七日目.16 魔女
大変遅くなり、申し訳ありません。
諒子さんはひとしきり抱きしめてくれた後、菜穂子さんと行くと言って姿を消した。長くいると僕が甘えてしまうと思われたのかもしれない。
今までおとなしかったマコは僕と二人になって、ようやく口を開いてくれた。
「お兄ちゃんが泣くところ、わたし初めて見た気がするよ」
「皆には内緒にしておいてよ」
この事を知ったら皆大騒ぎだと言うけど、当事者としてはそんな事を言い触らされては堪らない。
出来るだけ人目がある所では泣かないようにしていたのに、今のは本当に不意打ちだった。
「男が泣いても自慢にはならないよ。ダンジョンの中で泣いている男の子っていなかったよね?」
「うーん……多分いなかったと思うけど……あれ? どうしてダンジョンの事、知ってるの?」
「どうしてって、菜穂子さんと一緒に見てたからだよ。あのダンジョンには監視の蜘蛛がいて、その目で捉えたものを幾つか水晶を通して見てたんだけど、えーと……マコ達が餓者髑髏に謝ってた所と、骸骨達が骨に戻って泣いてた所、アーベルとバルドゥルの前で泣いてた所、喋れない呪いを受けて泣きそうになってた所、後は……」
指折り数えていると、小さな身体を震わせて立ち上がり、顔を真っ赤にして大きな声を上げた。
「ちょっと待って! わたしもいっぱい活躍したんだよ⁉︎ バルドゥルに乗って洞窟の壁を駆けたり、何メートルもあるスライムの川を飛び越えたり、体育館ぐらいもある恐竜を水や風の魔法で足止めして、大蜥蜴と一緒に戦ったりもした! もっと格好いい所、いっぱいいっぱいあったよ! それなのに、なんでそんな所ばっかり……」
今から見せる!と魔石を光らせ始めたけど、さすがに見ている時間は無い。
不本意かもしれないけど、格好悪いところを見られたのはお互い様だ。
「冒険の話は、帰ってからの楽しみに取っておくよ。だから今はマコの事は言わない、僕の事も言わない。それで良いよね?」
目を合わせて説明するけど、ぷいとソッポを向かれた。僕と違って、自分の泣き顔は皆に見られてるから不公平らしい。なんとか宥めて、マコだけの秘密にして欲しいとお願いしてようやく納得してくれた。
しかし、説得してる間、ずっとニマニマ笑みを浮かべていたのだけが気がかりだ。
「それじゃ、アクアルムに行こう」
「うん! 準備出来てるよ!」
「こんな使い方、良く思いついたね」
「見直してくれた?」
「見直すも何も、初めからマコは凄いと思ってたよ」
マコは杖から重石になっていた砂と石突きを外し、大きな魔石を剥き出しにした後、僕の手を引いて杖に跨った。杖はマコが握り、僕はマコのお腹を支えてる。苦しくないのか聞くと、暖かくて気持ちが良いから、手を離さないでと返事が返って来た。
そして、全ての用意が整うとマコと僕を乗せた杖は、空に舞い上がった。
空を飛ぶ、ただその為だけに用意された道具や魔法は、それぞれ工夫が凝らされていた。
魔石に重量操作を使って二人の体重を軽くする。
ラクタベルントの木の皮を尻に敷き、暖かい風を発現。長時間跨っても大丈夫なように、身体や杖にかかる負担を減らす仕組みだ。
そして最後に風よ運べを唱えると二人を乗せた杖が浮いた。
一つ一つは簡単に見えるけど、仕上げるまでには随分頭を捻ったんだろう。その証拠に、僕が用意したシャボン玉のように、限定された空間でしか使えないものじゃない。どこでも使えるように特別な魔法は一つも使っていない。その魔法も学舎で教えて貰えるものばかり。ただそれらの魔法を一度に全部発現させるのは僕達にも無理だ。魔石やラクタベルントはその補助に必要だったんだろう。身体に触れ、魔力があれば維持出来るようにも考えている。魔法の杖が無かったらもっと苦労してたかもしれないと言ってたけど、無くても方法は考えていたんだと思う。
「おめでとう。これで、オモヒカネ様の出された宿題は達成出来たね」
「ありがとう! 全部お兄ちゃんのおかげだよ!」
マコは僕のおかげだと言うけど、この魔法を組み立てたのはマコだ。この世界にやって来てから、アドバイスもしていないし、相談も受けていない。欲しがったのは、跨るための箒だけ。
それに、マコが喜んでいるのは魔法の成功だけじゃない。
こんなに素晴らしい景色を見られるなんて、マコじゃなくても嬉しくなる。
僕達は地上から二〇メートルぐらいの高さを滑るように進んでいる。
シンボルタワーにある展望台よりずっと低いけど、遮るものが無いから、遠くの方まで見渡せる。まるで草の色をした海にいるみたいだ。
足下には緑の草原に人や動物の姿をした小さな影、土色の道には荷物を乗せた馬車の姿。頭上を通り過ぎると、僕達を見上げて驚いた顔をしていた。
マコは向きを変え、草原から離れて川の上に移動する。
陽が落ち始め、少し西日が眩しくなっているけど、水面の照り返しが美しい。
あと半刻もすれば黄金の川面の時間だろう。
後ろを振り向くと、街を去って行く船の帆が僕達二人の影を映している。
手を振ると僕達の動きに合わせて影絵も動き、気がついた船員さん達が手を振り返してくれた。
「お兄ちゃん」
マコは杖から両手を離して万歳のまま僕の顔に手を伸ばした。
後ろでマコのお腹を押さえていた僕は慌てて前のめりになる。
二人が杖から手を離してしまえば、落下してしまうかもしれない。
マコの代わりに右手で杖を握り、左手はマコの身体を支えている。落ちないように後ろから抱き締めてようやく落ち着いたけど、マコが何をしたかったのかわからない。
「ごめん、揺れて不安定だった?」
「ううん、違うの。あのね──」
それはマコの独白だった。
マコはこの世界で魔法を習っても、やっぱり空を飛ぶのは難しいと思ったそうだ。オモヒカネ様は出来ると仰ったけど、魔法だけで空を飛ぶ方法が全然思いつかなかった。落ち込みそうだったけど、僕が魔法を使い始めるとそれを真似るだけでも楽しくて元気が出た。自分では思いつかなかったアイデアでも、僕だったらと考える事で魔法の新しい使い方が生まれる。この魔法も、あの遊びや魔石の実験が無かったらきっと思いつかなかったと言っていた。
先日、ラクタベルントを持って帰った時は、木の皮を集めてこっそり空飛ぶ枕を作ろうとしたらしい。結果は失敗したけど、その応用で空気を吹き出すクッションのような使い途を思い付いた。ダンジョンに向かう前に女の子だけで試して貰うと、土の動物に乗ってもお尻が痛くならないので、とても好評だったらしい。
皆から喜ばれ、ベルタにこんな事を思いつくのは僕みたいだと言われて、とても嬉しかったそうだ。
この杖もダンジョンの中でとても役に立ったと言ってくれた。技量の増幅だけでなく、槍のように突く事、魔力を流すと光るので松明の代わりもなる。自立するので落とし穴から脱出する足がかりにもなってくれた。
そして杖にはもう一つ重要な役割があった。皆は一生懸命戦ってくれていたけど、護ってくれるのはノエリアやベルタ、ダフネ達女の子だけ。不安や心細さを感じても、この杖があれば僕が傍に居るようで心強かった。おかげで最後まで弱音を吐かずに最奥地まで辿り着くことが出来たと感謝された。
移動の間、考えてる事はいつも同じだった。早く会って、お礼が言いたい、話がしたい、もっともっと言いたいことが胸いっぱいに溢れた。
そしてあんな事があったけど、やっぱり本気にはなれなかった。
「わたしね……お兄ちゃんのこと、大好きだよ。小さい頃からずっと、ずーっと。わたしのわがままをいっぱい聞いてくれた。逆上がりも手伝ってくれて本当に嬉しかった。でも、お兄ちゃんのこと学校で話したら、兄妹でそんなに仲が良いのはおかしいってからかわれて、あんまりお話が出来なくなったの。本当はもっといっぱいおしゃべりしたかったのに……それからお兄ちゃんもあんまり話してくれなくなって、ここに誘ってくれるまで、避けられてるって思ってた。でも、この世界に来てから昔よりもずっと優しくて、時々意地悪で、でも楽しくて、何よりわたしの事を一番に考えてくれているのが嬉しかった」
言葉が止まると身体が小さく押し戻された。より密着する事で、触れている体温が少しばかり高く感じられる。
一呼吸置いて、マコの口が開く。
「お兄ちゃん、いつもありがとう。わたしは……諒真さんのことが大好きです。ルーシアさんやレイナちゃんに負けないぐらい、好きっ!」
珍しくマコが僕の名前を呼んだ。自己紹介の時にもう呼ばないと言っていたのに、少し意外だった。だからこそそれだけの気持ちを伝えたかったんだろう。後ろからではどんな顔をしているのかまではわからない。目に前に見える耳は真っ赤で、腕は僕の左腕をぎゅっと抱え込んでしまっている。顔を近づけようとすると顔を背けるように頭が動いてポニーテールが僕の顔を叩く。
だけど告白のおかげで、家の中でも素っ気なかったり、話しかけてこない理由が、気持ちが少しだけわかった。
「僕も真琴が大好きだよ。他の誰かと比べる事はないけど、何があっても絶対に嫌いになったり、避ける事はないから安心していいよ」
「……お兄ちゃんはわたしのことが好き?」
「好きだよ?」
マコの身体から少しだけ力が抜けたような気がして、抱えていた腕の力を緩めた。
「……おかしいなぁ。いっぱいアピールしたのに、なんでお兄ちゃんは変わってないんだろ?」
「アピール? 変わってないって、何が変わるの?」
なんでもないと言って、大きな溜息が聞こえた後、しおらしい女の子は消え、いつものマコに戻っていた。
左腕に絡めていた腕を伸ばし、自分で杖を握り直して僕の手をお腹に誘導する。
ようやく元の姿勢に戻ることが出来たけれど、マコの高い体温が少しだけ遠くになった。
眼下に広がる川は夕陽を受けて水面が照り返し、黄金色を増やしている。
その景色に見惚れて、少しの間、二人は黙ったままだった。
やがて涼しい風を肌に感じて、また少し時間が経過した事を僕達に教えてくれた。
「良い景色も見れたし、そろそろ街に行こう」
「うん! みんな待ちぼうけだね」
マコは杖の方向を変えると、街の大きな門に向けて速度を上げた。
僕達が正門に到着する頃には門の外に人が溢れていた。賑やかな街だけど、ここまで騒々しいのは初めて見る。それもこれも、原因は僕達らしい。
「人がいっぱいいるね」
「飛行魔法が珍しいからだと思うけど……」
人々はそれぞれ僕達を指差して、何かを喋っている。だけど、あまりに多い数なので、何を言っているのか殆ど聞き取れない。
「衛兵さん! 諒真と真琴です! 頭の上から失礼します! 領主様へご挨拶に伺いたいのですが、このまま通っても宜しいでしょうか?」
「……通ってください! 領主様……」
高低差もあり、言葉として聞こえたのはそれだけ、残りの言葉は人々の声に掻き消されてしまった。
「神様に話せるようにしてもらったの、人数制限あるの?」
「そう言えば、会長さんから簡易って説明されてたから、翻訳には限界があるのかもしれないね」
門の周辺にいる大人達は、大雑把に数えても百人は超えている。一度に全ての声を聞き分けるのは普通に考えて無理だ。それを神様の力で僕達にだけ分かるようにするなんて、贅沢を言える訳がない。今聞こえている大勢の声が、この世界の本当の言葉なんだろう。まるで群衆の声だけ翻訳されていない映画を観ているようだった。
マコと一緒に手を振りながら正門を越えると、ここでも大勢の人が歓声を上げて僕達を迎え入れてくれる。
「この人達って、ルーシアさんが集めたの?」
マコが驚くのも無理はない。
大通りは中央部分が空けられ、左右に大勢の人が並んで僕達が進んでくるのを待っている。
どうしてその事がわかったのか。それはその真っ直ぐ開けた先にある、噴水広場で二〇人程が集まり、早く来いとばかりに手を振ってくれていたからだ。
「ルーシアじゃないよ。レイナも止めさせたって言ってたし……あぁ、これってエミリオだ」
そこには大人達に混じって、エミリオがエステルちゃんとテレちゃんと並び、ディエゴさんやルーベンさん、ヘルマンさん、フィデルさん、ヒルベルトさん、その他にも見た事のある人達が揃っていた。
マコは高度を下げ、建物の二階の窓と同じぐらいにすると、少しゆっくり大通りを進んで行く。
右や左に手を振ると、その先々で大きな歓声が湧き、届いた音で身体が揺れる。
時々聞き取れる声には、僕の名前やマコの名前がある。吉報の子と言う呼び名の他に、黒髪の魔女と言う言葉も聞こえてくる。
「黒髪の魔女って、マコの事?」
「……そうみたい。なんか街の人からそう呼ばれてるって、ベルタちゃんが教えてくれた」
なんでも、僕を探し回ってベスやリズに乗って駆け回っていたら、そう呼ばれるようになっていたらしい。
マコとしては魔女と言われるのはあまり嬉しく無いのかもしれない。さっきまでとは違って、少しぶっきらぼうに感じられた。
中央に向かって進み、表情が判別出来るぐらいまで近付くと、マコが真っ先に声を上げた。
「エミリオくん! 杖がいっぱい役に立ったよ!」
「エミリオ、戻って来たよ。エステルちゃん、テレちゃんも迎えてくれてありがとう」
「リョウさん、マコさん、無事に戻って来られて本当に良かったです。しかし、予想していた以上です。まさか本当に空を飛んで来るなんて思っていませんでした」
「お兄さん、おかえりなさい! ぶじでよかったです!」
マコが高度を下げようとすると、エミリオがそれを止めた。今は手が届かないから皆は従っているけど、地面に降りたら揉みくちゃにされてしまうかもしれない。安全の為にも、そのまま進んで下さいと言ってくれた。
エステルちゃんとテレちゃんはピョンピョンと跳ねて手を伸ばすけど、流石に空中までは届かない。
高い位置から話す事を詫び、父さんとの約束を果たす。
「街の皆さんにも心配かけてしまって、すみませんでした。姿を消していた事情はここでは言えませんが、領主様には説明させていただきました。僕もマコも元気で、怪我もありません」
「リョウマ様、マコト様。ご無事で何よりでございます。我々も心配はしておりましたが、子供達の方が大変で……後で広場に顔を見せて下されば幸いです。それにしても、お二人がもっと長くこの街に居られればと願わずにはおれません。ですが、言っても詮無きこと。我々に豊かさを齎して下さった事、アクアルムの街を代表して、感謝いたします」
街の代表はディエゴさんが務めているようで、噴水広場に集まった大人達は一斉に頭を下げてくれた。
それは僕達には見慣れた、だけどこの街では使われていない綺麗なお辞儀だった。
「皆さん、僕とマコを受け入れて下さって、ありがとうございました。色んなお店や人と出会いがあって、とても楽しく、刺激的に過ごせた七日間でした。僕達もここを離れるのは寂しいですが、皆さんと出会えたこと、きっと忘れません」
「わたし達が住んでいる所でも、なかなか食べられないような食事やデザート、とっても美味しかったです。色んなお店があって、お買い物も楽しかったです。本当にありがとうございました」
僕の言葉では拍手だけだったけど、マコの言葉が伝わると、行列にいた人達が肩を叩きながら喜び合っている。顔は覚えていないけど、どこかのお店の店員さん達なんだろう、だったらきっとお世話になっている。もう一度その人達に頭を下げた。
「リョウさん、子供達が待ってますので、広場に行ってあげて下さい。学舎のみんなは領主様の館に集まっています。そちらも首を長くして待ってますよ」
「そうするよ。お願いしたいことがあるから、エミリオも領主様の館で待っててくれる?」
エミリオはわかりましたと言って、すぐに領主様の館に向かって駆け出して行った。
マコは手を振りながら上昇を開始すると、それを見たエステルちゃんとテレちゃんは慌てて商業区へと続く路地に駆けて行く。
「アクアルムの皆さん、お元気で! さようなら」
「お元気で! さようなら!」
大人達に見送られながら別れの言葉を告げると、それを切っ掛けに、辺りの人々から様々な声が飛び交った。
「やっぱり、言葉は自分で覚えないと駄目だね」
「うん……」
大勢の人から別れの言葉を貰っているんだろうけど、わかる言葉になって伝わってこない。
気持ち良くお別れをしたいのに、どんな言葉を返したら良いのかもわからない。
ミレイア先生に、この世界でありふれたお別れの言葉を習っておけば良かった。
小さな事だけど、その事が少し残念だった。
言い淀んだマコも同じ気持ちだったのかもしれない。
だから、僕達に出来る精一杯のお別れは、ありがとうを言う事、大きく手を振って返すことだった。
「お兄ちゃん、何か聞こえない?」
マコが耳に片手を添えて遠くの音を聞こうとしてる。
同じように耳に手を添えて音を拾おうとすると、離れた所から弦楽器で鳴らしたような音と、小さく歌う声が聞こえてきた。
その声にはリズムや抑揚があるようで、喋っているような声じゃない。
「演奏と……歌声?」
「きっとそうだよ! わたし、この世界の音楽聞いてみたい!」
この世界の音楽には今まで触れる機会がなかった。これは送り出しの歌なのかもしれないけど、異世界の音楽だ。この機会を逃せば二度と聞くことが出来ない。
「行ってみよう!」
宿屋の並びの先にある広場には見たことのない衣服を着た三人の大人が、それぞれ違う楽器を演奏していた。
小さな竪琴のような弦楽器、フルートのような横笛の管楽器、お茶碗ぐらいの太鼓をいくつも並べた打楽器。それぞれが音を奏で、そのリズムに合わせて三〇人ぐらいの子供達が代わる代わる歌を歌っている。
今流れている曲は、子供達の高い声に合わせたもののようで、唱和の響きがとても可愛らしい。曲の途中からでも楽しい出来事がドキドキ、ワクワクさせてくれて、次に何があるのか心待ちにしている子供達の心情を歌っている物だとわかる。
一つの場面が終わったんだろう、太鼓を主旋律にしたコミカルなリズムに変わる。おっちょこちょいの男の子が泉で女神に出会う歌らしく、横笛と太鼓がその出会いを面白く演出してる。竪琴は女神の気持ちなんだろう。掻き乱されたり、静かになったり、怒ったり、優しくなったりでドキドキしっぱなしだった。
そして、また場面が変わる。今度は竪琴が主旋律で、どうやら陽が陰り夜になるシーンらしい。横笛の揺れる音が女の子の不安な──
「お兄ちゃん、歌も聞いてる?」
「……子供達の声なら聞き取れる?」
説明されなくても理解できたのは、無意識に子供達の歌声に君を傾けていたかららしい。さっきと違って、皆が同じ歌を歌っているから理解できるのか、それともこのぐらいの人数なら聞き分けることが出来るのか……
それにしてもこの曲の場面は、どこかで……
「もしかして、この女の子って、レイナ?」
「たぶん……それで、さっきのはルーシアさんだと思う」
「つまり、それって──」
「この曲? 音楽? お兄ちゃんの事を歌ってるんだよ」
今度は歌声に集中すると、記憶のある場面が思い起こされる。
「あ、これってマコだね」
「きっと、レイナちゃんが風呂敷でバッグを作った時の事を歌にしたんだね」
マコ達の冒険譚も、やがては歌の一つになって残っていくんだろう。
……しかし、これは想像以上に照れくさい。
映像も無いし、歌の内容も自分達の行動と違うことが多い。だけど、耳当たりの良い歌が自然と耳に残り、受け取った人が勝手にイメージが作ってしまう。その時の記憶がある僕には、まざまざとその景色が、気持ちが思い出される。
「マコ、挨拶しに行こう」
「わたしはもうちょっと聴いていても良いよ」
そんな意地悪な事を言って、僕を困らせる。それでも時間がないのは理解してくれているので、杖を移動させて広場に影を落としてくれた。
……あ、お兄さんだ!
丁度歌が途切れた所だったんだろう。一人の男の子が僕達を見つけて声を上げた。
男の子に続いて次々に声が上がり、見つけた、見つけたと、もう歌を歌うどころではなくなってしまったらしい。
大人達も空に浮かぶ僕達を見つけ、唖然として演奏を止めてしまった。
「素敵な歌をありがとう! びっくりしたけど、嬉しかったよ!」
すぐ近くから小さな声で嘘つきと言ってるけど、嘘は言っていない。照れくさかっただけだ。
「一緒に遊べたのは、短い間だけだったけど、とても楽しかったよ。テオバルドさんや大人の話を良く聞いて、立派な人になって下さい。後、ロルダンとビトをよろしくね」
子供達からは、まだまだ続きがある、下に降りて来てとお願いする声が聞こえるけど、一緒に過ごすには時間が足りない。エミリオの言うように、大勢の中に降りるのは色んな意味で駄目そうだ。
「ごめんね。僕達はもう帰らないといけないんだ。だけど──」
──氷の牙
「氷の牙を出して何するの?」
浮かせたままの氷の牙を見て、首を傾げてる。
氷の牙なんて普通は街中で使う魔法じゃない。
その証拠に大人達は腰を浮かしてしまっている。
「これでかき氷を作ろうか」
「それいい! 手伝うよ!」
──黒風
──冷却
マコの黒風が氷の牙を削り、僕の魔法が冷却する。二人の競作した魔法によって、氷の塊は瞬く間に姿を消した。
「ここで遊んだ事はずっと忘れないよ!」
「みんな、お兄ちゃんと遊んでくれてありがとう!」
マコが黒風を止めると、風の中に蓄えられた氷の粒がふわりと落下を始める。
興味深そうに見ている子も、魔法を怖がっている子も、白い雪のような粒が手や頬に触れた途端、悲鳴のような高い声を上げ、辺りは笑い声でいっぱいになった。
子供達は冷たい消える、冷たいの消えると小さな氷に手を伸ばし、右に左に大騒ぎだ。
「皆、仲良く、元気でね!」
「さようなら!」
手を振りながらゆっくり広場を離れて行こうとすると、気がついた子から手を振って見送ってくれる。笑顔の子、泣き出してしまう子、歌の続きを歌い出す子達と色んな姿が見える。中には僕達よりも先に広場から走り去ってしまう子もいた。
皆とは遊びばっかりで、一人一人の名前は聞けなかったけど、どんな事をして遊んだのかは顔を見れば思い出せる。リズに乗せた女の子、テクラと一緒に街の模型を造っていた男の子、エミリオに振り回されて転びそうになった女の子、膝に乗せて一緒に滑り台に乗った男の子、ルーシアに悪戯していた男の子、その子を追いかけていた女の子、数え上げればきりがないほどだ。
学舎からロルダンやビトも一緒に参加して、アーベルとバルドゥルの競争が盛り上がっていた。エミリオの追いかけっこは最後まで誰にも捕まえる事が出来なかった。テクラの器用さは教えられれば習熟が速いのも面白かった。だからあんなに小さくても魔法を使いこなせるんだろう。そして、ルーシアとレイナは──
……まじょのおねえちゃん、ありがとう!
僕への言葉以外にも、マコの事を知っている子もいて、そんな言葉が耳に届く。マコも元気でねと返すけど、少し不満そうに小さく口に出した。
「わたし、魔女じゃなくて魔法少女がいい……」
子供達の別れのシーンが納得出来ていないので、修正するかもしれません。




