281話:嫌な再会から嫌な予感が始まりそうです(改稿予定有り)
翔矢が双子の吸血鬼、キョロとカリンに出会った頃、天界の中心部に聳える塔、天の頂には大勢の天使達が集まって来ていた。
天の頂は居住から日用品の調達まで、この塔から出なくても生活できる程の設備が揃っているが、普段は人間の暮らす世界に散らばり、文明の調査などにあたっている天使達は、そこまで利用する機会が無い。
今しがた到着したペネムエとリールも懐かしむように天の頂を見上げながら、中へ入っていった。
「ここに来るのは……A級天使昇格試験以来ね」
「はぁ……」
少しばかり声が上擦っているリールに対し、ペネムエは肩を落として大きな溜め息を吐いたが、リールはこうなる事を予期していたようで、ガクッと落ちた肩にポンと腕を乗せた。
「そんな不安がらなくて大丈夫よ!! ペネムエが昇格試験の時に闘ったゼウ。
それにシフィンやワルパにグラビ、あんたを認めた天使は大勢いるわ。
昔みたいに酷いことをする奴なんてもういない!!
万が一いたとしても……私がこうしてこうよ!!」
リールは魔剣閻魔を取り出しブンブンと振り回して見せた。
その姿にペネムエは思わず笑みを溢す。
「リール……ありがとうございます」
「ゴホン……親友なんだから当然よ!!」
ペネムエの気持ちは少しだけ解れたが、それと同時に背後から殺気に近い気配を感じた。
いち早く気がついたリールは、閻魔を振り飛んで来た何かを払いペネムエを護り、2人は床に散らばった大量の針を眺める。
縫に使うような針、この攻撃スタイルで犯人はすぐに分かった。
恐らく犯人も隠すつもりは無かったのだろう。
振り返ると、そこにはタキシード姿のスラリと背の高い女性がペネムエを怪訝そうな目で睨んでいる。
その視線に2人は負けじと鋭い目つきで返して見せる。
最初に口火を切ったのはリールだった。
「まぁ今時こんなダサい事をするのは、あんたくらいよねトリマー?」
「リールあなたに用はない……
狙いは……こっち!!」
トリマーはペネムエの方へと視線を向け、指の間から無数の黒い針を放った。
しかしペネムエも、これに動じる様子はなく氷の壁を生み出し防いでみせた。
「トリマー様お久しぶりでございます、A級昇格試験予選の魔法列車以来でしょうか?
わたくしと、あなたの過ごした時間が同じとは限りませんが」
「だまれ、私の名前も人形ごときが気安く呼ぶな!!」
「気安くはないつもりなのですけどね、一応は丁寧な言葉づかいを心がけております」
ペネムエはブリューナクを構え、トリマーも指の間に針をセットしている。
2人はお互いの動きから目を離さず、隙あらば、大技が放たれるであろう緊張感が漂う。
天の頂に集まっていた天使たちも、注目し始める。
そんな中、先に動こうとしたのはトリマーだった。
右手を大きく振りかぶり針を放とうとする。
だがその右手は背後から迫っていた何者かに掴まれ止められてしまった。
「お前は……ゼウ」
「辞めておけ、貴様ごときではペネムエには勝てん」
「ハッキリ言いますね、たまたま氷魔法に適性がありブリューナクの使い手に選ばれただけ、道具頼みの力では限界が見えています」
「ならメイジとかいう貴様の主人が神剣アンサラーを受け継げていないのにも目を瞑れ」
ゼウの挑発にトリマーは眉間にシワを寄せたが軽く深呼吸をし気持ちを落ち着かせた。
「言ってくれますね、アイリーン様の腰巾着であるあなたが人形の肩を持つなど」
「俺はこの右手の主……雷鬼のライカを手に掛けた天使を探している。
その為にアイリーンに協力しているにすぎない」
ゼウはトリマーの頭上に魔方陣を展開し雷を落とした。
しかし彼女は察知しており、掴まれた腕を振り払いながら後ろに飛び回避する。
「まだやるなら付き合うが?」
「……私が憎いのは人形だけ、武道会を前にムダな戦いをするつもりはありません」
「なら最初からムダな戦いなど仕掛けぬことだ」
この言葉にトリマーは再び眉間にシワを寄せたが、それ以上は何もせず振り返り、立ち去ろうとした。
しかしその視線の先には主人であるクルクル巻かれた金髪が特徴的なメイジが彼女を睨み待ち構えていた。
「メイジ……様?」
次の瞬間パァンという乾いた音が辺りに響き渡る。
これにペネムエとリールも呆気に取られた。
「こんな事は、もうやめなさい……みっともない」
「申し訳……ありません」
トリマーは、それ以上何も言えず、ただ立っている事しか出来ない。
それ以上の言葉を掛ける事は無くペネムエの方へ歩み寄るメイジ。
リールは警戒を強めペネムエを護るように前に立つ。
「どきなさい、天界随一の魔力を誇る天才リール、まともに相手にするほど馬鹿ではありませんわ」
だがリールは警戒を解くこと無く睨みを利かせる。
その肩にペネムエは手ポンと乗せた。
「リール……ありがとうございます。
でも……わたくしも昔のように弱くはありませんし……なによりメイジ様から敵意は感じられませんので」
ペネムエはリールの腕をゆっくりと下げさせ、メイジの前へ立った。
口では強がっているが、体は少し震えてしまっている。
「お久しぶりです……メイジ様」
「えぇ、まぁ私とあなたが過ごして来た時間が同じとは限りませんけど」
「トリマー様も同じような言い回しをしておりましたが、流行っているのですか?」
キョトンと首を傾げるペネムエの反応に、メイジは頬を赤く染め咳払いをした。
「そっそんな事より、従者が失礼をいたしました。
主人である私の失態も同然、お許しくださいな‘ペネムエ’」
深々と頭を下げるメイジ。
予想をしていなかった行動にペネムエもリールも反応ができず固まってしまう。
この状況で最初に動いたのはトリマーだった。
「メイジ様いけません……そんな……
私の為に頭を下げるなど……」
しかし取り乱す従者の声にも耳を傾けず、ペネムエの返事だけをただ待ち続けている様子だ。
「えぇっと……メイジ様、頭を上げて下さい。
怒っていないと言いますか……いつもの事だったと言いますか……
とにかく頭を上げてください!!」
状況を飲み込めていないペネムエには、それしか言えなかった。
ここでメイジはようやく頭を上げる。
「謝罪を受け入れて頂き感謝いたします」
事態の収集が付きそうでペネムエは肩の荷が降りたような気分だったが、リールは納得していないようだ。
そればかりか魔剣閻魔を抜き、彼女の喉元へ突きつけた。
「なんの真似ですの?」
「そうですよ!! リール!! 引いて下さい!!」
「いいえ、ここで終わらせるつもりはないわ!!
ペネムエだって天界学校でコイツに何されたか、忘れた訳じゃないでしょ?」
「そうですけど……」
「この謝罪はあくまで今の出来事に対してだけ。
過去については触れられて何も触れられていない」
リールの感情の高ぶりに呼応するように閻魔が黒炎を纏う。
それでもメイジは、ため息を付く余裕を見せる。
「謝る訳がないでしょう? あれがあの時代のペネムエへの正当な評価」
その回答にリールの敵意はさらに強くなるが、メイジは気にすることなく話を続けた。
「ただただ毎日図書館に引きこもり知識だけを蓄える、人のこととは言え、そんな生き方に苛立ちを感じておりました。
ですがノーマジカルで良い出会いがあったようですね。
持論ですが人の存在価値とは、その者の行動理念。
もはや彼女を蔑む理由はありませんし、もしそんな状況に出くわせば、私もリールと同じ事をしますわ。
A旧昇格試験で戦うことは叶いませんでしたが、武闘会で機会があれば手合わせ願いますわ」
そう言い残しメイジは去っていき、トリマーもペネムエに頭を一瞬だけ下げ、その後を後を追う。
「ったく上から目線な奴ねぇ」
「わたくしは……認めて頂けたようで嬉しかったですが」
この返答の後、ペネムエの頭上にドンと何かが振り下ろされ痛みを感じた。
「リール、何をするんですかぁ!!」
「あんたは人に対する要求が低すぎるのよ!!
武闘会であったらドカンとデカいのかましてやりなさい!!」」
「はい」
「やれやれ、俺の手出しはいらなかったようだな」
「ゼウ様、そんなことはありません。
助けて頂きありがとうございます」
今まで放置していたゼウに申し訳なく思いペネムエは深々と頭を下げる。
「まぁ止めなかったらメイジはともかく、トリマーの奴は凍らされていたか燃やされただろうしな
そんなことよりアイリーンから聞いたが、大天界祭であっても全ての天使の招集は異例。
そして奴も要件は聞かされていなかったらしい。
今回の大天界祭、確実に何かあるぞ、気を張っておけ」
「なにかって?」
「なんですか?」
2人が首を傾げると同時に、辺りの照明が消され、再び照らされた時には高台にアテナとアルマが並び立っていた。
会議以外で、この2人が並び立つのもまた異例。
これだけで天使たちは嫌な予感を感じずにはいられなかった。
ここまで読んで下さりありがとうございます。
ストーリは一生懸命練っているので少しでも続きが気になったらブクマ登録して頂けると幸いです。
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