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灰色の空  作者: 灰色の猫
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20/51

一ミリの想い


「そういや、ソラ」

「夜までは暇なんだろ」


「ちょっと、ツラ貸しな」


 仕事が休みの姉が問答無用で俺を拉致していく。


 姉の車に押し込められ、少し遠いアウトレットモールへ。



 見た事がない店と、見た事がない人の多さに圧倒されながら、ひたすら姉に付いていく。


「せっかく決める日なんだから、ちょっとはお洒落しようぜ」


 こういう時の姉は無駄に男前。

 姉に連れられるまま、店を何軒か回り見繕ってもらう。




「ま、こんなもんだろ」

「っと、靴も変えないとな」



「まあ、無難だけどお前の顔はこっちの方が良いよ」


 褒められているのかどうか分からないが、服は清潔感重視で決めたらしい。


 姉は基本的に露出が激しい。前に言っていたが、視られていた方が緊張感がありスタイルを維持しやすいとの事。



 よく分からないが、多分今日の俺の格好は物足りないのだろう。



「靴は自分で選んでみるか」

 服選びに飽きたのか、姉が提案してくる。


「デートに行くのに、全部あたし任せっていうのも情けないだろ」


 なるほど、そういう事か。にしても、種類が多くてどれが良いのやら。


 なにやら店員がチラチラ見てくるが、なんなんだ一体。


 冷やかし……ではないぞ。


 おっ、これは……


 う〜ん、なんか違う……


 これ……も、違うなぁ。



 なんか楽しいな。今日買ってもらった服に合うのを考えてみるが、どうしてなかなか。


 逆もまたしかり。履きたい靴があればそれに合わせて服を選んでみたり。


 女性が服を多く持っている理由がなんとなく分かってきた。




やっぱり、これかな。げっ、こんなするのか。やめとこう。


「お、これにするのか」「良いじゃん、さすがあたしの弟」


「値段、良いって気にすんなよ」


「そのかわり、ちゃんと落としてこいよ、ミナちゃんを」



 ますますプレッシャーがかかるな。どうやら既に俺だけの闘いではないらしい。


 姉ちゃん、頑張るよ。


 俺達は遅めの昼食をアウトレットモール内で取り、家に帰宅した。



 家に帰ると、妙に緊張してきた。今日は夏祭りに行くのではない。


 告白をしに行くのだ。


 あと数時間後には俺が告白できた場合、結果がでている。もしかしたら、結果は後日とか。


 いやその前にドタキャンとか。

 悪いことばっかり考えてしまう。


 俺は落ち着くために、イヤホンを耳に付け音楽を鼓膜に流し込む。


 途中、片想いや失恋系のラブソングを飛ばしたのは言うまでもない。


 よし、シャワー浴びようっ。



 いつもより高い温度で肌に打ち付ける様にシャワーを浴びる。

 よく映画のワンシーンであるような、洗い流す訳でもなくただただお湯を浴びるシーンを真似してみる。




 生まれて初めてかもしれない。見えない何かの力が働いてくれと、修行僧の様にお湯を浴びながら願ってしまう。


 水じゃないから駄目かな、と思える余裕も出てきた。




 タオルでいつもより強く身体を擦る。

 特に意味はないけどお気に入りの下着を選んで履く。


 意味はない、本当に。 いつもは自然乾燥で髪を乾かすのだが、今日はそんな時間はない。


 姉にドライヤーを借りに行く。


「あっ、行く前にちょっと声かけてね」


 なんだ、最終チェックか。


 ものの数分で乾いてしまうドライヤーの力に驚きながら、俺の身支度は終わった。


 上は黒の襟つきのシャツに、下は濃いめのベージュのチノパン。

靴は白が基調でワンポイントで花柄が入っている。


 他にはないオンリーワンなデザインで気に入った。俺自身、そうなりたいのかもしれない、もしかしたら。


 新品の靴なので、部屋で履いて紐を調節する。


 ドライヤーを返しに行くついでに準備完了の報告をする。



「う〜ん」

「何かが足りない」


「そうだ、これだな」


 姉はおもむろに何かのクリームを手に取り、俺の髪に馴染ませていく。


「よし、完璧」




 どうやら髪のワックスをつけて、髪全体にボリュームを出したらしい。



 姉の部屋にある大きな鏡を見てみると……なんだか自分じゃないみたい。

 とまでは言わないが、ちょっとは垢抜けたかな。



「それと、忘れずにこれを持っていけ」


 そう言って俺の手にある物を握らせた。



「これはなんなの」


「これはコンドームだ」

「こ、これがっ」

 姉の堂々とした答に圧倒されながら、俺は恥ずかしくなってしまった。

 話は聞いた事があるが、実物を見るのは初めてだった。


「いいよ、こんなの」

 照れ隠しで姉に返そうとした。


 すると、姉が珍しく諭す様に話し始めた。



「あのな、ソラ」「これはお前とお前の大事な人とまだ見ぬ命を守るために必要なんだ」


「別に今日使えといっているんじゃない」


「いつかは大事な人と結ばれる日が来ると思う」

「その時のために持っていろ」



「お前たちの年代じゃあ、恥ずかしさもあって笑いのネタにしかならないかもしれないが」

「相手を悲しませないためにも必要な物だ」



「わかった……かもしれない」


「それでいいよ」

「徐々に分かってくるから」


 今日、初めて姉を身内ではなく一人の大人として感じる。まだコンドームの大切さは分からないが、女性がここまで言うんだ。




「よし、いってこい」


「うん、いってくるよ」

 俺はまだ固い新しい靴に慣れるように、踏みしめながらミナの家に向かっていった。



 早くミナに逢いたい。

なかなか難しいです、性のお話は。




そして引っ張って申し訳ないですが、次回からやっと告白回です。


どうなるか楽しみです

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