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ガラスの靴は、もう履かない。  作者: 蘇 陶華
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君の歩く道

自分の生き方が、わからず迷っていた僕ができた事は、ただ、親に反発する事だけだった。今、思うと、幼かった。なんでもない、恵まれていた。親達は、僕に何も心配しなくていい道を与えたかったんだ。僕は、深い眠りの中に居た。意識がなくても、耳は聞こえている。お腹の中にいる胎児が、最初に、芽生える感覚は、耳で、母親の声を聞いていると誰かが、話していた。僕は、夢の中にいた。黒壁が、必死に怒鳴っていた事も知っている。時間との戦いだと言っている人も居た。間に合わないと誰かが、叫び、僕は、ドクターヘリに、載せられた。早く、目覚めて、莉子に大丈夫だよと声を掛けたかった。だけど、僕の身体は、動いてくれなかった。父親と母親が、顔色を変えて、駆けつけてくれた。七海葉、もう、怒っていないと言いながら、泣いていた。莉子が、何度も、来てくれた。藤井先生も体調のいい日は、顔を出してくれた。莉子。もう、そんなに、歩けるようになったのか。その隣に、僕は、寄り添う事ができない。藤井先生が旅立った後、君を支えたい。時間だけが、流れていった。あの後、綾葉お、綾葉の祖母は、警察に捕まった。長年の架への想いが歪んだ結果だった。架は、保釈金を払い、自宅にいる。莉子との離婚が成立し、自分で、音楽のボランティアをする事にしたと報告にきた。

 五月のよく晴れた日だった。藤井先生が旅立った。莉子に後を託して。とうとう、莉子は、一人ぼっちになった。

「新。今日、ついに藤井先生が旅立ったわ」

莉子は、いつかのように、淡々としていた。

「先生の分も、踊らなきゃ・・・新」

莉子の細い指が頬に触れる。

「自分で、しっかり歩いて行く。だから、新」


莉子の長い髪が、僕の唇に触れる。カーテンの間から、溢れる日差しが


眩しい。莉子の息遣いが、僕には、聞こえて。


「一緒に・・・歩くの」


何とも言えない香りが、僕の鼻腔に広がっていく。あぁ、この香。よく、莉子のレッスンで、嗅いでいた。この匂い。


「あらた・・?」


莉子の声が驚きに変わった。僕の視界に、眩しい光が、飛び込んできて。


「先生?」

莉子の声を聞きつけた、看護師が、走り去る足音が響く。


「新」

僕の目の前に、いるのは、僕が守りたかった人。

「莉子」

僕は、その手で、莉子の手を取った。


あれから、僕らは空港に居た。莉子は、スーツケースを預けると、僕を眩しそうに見つめていた。

「しっかり、伝えてくるんだよ」

しばらく、莉子に会えなくなる。

「うん・・・藤井先生の旦那さんに逢ってくる」

藤井先生の遺言を元の旦那さんと、娘さんに伝えにいくのだ。その後は、少し、フラメンコを習いに行くらしい。

「新も、しっかり、勉強して」

「当たり前だろう」

僕も、自分の道を歩き始める。自分で、やりたい事がある。

「気をつけて」

「うん」

莉子は、僕に笑みを向けると、歩き出した。僕と少しの間でも、離れるのは、寂しくないんだな。彼女らしい。僕も、反対側に歩き出した。もう、莉子は、気分の道を歩き出している。僕の道は、彼女に続いている。きっと、また、逢える。


莉子。待っているよ。


また、あのステージで。



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