89話:修行の成果から危機が始まりそうです
「未熟なあなたが一夜漬けで覚えた技術なんて、私には通用しないわよ?」
アイリーンは、右手に持つ杖を右に左に振り回している。
遠距離からではあるが、ペネムエは体を鞭で打たれ続けているかのような痛みが何度も襲っていた。
「うーん、さすがの私でもマジカル・スレイヤーを警戒しながらの攻撃だと火力が出せないわねぇ。
もともと、一撃の重さで勝負するの苦手だし」
アイリーンはわざとらしく肩を落とした。
「はぁ……はぁ……初手であれだけの洪水を生み出しておきながら、火力が足りないとは……
でたらめですね……」
「なぜか天界学校で、あなたを気にかけていた……名前はリールだったかしら?
あの子は火力だけなら12神官を凌駕しているわ、オーディン様すらね。
私の攻撃魔法なんて、赤ちゃんみたいなものよ」
そう言いながらアイリーンは俯きながら不敵に笑みを浮かべた。
その言葉でペネムエはある事を思い出し、恐怖で体が震えながら後ろへと下がった。
アイリーンは水の魔法を得意とするが、彼女が12神官であり、かつてアテナと女神の座を争う程の力は、『それ』ではないのだ。
「自分でも、あまり趣味のいい魔法だとは思わないけど……人形に苦戦するのは恥ですから……」
アイリーンに杖を向けられたペネムエの頭にズキンと痛みが走る。
しかしこれは、軽い片頭痛程度の痛みだ。
「なるほどねぇ、ノーマジカルで出会った宮本翔矢って人間。
あなたが、しきりに言ってる帰りを待ってくれてる人って訳ねぇ」
「……そうです、おいしい夕食を作って待ってると言って下さいました……
なので、わたくしは、それに答えなくてはなりません!!
たとえアイリーン様が、わたくしを亡き者としようとしていてもです!!」
ここに来て、ペネムエが力強く、大きな声を上げた。
それは、まるで自分自身に言い聞かせているようにも見えた。
「全く、ただの老害と思って無警戒でしたけど……オーディン様も余計な事を吹き込んでくれましたね」
ペネムエが、ここまで自分に強く話せるようになった事、それはノーマジカルでの経験が生きているのだと、記憶を良い取ったアイリーンは理解してた。
そして、自分がペネムエを始末しようとしている事は、オーディンによりリークされているのだと確認した。
最も後者の方に関しては、ペネムエの戦い方の変化を見て、そんな予感はしていた。
しかし、それは自分が対戦相手として出て来た地点で、気が付かれるのが当然なので、気にする必要もないと思っていた。
「オーディン様は、わたくしに、その事実を教えて下さっただけでなく、修行も付けて下さいました……
例え、あなたが相手でも、その気持ちに最後まで答えたい!!」
ペネムエは、ブリューナクを振るい吹雪を生み出し攻撃を仕掛けた。
だが、アイリーンはそれさえも自分に無害な水へと変換してしまう。
「くっ……神器から生み出された冷気さえも水に変えてしまうとは……」
「これでも寒いとは思ってるのだけどね、氷なんて何で生み出そうが性質は変わりませんから。
でも、オーディン様に修行をしてもらったとはいえ、ここまでの成長は大したものよ……
あなたが『天使』だったら試験は合格にしている所だけど……」
「ならば合格を頂きたいのですけどね……
あなた式神のつもりで、わたくしを造った……しかし、わたくしが本当に式神であれば、嫌われる存在では無いはず。
嫌われていた事実こそが、わたくしが天使である証明になるのです!!」
「あぁ、全く……屁理屈よ!!」
アイリーンはペネムエの周りに、虹色のシャボン玉を無数に生み出した。
「洪水なんかより、ずっと効くから気を付けてね?」
そう言い残すと、指パッチンをした。
すると、虹色のシャボン玉は一斉に弾けた。
「これくらい、マジカル・スレイヤーで……」
ペネムエは、冷静に魔力を見極め、弾けたシャボン玉の爆発を無効にした。
しかし、シャボン玉の中に入っていた液体が、体のあちこちに付着してしまった。
「うぁぁぁぁぁ」
その瞬間、ペネムエを焼けるような痛みが全身を襲った。
「硫酸って言うんですって、ノーマジカルでは有名な液体らしいけど、あなた知ってた?」
痛みでもだえ苦しむペネムエを見下しながら、アイリーンは笑っていた。
「宮本翔矢君だっけ? 彼に見せられないような顔になっちゃうかもだけど気にしなくていいわよ?」
全身を痛みが襲っているが、何故だかアイリーンの言葉ははっきりと聞き取る事が出来た。
「あなたは、もう彼に会う事は無い。
そして、この戦いが終わったら、彼の、あなたに関する記憶は私が責任をもって消して置きますから!!」
そう言い終わった頃には、ペネムエは叫び声も上げなくなってしまっていた。
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