七日目.14 再会
「本当にいいの? この人数を連れて行ったら、戻って来るのは四半刻……三〇分はかかるわよ?」
「構いません。どの道そのぐらいは時間があった方がこちらも都合が良いです」
「真琴ちゃんもそれでいいの?」
「はい。お兄ちゃんと一緒に決めたんです」
ここに来て時間を無駄にするような行動を不思議に思ったんだろう。だけど、僕の魔力で産み出してしまったケリスや木人達、勿論ソーロールやフラトリス、セプテム、そしてニーレ達ともお別れをしたい。
ノエリアだけはソーロールと最後まで一緒に居たいと言ってくれたけど、ここからは僕達だけの時間にしたいとお願いをした。
「早く街に戻ってルーシア様とレイナを安心させてあげてよ」
「わかってる。ちゃんと会いに行くよ」
「リョウ、間に合わなかったら、街の全員が恨むからな」
「街の全員は勘弁して欲しいな。大丈夫、絶対に間に合うよ」
「……リョウ、みんなで待ってる」
「うん、先に戻って待っててよ」
「リョウさん、聞きたい事いっぱいあったんです……」
「ごめん、もうゆっくり話ができる時間はなくて……」
「レナト、手間をかけさせるな。僕達は先に戻って、先生達を呼んでくるんだ」
「ありがとう。でも、学舎に行く時間はないから、領主様の館に向かうと思う」
「わかった、みんなにも伝えとく」
「お兄様! 絶対絶対戻って来てくださいっ! わたしも──」
「あんたが引き留めてたんじゃ、意味ないだろ。さっさと行くよ」
ノエリアはダフネに引き摺られてベルタに届けられた。頬を可愛く膨らませていたけど、こればかりは許して欲しい。
マコも皆と話が終わったんだろう。意外な事に、ダフネとの話が一番長かった。
「ダフネ、今までマコや皆を護ってくれてありがとう」
「はぁ? 今更よしてくれよ。あたしはベルタの約束ついでに面倒見てやっただけさ。おまけにあんたらの神使様からの祝福、あんたからは報酬まで貰ったんだ。貰えるものは十分貰ったよ」
「それでも、マコが頼ったのは確かだと思います。皆も、ここまで来てくれて、本当にありがとうございました」
「ありがとうございました!」
僕が頭を下げるのに倣って、マコもしっかりと頭を下げる。ルースアやノエリアに遠慮された深いお辞儀だけど、今の僕達に出来る精一杯の誠意だ。
初めて見た三人は戸惑っていたけど、学舎の仲間達は隣と肩を組んだり、抱き合っている。その顔は誰もが皆、誇らしそうだった。
「それじゃ、行ってくるわね。ここでの用事も早く済ませてしまいなさい」
地面に描かれた大きな方円。その中央に菜穂子さんはいた。
急に飛び出したりしないように、内側にはベスやリズ、アーベル、バルドゥルも居て、その周りをロルダンやカジョ達が並んでいる。一度に全員が移動できるように方円の上に集められているけど、二人ぐらいまでなら手を握ったり、どこかに触れていれば一緒に移動できるそうだ。
レナトは必死に方円を描き写そうとしているけど、転移魔法そのものはこういう事をしなくて良いと会長さんから聞いている。おそらく、あれは魔法の効果を増幅させるもの、若しくは範囲を広げるものなんだろう。
セベロもブツブツと何かを言いながら菜穂子さんの行動に注目してる。
こんな時なのに、二人はいつもと変わらず知識を求めてる。僕達が居なくなっても、この日常は続いて行くんだろう。その事が少しだけ寂しいけど、そう思えるほど、この世界は居心地が良かったんだと思う。
──転移
「あっ、マルケスさんが………………ダンジョンの外にいるんだけど、良いのかな?」
「菜穂子さんがピースしてたから、聞こえてたんじゃないかな」
マルケスはダフネ達のお目付役で来たけれど、ダンジョンには入って来なかった。それは菜穂子さんが中に入れるのは子供達だけという制約をしたからだけど、年齢的には僕達とそんなに変わらない。一緒に来れば良かったのに、衛兵見習いと言う大人の仲間入りをしているから、真面目な性格の彼は来られなかったらしい。
「時間が無いから、行こうか?」
「うん!」
僕が手を差し出すと、マコの小さな手がぎゅっと掴んでくれる。少しの間離れて、お姉さんになったと思ったけど、僕の前ではいつもの真琴だ。
軽く握り返して、寝ているケリスや木人達がクルクルと踊ってる場所まで駆け出した。
「ソーロール、フラトリス、セプテム、ニーレ、ケリスと木人達。今までありがとう。短い間だったけど、とても楽しかった」
「木人のみなさん。仲間を倒してしまってごめんなさい。でも、みんなとっても強くて勇敢でした」
声が届いた木人から踊るのをやめて、話を聞き入ってくれる。
マコの言葉は僕が通訳して紹介すると、木人の中で一番背の高いフラトリスがマコを抱え上げ、ケリスの頭に乗せた。
ケリスはまだ寝惚けていたのか、大きな口で欠伸をする。その頭の上にいるマコは、揺れる頭の上から振り落とされないようにしがみつきながらも、終始笑顔だった。
──風で囲え
──水球
風の囲いを水球で蓋をして準備万端。
マコと一緒にケリスの背中に乗ると、ソーロールとセプテムも付いて来た。ニーレは定位置の頭の上。フラトリスはお留守番。
「ケリス、準備はいいよ。潜って!」
ザブンと大きな音を立てて地底湖に体を沈めると、僕達がいる風の囲いもあっという間に水で覆われた。少しの間気泡だらけだった囲いの外も、深さを増していくに従って透明な水だけになっていく。
地底湖の中は少し賑やかさが減ったように思うけど、それでも大小の魚が群れを作って泳いでいるのが目に入る。
静かな水の中と違って、マコやソーロールは水の中に入った時から大騒ぎだ。
「凄い! 凄い! わたし達、浦島太郎だね!」
「あっ! ケリスの背中をお魚がついばんでる! あれって、小判鮫?」
「うーん、緑のお魚とか黄色のお魚がいる……ここって、海水なの?」
「ソーロールちゃん、走り回ったら危ないよ!」
「あ、セプテムちゃん、別に捕まえなくても……」
「お兄ちゃん、向こうにサーペンス・マーレがいる! あれって、わたし達が倒しちゃったサーペンス・マーレの子供かな?」
近寄って見ると、そのサーペンス・マーレは形こそドラコに似ていたけど、大きさは半分も無い。小さなサーペンス・マーレはケリスを怖がりもせずに近付いてくると、風の囲いにぐるりと巻き付いた。まさかそんな行動を取るとは思わずびっくりしたけど、すぐに離れて行って、魚の群れに飛び込んでは逃げられていた。珍しいものに触りたくなるのは人間の子供だけじゃ無いのかもしれない。
そんな小さなサーペンス・マーレに向かって、マコは手を合わせてごめんなさいと言っていた。
一〇分程の水中水族館も終わり、湖上に戻って来た。時間に余裕があれば神殿まで行けたかもしれないけど、マコの顔を見ると十分楽しんで貰えたみたいだ。
「ケリス! ありがとうございました! とっても楽しかったです!」
「お疲れ様、ケリス。マコも喜んでくれたし、僕も楽しかったよ」
どうしようか悩んだけど、ケリスには沢山の魔法の水をプレゼントした。
案の定、また眠ってしまったけど、これからはゆっくり休んで欲しい。
木人達にもお礼の気持ちを込めて、水のシャワーをかける。
こちらも変わらず、クルクルと踊ってくれる。さっきまでは我慢してたのか、今度はソーロールとフラトリスも踊り始めて、辺りが大騒ぎだ。セプテムはフラトリスに乗り換えてたのに、踊り始めてからは蜘蛛の糸を器用に使って、いろんな木人の頭に飛び移ってる。ニーレにも参加しておいでと言うと、頭の上からゆっくりと降りて、蜘蛛の糸を溶かしながらセプテムを追いかけていた。
「お兄ちゃん……」
木人達の踊りを一緒に見ていたマコが、僕の服の端を掴んでる。
あまり見る事がない不安そうな顔に、グシャグシャと頭を強く撫でてしまう。
期待した行動と違ったんだろう、ムッとした顔を僕に見せる。
それでも、僕の服を握って離そうとしない。
今手を離したらどうしたら良いかわからなくなる。そんな不安を持っているのかもしれない。
もう一度マコの頭を撫でる。
今度は髪を整えるようにゆっくり優しく──
「紹介するよ。こちらが僕達のお婆ちゃん、諒子さんだ」




