金山
◆西暦2000年4月25日(火)◆
起床と同時にひなたは忙しなく動き回っていた。
日課の鍛錬を軽くこなし、洗顔、歯磨き後、身支度を整える。
今朝は朝食をある場所で食べたいので、昨日のうちから楽しみにしていたひなたは、自然と急いでしまうのだ。
(もー、えっちゃんたら、私もインターネット使えるなら教えてほしかったよ)
《すみません。ご要望が無かったもので》
(いや、ごめんね。そだね。特に怒ってはいないから)
昨夜ベッドに潜り込んだまでは良かったが、時間が少し早かったせいかあまり寝付けず、
(うぅ、何だか眠れない。えっちゃん、暇だから何か面白い事ない?)
無茶ぶりである。
(…そうだ。インターネットを私も見れるようにできないかな?)
《YESマスター。パネルを使ってネット接続が可能です》
(え、ほんと?というか、もしかして前から出来るようになってたの?)
《YESマスター》
(えと、いつから?)
《地図を使えるようになった時からです》
(おぅふ、まじか)
というようなやり取りがあり、その後、気を取り直してネットで遊んでいると、この市内にハンバーガーのお店がある事を発見。
まだ食べた事が無かったので、朝食はそこに行こうと決めていたのである。
* *
(やってきました。沖縄限定ファストフードレストランA&VV)
とことこと敷地内に入り店舗を目指す。
(結構大きいね。あれ?車から顔を出して小さい機械のボタンを押しながら何かしゃべってる)
よく聞くと注文をしているようだ。
(凄い。車から降りなくても注文できるんだね)
そんな機械が駐車スペースごとにあちこちにある。
その向こうを見ると店員さんが商品の乗ったトレーを持って別の車の方へ向かうとお金を受け取っている。
(商品を持ってきてくれてお金もその場で払えるのか。便利なサービスだね)
などと感心しながら歩いていると、程なく店舗に到着。ドアを開けて中に入った。
「いらっしゃいませー。ようこそA&VVへ」
(ふふふ、もう注文する品は決まっているのだよ、あけちくん)
またもや言いたいセリフのご登場のようだ。
「Jr.メ〇ティ・ダブル下さい。飲み物も一緒で」
「それでしたらセットの方がお得ですよ。こちらのサイドメニューと飲み物からお選びいただけます」
「そうなんだ。それじゃ、それでお願い。えっと、サイドメニューはカーリーフ〇イ、飲み物はルー〇ビアで」
お金を支払い、注文を受け取ると席に座る。
(ルート〇アってちょっと独特な香りがして、炭酸も強めだけど意外と美味しい。確か、飲み物はおかわり自由って言ってたよね)
それからポテトがリング状に上げられたカーリー〇ライを口にいれる。
(うん、じゃがいもだ。でも普通のじゃがいもじゃないね。何か独特の触感と味がする。これも美味しい)
そしてメインディッシュのハンバーガーにかぶりつく。
(う、うまい。パティが2枚も入っているからボリューミーだ。
Jrにしちゃったからちょっと小さめだけど、朝食としては私的にこれぐらいがちょうどいいや。
でもこれで870円ってちょっと高くない?ま、いいけど)
店舗から出ると人目に付かない場所から異世界へ転移した。
* *
「ちぃっす」
『『『『『お、おぅ』』』』』
ギルドに入ると生暖かい目でお迎えされた。
「カレンさん、おはようございます。戻りました」
「お疲れ様~。さっきの“ちぃっす”って何?」
「気にしないで貰えると助かります」
そういいながら依頼完了書を提出する。
「はい、問題ありませんね。お疲れ様でした。それで討伐部位はどこです?」
「面倒だったのでそのまま持ってきたんですけど…。
それに道中狩った魔物がいくつかありまして。どこか広いとこあります?」
「分かったわ。それじゃこの建物の裏が解体所になってるから教えてあげるわ。ついて来て」
言われた通りにカレンさんの後について建物の裏側にやってくる。
(ここにもずんぐりむっくりがいた!)
「カザドさん、この子ひなたちゃん。依頼で獲物をそのまま持ってきたらしいので解体お願いできますか?討伐部位はこちらにお願いします」
「おぅ、カレンか。しかしこりゃまた可愛い冒険者だな。俺はカザドってんだ、宜しくな」
「ひなたです。宜しくお願いします」
「よし、ここに出してみろ」
「あのぅ、ハーピーはクイーン合わせて38匹、それ以外にもオークやオーガ、ツインヘッドとか、大きい魔物が結構いるんですけどここで大丈夫です?」
『『『『『な、なにぃーーーーーっ』』』』』
「ひっ」
カザドとカレン2人しかいないと思ってたら、後ろからも絶叫がして10㎝ほど飛び上がってしまった。
「あんたたち、何しに来たの。邪魔よ」
「いや、ハーピー狩ってきたって聞こえたから、ちょっと興味があって…」
「邪魔しないから見学させてくれ」
「仕方ないわね。静かにしないと追い出すわよ」
『『『『『うっす』』』』』
「では奥に倉庫があるからそこまで来てもらえるか?」
「はい、分かりました」
3人の後ろをぞろぞろとついてくる野次馬たち。
「ちっ」
舌打ちをしたカレンを見て一瞬固まったひなた。
(カレンさん、綺麗な顔が台無しですよ?)
「よし、ここに出せ」
「はい」
アイテムボックスからまずはハーピーを積み上げていくと、カレンさんはメモ用紙に書き込み始めた手を止めて固まっていた。
「おい、嬢ちゃん、収納魔法持ちか。しかもかなりの容量だな」
「は、はい。一応」
続いてクイーンハーピー、ウルフ、オーク、オーガ、トレント、ポイズンエマト、ワイルドボア、ツインヘッドと立て続けに出していくと周りは静寂に包まれていた。
「あ、あのぅ、これで全部です」
『まじか』
『何だあれ?おかしくないか?』
『俺夢でも見てるのか?』
外野も復活して騒ぎ出した。
「お、おぅ。これはすぐには無理だな。で、これは全部ギルドに卸すって事でいいのか?欲しい部位とかあれば先に聞くが?」
「オークやオーガって食べられるんですか?」
「おぅ、うまいぞ。特にオーガは絶品だ。あとウルフ、ワイルドボア、ツインヘッドも食用だ。中でもワイルドボアはおススメだな」
「それじゃのワイルドボアを多めに、その他の食べられるものを私の食べられる量でそれぞれ数日分づつ貰えますか?あとは換金して下さい」
「そんなにたくさんもらっても腐らせるだけじゃないか?」
『ここだけの秘密でお願いしますね。
私の収納魔法、状態を保持できるので、入れている間は腐る心配はないんです』
ひなたはカザドに近づき小声で囁いた。
「「えっ」」
驚愕に目を見開くカザドとカレン。
「しーっ。くれぐれも他の人には教えないでくださいね」
「わ、分かった。それじゃすぐには無理だから明後日取りに来てくれるか。時間はいつでもかまわん」
「はい、わかりました」
「それじゃひなたちゃん。買取の支払いは明後日になるけど、ハーピーの報酬だけ先に支払っておくから、また受付に来てもらえる?」
受付まで戻り報酬を受け取ると中には金貨58枚と銀貨5枚が入っていた。なんでもクイーンは想定されていなかったが、相談した結果、金貨3枚になったとの事。
(おぅふ、金貨がまぶしいぜ。
…あ、この金貨、地球で売れないかな?でもたぶんこれって銀とかが含まれた合金だよね、きっと)
* *
気になりだしたら居ても立っても居られず地球の我が家へと帰還した。
テーブルの上に金貨一枚をハンカチの上に取り出し、椅子に座ると準備完了。
「よし、さっそくこの金貨、鑑定で調べてみよう。“鑑定”」
【ミスティア国金貨】
素材を金として作られた貨幣。国を超えて使用可能。
重量:33.8g/直径:33mm/厚さ:2.8mm。
品位(純度)は銀5対銅5の割り金を使った金約91.7%のK22。
絵柄は表面に国王の肖像、裏面に大陸に広く生息する動物ラビの絵柄が刻印されている。
地球における南アフリカのクルーガーランド金貨がこれに近い。
(このおっさん、この国の国王なのか。というかここ、ミスティアって国なのね、知らなかった)
国王をおっさん呼ばわりである。
(全部金じゃないのかぁ、残念)
≪マスター、純金だと非常に柔らかいので、すぐに傷がついたり曲がったりで貨幣の体をなさないかと≫
(な、なるほど。よし、それじゃこれを分解してみよう)
錬金術を使い金貨を金・銀・銅の3種類に分けてみた。
結果、金31g銀1.4g銅1.4gに分かれた。
(えっちゃん、この3つの金属って今いくらくらいなの?)
≪YESマスター。現時点での日本における相場は金1g 5,570円、銀1g 57.6円、銅1g 0.61円となります≫
(おぅ、銅ってば要らない子。でも集めればそれなりになるか。
てことは、この金貨1枚で…えっと…金のみだと172,670円か。
…えぇえええええ~っ!!まじ!?
金貨一枚が向こうでは1万円ぐらいの価値しかないですけど!けどぉ!!)
はぁはぁ、ぜぇぜぇ…
(落ち着けぇ私、まだ慌てる時間じゃない…あれ?何だかデジャブが)
金貨を全部取り出してみる…58枚ある(1枚は溶かしちゃったけど)。
(全部で…えっと…ふぇ?)
驚愕で目を見開き手が小刻みに震える。
(い、いっせんまんえん!?あぅ)
何度計算し直しても、えっちゃんに確認しても1千万円ある。
(よ、よし、とりあえずこれから金貨は向こうでは使用禁止にしよう。銀貨も溜まってきたらどんどん金貨に両替してもらおう。うん、そうしよう)
(半月で1千万円も稼いでしまったのか。やれば出来る子じゃないか、私。というか凄くね?)
(あ、ちょっと待て、私。まだ買取分貰ってないんだった。あれだけの魔物一体いくらになるんだ?何か怖くなってきた)
(こっちってもしかして金がたくさん取れるの?こんだけ価値低いんだからきっと余る程あるんだよね?
となれば金貨より直接金山探して集めたほうがよくね?)
今日のひなたは冴えまくりである。おつむフル回転で金策を模索中である。
(そうと決まれば今日は盗掘ざんま…ゲフンゲフン、金山捜索だ)
不穏な言葉が聞こえてきたが、聞こえなかった事にしよう。
* *
そして、再度異世界に戻ってきた。
(えっちゃん、お仕事です。
国にまだ見つかってない金とかミスリルとか高く売れそうな、金属が眠ってるとこって探索できる?)
≪YESマスター。問題ありません。“空間探査”は地中にも適用可能です≫
(おぅふ、空間魔法さんってば、万能チート全開だね。あ、もちろんえっちゃんもだよ)
“空間探査”後、パネルの地図を拡大しながら近い方の鉱山を調べると、見当をつけ出発した。
(段々遠方まで行く機会が多くなってきたね。馬か何か欲しいけど拠点もないのに無理だよね。
こっちに自転車とかバイク持って来たら駄目だよね。でもここなら免許とか関係無いから良い考えかも。
ただバイクを保管して置ける拠点が地球に欲しいね。というかいい加減浮浪児みたいな生活改めなきゃ)
そんな事を考えながら門を出て鉱山へとひた走る。
数時間走り、目的地まで近づくと速度を落として具体的な場所の見当をつけながら絞り込んでいく。
「うん、この辺かな」
辿り着いた場所は低めの山の切り立った崖下の辺りであった。
「どうやらこの崖壁の中みたいね」
そういうとひなたは辺りを見回し、且つ、鑑定でも人のいない事を確認した後、土魔法の“土穴”で崖壁に穴を掘り始める。ついでに誰も入って来れないように入口の前を“土壁”で覆っておく。取り除いた土はとりあえずアイテムボックスへ。
生き埋めになったらたまらないから、掘った側から四方を土魔法で強化しておく。
(よし、聖魔法を出してと、“光源”。それじゃ頑張りますか)
それから1時間程掘り進めただろうか。目的の金鉱に辿り着いた。
(へぇー、金鉱と言っても金ぴかってわけではないのね。岩の中にまばらにあるやつがそうでしょ?)
≪YESマスター。そこから金のみを抽出する為にいくつかの工程を経る必要があるそうです≫
(だよねー、これ取るの大変そうだ。でも私は錬金術で取っちゃうけどね)
土魔法でおおまかな大きさに切り取り、金属と岩石などにわけていく。金属以外は邪魔なのでアイテムボックスへ入れておく。後で埋める時に使う予定だ。金属も元素ごとに分類し収納。
ついでに入口からここまで掘り出した土も少しづつ取り出して金属を抽出しておく。
そこからお昼休憩などを挟みながら無心に穴を掘っていった。
夢中で作業を熟していたが、ふと気づいて外に出るともう日が暮れていた。
(あ、もうこんな時間か。結構取ったつもりだけど見るのがちょっと怖いな)
それからもう一度洞窟に入り、アイテムボックスから岩や土を取り出し奥から詰めていった。
入口も周囲と見分けがつかないように均して、周りに人や魔物がいないのをサーチで確認してから入口前の土壁を消した。
(うぅーーーっ、疲れたーーーっ)
背筋を伸ばし軽くストレッチする。汚れた服と身体に“清浄”をかけておく。
(よし、帰ろう。えっちゃん、お腹空いたから幸姉ちゃんのお店までお願い)
≪YESマスター≫
* *
「こんばんわー」
「ひなたちゃん、おひさ~」
「お久しぶりです」
いつもの席に座りメニューを広げると沖縄そばセットを頼んだ。少なめにとお願いしたら了承してくれた。
何故かポークと卵がついてきた。
(あれ?ポークと卵ってそれ単独のメニューもあるみたいだけど、もしかしてそれ頼んだら大量に出てくるのかな?沖縄だけに)
などと考えながら料理に舌鼓を打ってお店を後にした。
(沖縄そばも美味しかった~。幸お姉ちゃんに教えてもらった、あの沖縄のお酒“泡盛”の中に島とうがらしを漬け込んだ調味料で“コーレーグース”ってのをちょっとかけたら辛かったけどとても美味しかった)
* *
(さて、帰宅しました。私、覚悟はいいか?)
そう言いながら誰にも見られない、奥まった部屋に移動し、ブルーシートを敷いて金鉱を取り出す準備をする。もちろん、どれだけあるか分からないし、床が抜けても困るので慎重に進める。
(えっちゃん、金はどれぐらい取れたんだろう?ここに出せるレベル?)
≪YESマスター。およそ10Kgです。出しても問題ないかと≫
アイテムボックスから取り出すと一瞬床がミシッと音が鳴った。
(おぅ、まぶしい。でも思ったより取れなかったか。ほとんど土とか岩だったから仕方ないね。
10Kgっていうと…5,570万円。やばすぎる。
採掘は時々でいいね。これ捌くのも大変そうだ。
今度は向こうで高く売れそうなミスリルとか探してみようっと)
(よし、資金も目途が立ったし、そろそろ活動を始めよう。えっと必要な事とかやる事をまとめてみよう)
1.悪人を排除し、人口の増加を抑える
2.戦争や犯罪から子供たちを救う
3.環境問題を改善する
4.武術や魔法を鍛え、回避力も上げながらレベルアップを図る
5.サングラスやマスクなど変装装備を準備する
6.活動に必要な資金を得る為、その方法を模索し、実行する
7.野営ではできるだけ魔物を解体し料理をしよう
8.地球での拠点づくり
(6は金鉱発掘などでひとまず安心だが、他の方法も模索していこう。
この中でまっさきにやるべき事は最後の拠点づくりかな。
14歳の子供が土地や建物を買ったり借りたりってできるのかな?)
ネットでそれらの事を調べてみたが、どうやら日本においては両親か未成年後見人が必要みたいで速攻で無理だと諦めた。
(ゴーストタウン…も駄目か。結構な確率で観光地化されてるみたいね。
うーん、どっかにどの国にも所属してない無人島とか落ちてないかなぁ?)
どの国にも所属してない土地なんて、地球上であるとすれば南極ぐらいである。
(考えてみたらこれって一番難しい問題じゃない?誰かの養子にでもならない限り無理っぽいよ?)
うんうん唸ってみるが良い案が浮かばない。もう半分諦めモードである。
(あ、そうだ。日本の住民票に記載されている住所ってどうなってるんだろう?
考えてみたら居住地がないと住民票作れないよね、きっと。
別の人が住んでるとこに私がいる事になってるのも変だしね。
アメリカや中国とかでもいいけど、えっちゃん分かる?)
≪YESマスター。その住所ですと、該当する土地はこちらになります≫
(こちらってどちら?)
≪今マスターがいるこの建物のある土地です≫
「・・・・・」
「ホワッツ!?今何て言った!」
思わず大声で叫んでしまった。
≪今いる土地がその住所です。
ちなみに日本の法務局のデータベースにアクセスしたところ、この建物も土地もマスターの両親の名義になっております≫
(おぅふ、オーマイガー。
…あ、でも電気もガスも水道も全部使えないよ?)
≪無人の間支払いが滞っていた為、止められているみたいです≫
(それじゃ、お金を支払えばまた再開してくれるの?)
≪はい、その通りです。
ただ一つ注意点があるのですが、マスターの両親は実在している事になってます。聞かれた場合に備えて返答を考えておいたほうがいいと思います≫
(養子とか考えていた自分って…)
念の為、住民票を確認してみる。
【住所:沖縄県名護市字二見〇〇番地
世帯主:春日太郎】
(太郎って安直な。神様手抜きしたな)
続けてその下を見ると家族構成が書かれている。
最初が世帯主の名前やら生年月日やらが並んでて、その次が母親か…春日花子…をい、神様ちょっと来い。
最後に春日ひなた、長女となっている。
(よし、明日はこれを持って市役所とガス会社に突撃だ。
それと、えっちゃん一言いい?こういう大事な事は先に教えて欲しかったよ。がっくしだよ)
≪YESマスター。すみません。しかし、重要な事の判断が私にはし兼ねるので、その都度聞いていただくしか≫
(うん、だと思った。ごめんね。気づかなかった私が悪かったよ)
精神的に疲れたひなたはその後お風呂に入ると、速攻で眠りについた。




