表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
知多星ゴヨウ  作者: MIROKU
二年
100/100

※あとがきに代えて

 ーーぷあ~ん


 ーーたたんたたん たたんたたん たたんたたん たたんたたん……


「ひとまず落ち着いた」


 十兵衛は浅○橋のガード下の寿司屋で飲んでいた。


 「知多星ゴヨウ」はほぼ打ち切りだが、終わらせないと次に進めない。


 宇宙の真理を題材にしていたが、意味不明な物語であった。


 なお、ゴヨウを演じたのは十兵衛である。


「あらゆる道に終わりはない、追求と洗練を繰り返すのだ」


 カウンター席の十兵衛の隣では、宗矩が厳かな顔つきでヒラメの縁側を堪能していた。


 わさびが利いているはずだが、宗矩は眉も動かさない。正に不動心の顕れだ。


 また宗矩は「知多星ゴヨウ」ではチョウガイの役を演じていた。


「美味しい~」


「寸秒の芸術って本当ね~」


 チョウガイの隣にはバレンタイン・エビルが、更にその隣にはレディー・ハロウィーンが中トロを手でつまんで口に運んでいる。


 欧州系美女の二人は双子だけに、そっくりだ。レディー・ハロウィーンはショートヘアー、バレンタイン・エビルはロングヘアーだった。


「ーーで、チュパカブラの次のZ級風味小説には、肉屋と人妻の話なんかを」


 十兵衛の話を聞いた途端、宗矩の額に「ビキイ!」と血管が浮かんだ。


 宗矩の不動心は、十兵衛によってたびたび乱される。


「肉屋と人妻……? それは何の官能小説だ……?」


 ーーやべえ、殺される……


 十兵衛は宗矩を前にして、血の気の引いた顔にひきつった笑みを浮かべた。


「ーーきっと肉屋さんと人妻は昔の知り合いね」


 レディー・ハロウィーンはーー十兵衛から一番、席が離れていたーー唐突につぶやいた。


 あるいは、ひょっとしたら、十兵衛への助け船だったかもしれない。


「高校ではクラスが一緒だったとか」


 バレンタイン・エビルもレディー・ハロウィーンの話に乗ってきた。


「そうね、それでお互い好きなのに、つきあうきっかけもなく……」


「高校生生活終了、男は家を継いで肉屋に」


「女は大学に行って彼氏ができて、今や二児の母親ね」


「そんな二人が再会して熱く燃える!!……なんて、そこまではいかないけれど」


「不倫なんか文化じゃないわ、ただの欲望よ」


 レディー・ハロウィーンとバレンタイン・エビルの話を、十兵衛と宗矩は端から聞いていた。


「そして、ある日イベントが…… 銀行強盗が現れて、女は子ども二人と人質に!!」


「男は三人を助けるために、得意のカンフーで銀行強盗をやっつけるの!!」


「あなた、アクション好きねえ」


「ジャッキーとかブルース・リー大好き!!」


 レディー・ハロウィーンとバレンタイン・エビルは話が弾んでいる。


 バレンタイン・エビルはアクションが好きなのだ。


「アクションは三十分くらいやってくれないと」


「カンフー映画じゃないの、それじゃ」


 双子の姉妹はクスクス笑った。十兵衛と宗矩は刮目して感心していた。


 女性の創作力、ただ事ではない。


 そして彼女達の話をまとめると、以下のようになる。



再会した肉屋と人妻の淡い恋

 ↓

実は二人は高校生時代、好きあっていたのに交際には至らなかった

 ↓

肉屋の主人は独身、人妻は二人の子持ち

 ↓

気持ちは伝わるのに燃え上がらない二人(この辺で読者がヤキモキする)

 ↓

そんな時、銀光強盗が現れ、人妻と二人の息子は人質に

 ↓

肉屋はカンフーで銀行強盗を倒す(※ここは激しいアクションが展開される痛快な場面)

 ↓

二人は気づく、もう気持ちがふれ合うことはないと

 ↓

肉屋は一人町を去り、人妻は家族と幸せに暮らすのだった……



「思い出ボロボロだわ~」


 レディー・ハロウィーン、優雅に日本酒を飲む。


「剣と千尋みたいに最後は笑顔で!!」


 バレンタイン・エビルも帆立握りを口に運んだ。


 余談だがバレンタイン・エビルと宗矩は恋仲であった。詳しくは「知多星ゴヨウ」本編を参考にされたし。さりげない宣伝、お目汚し失礼。


「……そういう風にしたらどうだ?」


 宗矩はアナゴを食べながら、横目で十兵衛を見た。


 彼からの助言としては「肉屋は先祖から伝わる古武術の使い手」という設定を示唆された。肉屋なのに古武術?


「……ははは、やはり女性は偉大でありますな。そして、あらゆる道に終わりはない……」


 十兵衛もまたウニの軍艦巻きを口に放り込む。


 三船久蔵十段いわく、文武一道。


 その道は真実であった。





 そして少し離れたガード下の路上では……


 ーーカワ~!!


 ーーラッーシッシッシッ……!!


 街灯の下、カワウソとアザラシが戦っていた。


 馴れ合いより刺激、そのような仲かもしれない。


 海の豹と称されるアザラシ、その爪と牙は本物だ。


 ーーカワ~!!


 カワウソはアザラシに飛びかかった。


 己より強い者に挑む、それもまた太古の昔より繰り返された男のロマンなのだ。



 お わ れ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ