87話:最悪の敵から大洪水が始まりそうです()
ペネムエとオーディンが話をした翌日、この日はいよいよA級天使と戦う最終試験が行われる。
次に出番が迫っていたペネムエは、目を閉じ深呼吸をしながら広い通路で、入場の準備をしていた。
「さぁさぁ、お待たせしました!!
続いては、予選リーグで異常な強さを見せたゼウ選手を相手に見事な逆転劇を見せたペネムエ選手だぁ!!」
実況のアナウンスのコールと共に入場すると、前の試合の入場と違い、わずかだが自分にエールを送ってくれる天使の声が聞こえていた。
ブーイングはゼロになった訳では無いが、ペネムエの気持ちは試験前と思えないほど晴れていた。
オーディンに昨日、警告された事を忘れてはいない。自分でも不思議な気分だった。
(たった1人でも待ってくれる人がいれば、それでいいと口では言いましたが……
応援してくださる声は、いくらあっても嬉しいのですね)
ペネムエは観客席をグルリと見渡した。名のある天使と比べると細やかな歓声も、まるで大歓声を浴びているかのように感じた。
ここでパンと自分の頬を両手で叩き気合を入れた。
(昨日は連絡が取れませんでしたが、リールも見に来てくれてるでしょうか?)
さすがに1次試験を超える大勢の観客の中から1人を見つけ出す事は不可能に近いが、ペネムエは一応、もう一度観客席を見渡した。
(まぁ見つかりませんよね)
しかし、これで気持ちが落ち着いたペネムエは引き締まった表情で対戦相手を待つ。
「そのペネムエ選手の対戦相手わぁ!? ……えっ?」
実況の天使は手元の紙を確認したが、あまりもの驚きで、対戦相手を発表する事ができなかった。
そして、その天使は名前を呼びあげられる事無く、静かにコロシアムへ入場した。
その天使の姿を見るなり、観客席はシーンと静まり帰った。
12神官も1人を除いて、驚きを隠せず旋律が走っていた。
「馬鹿な!! いないと思っていましたがまさか!!」
クローバーは頭の四つ葉を、かつてないほどに震わせていた。
「最悪の場合を想定したつもりだったが……それを超えてきたか……」
オーディンも眉間にシワを寄せ険しい表情をしている。
「12神官は、あくまで役職。天使の最高ランクはA級。
試験の内容が『A級の天使と戦い実力を認めさせる』ですから、今回の試験責任者のアイリーンちゃん本人が出てきても、不思議ではないと言う事ですね。ボーン」
この中でピエルンだけは、ペネムエに無関心だからか冷静に状況を見極める事が出来ていた。
「いや!! 屁理屈ですぞ!! 確かにアイリーンは人形を確実に処分すると言っていたが、仮にも試験!!
これでは本当に辞任ですそ!!」
クローバーの高い声のトーンが目立つが、この場は重い空気が支配していた。
「禁止する規則が無い以上は、続けさせるしかあるまい……」
オーディーンがボソッと一言だけ呟くと、この場にいる12神官全員が静かにコロシアムを見つめた。
*
「はははは、アイリーンも予想外の事をしてくれおって、飽きる暇がないのぉ」
この試合を見ているのは、12神官や他の天使だけではない。
2人の女神も、専用の座椅子に座り、試合を見守ろうとしている。
幼女のような見た目の女神アルマは、床に足が着かず足をブラブラと揺らしている。
「笑い事じゃないわ!! アイリーンが相手ではペネムエは確実に命を落とすのよー!!」
隣の席に座る女神アテナは、入場してきたアイリーンの姿を見るなり、血相を変え身を乗りだした。
「なら、お主が止めてみるか?」
アルマは首を横に傾げながら、アテナに問いかける。
ここの仕草だけ見たなら、アルマの事を誰もが可愛らしい幼女だと思ってしまうだろう。
「あなたも知っているでしょう? 私はアイリーンに呪いを掛けられてしまったわ……
今、ペネムエを救う事が出来るのは、あなただけなのよぉ?」
アテナは、いつものような喧嘩腰ではなく、頼み込むような口調だった。
「前にも言ったじゃろ? ワシらが何もする必要はないと」
同じ事を前に言われた時にアテナは、とてつもない怒りを覚えたが、今回は違った。
アルマはペネムエが無事に試験を終える事を知っているのではないか? そんな考えが頭を過ったのだ。
(彼女の未来視? それとも……)
*****
コロシアムが緊張感から静まり返る中、ペネムエとアイリーンが睨みあっていた。
「あら? 驚かないのね?」
最初に口を開いたのはアイリーンだった。
落ち着いた口調の中にも、凄まじい殺意をペネムエは感じ取っていた。
「これでも、常に最悪の状況を想定していますので……
命が狙われていると知った時から覚悟はしておりました」
口では、そう言っているが体は既に震えて、遠目で見ても腰が抜けてしまいそうなのが分かる程だった。
「天使としては素晴らしい心がけね、まぁあなたは人形だけど……
ところで、命が狙われているっていうのは、推測しただけかしら? それとも誰かから聞いたのかしら?」
あくまで、表情は柔らかかったアイリーンの顔が一気に冷酷になった。
ペネムエは黙り込んでしまい、その質問に答える事はなかった。
「まぁいいわ、私はゼウ君みたいに悪い趣味はないから……
一瞬で終わらせてあげるわ」
アイリーンは、一瞬で大洪水を発生させペネムエは飲み込まれてしまった。
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