。
ゲームの通りなら、最高難易度は無理だがそれ以外のコンテンツはぶっちゃけ武器無しでも問題にもならない程度の魔法の実力はあった。
…この場所とこの体がゲームの通りで、俺がこの体が持つ性能を十全に引き出せるのなら、だが。
そう、当然の事ながら今までの人生で一度も使った事のない魔法などという不思議能力を俺が使えるのか、使いこなす事ができるのか。
仮に武器があったとして、使いこなせるのか。
また武器にしろ魔法にしろ、使えたとしても精々素手の喧嘩位しか経験のない俺が、敵性存在と遭遇した時に躊躇なくその力を振るえるのか、疑問は尽きない。
素手か…近接戦闘能力もそれなりに持たせていたが、それは装備が揃っているのが前提の話だ。
素手殴りなんて序盤も序盤でしか通用しなかった…あ、いや、当時は力のステータスが低かったからで、終盤のステータスなら中盤くらいはいけるか?
まあどの道、その程度では安心からは程遠い。
つまり何とか魔法を使える様にしないと。
しかし流石に『魔法が使えるかも知れない、さぁ使ってみよう!』という状態ではね…せめて取っ掛かり位は欲しいと思うのは贅沢だろうか。
え、ものによるけど十分贅沢?
下手したら目覚める前に奴隷商人に捕まって隷属の首輪とか填められて強制的にチョメチョメされてる展開?
う、うん…まぁ、ソレと比べたら確かにマシではあろうが、ねぇ…
思考が脱線しがちなのは勘弁してくれ。まだ冷静になりきれてないんだ。
ともあれ、そう、魔法だ。
ゲームではコマンドを入力するだけでMPが消費されその地点に魔法が発動していた。
試しに目線で地点を定めて、視点を動かす事でコマンド入力を再現してみる…発動しない。
頭の中で発動する様子を描きながら地点を指で示す。何も起こらない。
ついでに指でコマンドを再現するがこれも駄目。
コマンドは関係ない?
後は物語だと『イメージが重要!』というのが多いから倣ってみたが…
何となくこれじゃない感。
次は…
…
はっ。
お、おや?今、何があった?
何かがあった?何かをしようと…いや、した?
うっ…頭が痛い。思い出そうとするとズキッと…あ、あーこれ思い出しちゃいけないヤツだ。
深遠なる冥府の永劫に揺蕩う闇から我が招聘に応えよとか14歳の病を再発させてポーズをキメながら朗々と詠唱したりはしてないよホントだよいや今の見た目ならギリギリ年齢的にも格好的にも問題はないんじゃないかとか実に自分好みのトロンと甘く高い感じの声だったなこれが自分から出た声じゃなければなぁとか思わなくもないがあと俺は確かに十代半ばくらいの美少女は好きだがあくまで護り愛でる対象としてであって性欲の対象としている訳ではないからロリコンと言われたくはないが変態紳士と呼ばれれば否定はしないが今の俺はどう見ても紳士じゃないってか自分自身がその対象なのだがね!…ふう、落ち着いた。
必死に黒い歴史から眼を逸らしながら魔法の使い方について思いを巡らせている内に、ふと二つ程、気になりだした。
そしてこれは一度気になると、以降は解決するまで中々気を逸らせなくなる奴だ。