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質量保存の法則

 ドサッ!


 女将さん――いや、師匠と呼ぶべきか? まあいい。彼女は宿の裏から大量の書物を持ってきてカウンターに置いた。

 すごく年季が入っている。古文書と呼んでも差し支えないレベルだ。


「まずはここに書いてあることを紐解きな。話はそれからだ」


 そんなことを言って裏へ下がってしまった女将さん。心なしか気分が良さそうに見えるがたまったもんじゃない。


「絶対勘違いされてる……」


 呟いたとして何も変わらないが。


 まあ、魔法を使えるようになるならこの程度の努力は惜しまないつもりだ。

 早速部屋に持ち帰り、解読していく。


 幸いというか、古代文字みたいな読めない文字で書いてあるというわけではなく、ちゃんとこの世界の言語で書かれている。

 この世界の言語というのはもちろん日本語とは違う訳だが、違和感なく読めたのではじめは気がつかなかった。なんらかの干渉があったのだろうか。きっと英語を極めればこんな感じになるのだろう。

 どうして今まで見ず知らず言語をいきなり理解できるか俺にもわからないが、きっとこれも科学ではわからないフシギ能力の一種なんだろう。何でチートで爪が伸びるのかも謎だし。ラボアジエさん涙目である。

 まあ現代語で書いてあるものの、書いてあることがそもそも難解であり、もはや言語以前の問題になってしまっているのだが。

 だいたいなんだよ、魔力飽和量?生成質量の理論上限界? さも『知ってますよね?』と言わんばかりに前書きに解説もなく載っているが、一切知らないし、知る由もないのだ。

 仕方がなく、何となくこんな感じだろうなと推理しながら読み進めていく。

 残念ながら俺は天才じゃないのでノートにまとめて覚えていくタイプだ。近所の雑貨屋で安物の紙とペンを購入し、まとめていく。許可を取り、重要な単語には色ペンで線を引く。

 日が沈むと真っ暗になってしまうので、気持ち急ぎめだ。

 魔法というものの概要が何となくわかってきたところで日没を食らったので仕方なく(とこ)に着くとし、ノートに書いた内容を反芻するとする。


・魔法とは:

 魔力を物体やエネルギーに変換する技術のこと。

 一般的には兵器的なものを魔法、そうでないものを魔術と呼ぶが、よく混同される(本業の学者でも間違える)

 体内の魔力を変化させる方法と、魔石の魔力を使う方法がある。


・魔力とは:

 世界中に濃淡こそあれど普遍的に存在する魔法等の根源。

 物体でもエネルギーでもなく質量も持たないが、変化させればそれらの性質を持たせることができる。

 生命や魔石には特に集まりやすい性質を持つ。


・魔法属性とは:

 基本4属性とそれぞれの発展属性、そこに光、闇の特殊属性を加えた10種類のこと。

 基本4属性は様々な宗教で有名な地水火風であり、地→金、水→凍、火→雷、風→空が発展属性である。

 発展属性は基本属性を極めて得られる他、天賦の才ではじめから習得している場合もあるらしい。

 また、特殊属性は(ホンモノの)勇者や魔王といったトクベツな奴等が持っているという。



 ――まあ、ざっとこんなものだ。

 うまく要約できたとは言い難いが、なんとなくどんなものかわかってくれただろうか。


 そういえば、言われてみれば王女も『光属性の魔術適正はございますか?』と聞いてきていたような気がする。あれは勇者しか持ち得ない特殊属性を聞き、本当に俺が勇者ではないことを確かめたのだろう。周到なことだ。


 まあ、混乱していて今の今まで忘れていたが。

 そして思い出したくもないことを思い出してしまい不快な気分になる。


 まあいいや、寝て忘れよう。

 目を閉じて思考を停止させると、すんなりと闇へと落ちていった。




 そして再び開けると外では小鳥が鳴いていた。

 そう、朝である。


 この世界に来てから寝入るのが異様に早くなった。夜はただ暗いだけなのでできることがないからである。

 まあ、多分いいことなんだろう。本音を言えばもっと起きていたいが。


 昨日買って壁に立てかけておいた剣を腰に差して、近所の広場へと向かう。

 流石にギルドに向かうにはまだ早い時間だ。素振りでもしようと考えたのである。


 とは言っても何か特別なことをしたという訳でもないんだけどね。

 強いて言うなら、もう剣道をやっていたのは何年も前だったので、もうド下手になってしまっていたということか。


 ……現役時代も良くて二回戦敗退だったんだけどね。

 剣道の段と実力は必ずしも比例しないってことだ。


 軽く汗を流し、ここから再び昨日と同じサイクルに戻る。へんなの(チート)の仕業で成長が遅いようなのでその分を補うためにも、剣術のようにとれうる手札は増やしたい。そのうち魔物退治なんかもするだろうから、それまでにはある程度の魔法や剣術を使えるようになっておきたいものだ。


 ……魔物退治するくらいまで俺は冒険者を続けるつもりなのか。


 まんざらでもなく思っていることに気がつきハリーさんの手のひらの上であったか、と認識したが、自然と嫌な感情は起こらなかった。



  ◆



 そうこうしていると一カ月経った。


 なんというか、充実した日々に感じる。素晴らしきかな。


 魔法の勉強はお世辞にも進んでいるとは言いにくいが、それなりに理解はできてきた。

 女将さんに聞くのは負けだと思っているので、ただの一度も彼女と魔法について話したことはない。それでも『魔力』なるものの概念は人並程度みにはわかった。


 人生の半分以上を学業に捧げたんだ。これくらいできて当然だろう。


 今はその属性の変性の過程について頑張っているところだ。もう少しでとっかかりが掴めそう。

 素振りの方も、自画自賛になってしまうが見れなくはないというレベルにまではなった筈だ。最近では日本剣道形の方も思い出しながらやっている。


 冒険者稼業? ええ、まだ薬草採集していますが何か?


 まあ順風満帆とは言えないが、悪くはない漕ぎ出しだ。なんだか学生時代に戻ったよう。

 うん、もう3年も前の話だもんね。


 いい傾向だ、と思いながら俺は小慣れた手つきで薬草の茎を剃刀で断った。

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