第2話 母
目が覚め、布団から時計を見る。
朝5時を指していた。
「今日も時間ぴったりだな」
俺は目覚まし時計がなくても朝5時に勝手に目が覚めるという変な癖がついた。
着替えをして、ジョギングへと向かう。
いつもジョギングは30分ぐらいして家に帰って来る。
もちろん家には俺以外誰もいない。母さんは仕事に行っているのだろう。
「今日の朝飯は何にするかな」
昨日の肉じゃがが残っているからそれと、ご飯、味噌汁、サラダ、納豆、牛乳だ。
朝ごはんを済ませた後俺は学校の用意をする。
用意が終わってからは小説を読む。
1時間ほど読んでから学校へと向かう。
学校までは徒歩で10分ぐらいでめちゃくちゃ近い。
教室に入ると数人がすでに居て、色々と話をしている。教室の騒がしさにため息が出る。
俺は自分の席に座ると小説を開いて読み始める。
数分後誰かが俺に話しかけてきた。
「何読んでるの?」
俺は少し固まった……そう、昨日の自己紹介で少しだけ印象に残った髙橋日和が話しかけてきたのだ。
「……何読んでても俺の勝手だろ?」
俺はついいつもの癖で強く言ってしまった。
「ごめんね読んでる途中に話しかけちゃって、私も読書が好きだから教えて欲しいなぁって思って」
「……今読んでるのはファンタジー小説の[灰色の旅人]ってやつだよ」
「[灰色の旅人]かぁ。なんだか影山くんをイメージしちゃうな。今度私も読んでみようかな〜ありがとね教えてくれて」
髙橋はそう言って去っていく。
本当に俺に何の本を読んでいるかを尋ねにきただけなのか?何を考えているのかわからない……
そんなことを考えていたら、
「おっはよ〜蓮!」
最悪なやつがやってきた。
「チッ、おはよう」
「うむ、ちゃんと挨拶はしたな!わっはっは!」
何様だよと思うが心のうちに留めておく。そして、チャイムが鳴って先生がやって来る。
「よーしお前たち全員いるな!?休みがないことはいいことだ!だがもし体調が悪ければ無理をするなよ!」
どうせ体調が悪くなったら、そのくらいなら大丈夫だろ?とか言ってくるに違いない。
「さぁ〜て今日の予定は学校見学か!あとは学年集会とかいろいろとあるな!」
学校見学に時間を割くなんてもったいないと俺は思う。そして、最初の学年集会とかだらだらと先生が学校での注意点を確認するためのものだろう。
そして、注意点なんて一般常識みたいなもんだろう。破るやつなんているわけないだろ……いや、いるか。
学校見学のために廊下へと出る。列にはならず、バラバラと校舎を見て回る。
すでにコミュニティはある程度完成しつつある。もちろん俺は1人。はぁ〜早く終わんねぇかな〜。
この瀬ヶ丘高校は意外に校舎は綺麗で設備も整っていた。入試の時なんて全然見てなかったからなぁ。ちなみに入試だからといって勉強の時間を増やしたわけではない。いつも通り勉強して、受かった。ただそれだけだ。
「蓮〜!こっちおいでよ!」
夏帆が俺のことを呼ぶが、あまり行きたくない。でも行かなければどうせ後からぐちぐちと文句を言われるのは分かっているから、しょうがなく夏帆に近づく。
「どうしたんだよ夏帆」
「これ見てみて〜!先輩たちかな?修学旅行の写真だと思うんだ〜!すごく海綺麗だね!今年の夏、海に行こうよ!」
先輩たち?そんなものどうでもよすぎる。俺は関わることはないだろう。修学旅行?そんなものもどうでもいい。
「海……?お前泳げないのに海に行くのか?流されて溺れて、この世からさようならになるぞ?」
「うっさいな!泳げないから蓮についてきてもらうんだよ!中学校のころに行ったでしょ!?」
中学で嫌なことがある前はいろんなところに行って遊んでいたこともある……だがそれも今となってはどうでもいい。
「俺が海に行くメリットは?」
「私の水着が見れる」
「1人で行ってらっしゃい」
誰もお前の水着に興味なんてないだろ。
「前に海に行った時に私が昼食買ってきたよね?」
「グッ……」
「その時に私はどうなってた?」
「昔のことなんて覚えてるわけ……あっ、ナンパされてたな」
「うん、そうだよね。私1人で海に行ったらどうなるかも分かるよね?」
「……はぁ〜、分かったよ。付いてってやるから」
普通に心配になってきた。何を心配になるかって?こいつではないから安心してほしい。心配になるのは海の家だ。なぜかって?それは、海に一緒に行った時、夏帆が海の家に昼食を買いに行ったら、海の家の前にナンパの行列ができていたからだ。それも長蛇の列。
海の家の列よりも長く……長く並んでいた。あの時は大変だった。本当に大変だった……
「やったね!用はそれだけ!って言いたいところだけど、今日とかさ、この学校で誰かと話した?友達作らないとダメって言ったでしょ!」
「友達は作らない。ただ、1人と話したよ」
「えっ!?誰かと話したの!?あの蓮が!?自分で聞いときながら驚きだわ!誰と!?ねぇ誰と!?」
「……誰でもいいだろ?話したって事実があるんだから」
「まぁいいけどさぁ〜ちゃんと友達になったら私に教えてね!?絶対だよ!?」
「だーかーらー、友達は作らない」
「蓮って本当に頑固だよね〜もう高校生なんだからさ〜」
「……」
「中学のこといつまで引きずってるの?」
「昨日も言ったが、お前に俺の気持ちの何が分かるんだよ!あの時のこと、俺は今でも忘れられねぇんだよ」
気づいたら、夏帆を睨んでいた。
「……ごめん」
俺は夏帆から離れて行った。
流石に言いすぎたかもしれないが、俺だって言われたくないことはある。
学校見学が終わると体育館に学年全体が集まった。
ここから長い長い学年集会が始まる。まぁ寝るしかないよな。
先生の話が始まり、俺は目を閉じた。
何分経っただろう、俺は目を開けた。最初に喋っていた先生とは違う先生が話を続けている。
ちなみに寝ていた時間は40分ぐらいだ。人が多すぎて寝ていてもバレなかったのは良かった。
その後も他の先生が話をして、学年集会は終わる。
いや〜長かった。学年集会の話をちゃんと聞いてる生徒なんて少ないだろうな。
教室に戻ってくると先生が
「来週から体験入部期間になるからな!気になる部活には1回行った方がいいぞ!」
部活なんてものには入るわけない。ただ時間を消費するだけ無駄……それなら家で勉強をした方が100倍マシだ。まぁそれも人それぞれだからな、一概に無駄とは言えないのかもしれないが。
「よし、今日はここまでだな!じゃあな〜!」
先生はそう言って教室から出て行く。俺も教室を出る。さっさと帰って昼ごはんの用意をしなければいけない。
「待ってよ蓮〜!」
夏帆が走って追いかけてくる。
「お前新しい友達と帰らないでいいのかよ」
「いいの!蓮と帰りたいんだから」
「はぁ〜そうですか」
俺は小説を開き読み始める。
帰り道、夏帆から話しかけてくることはなかった。
珍しいな〜と思いつつ、1人で小説に集中できてよかった。
「じゃあな」
「うん!」
お互い家に入る。
俺は昼ごはんの用意をする。今日はラーメンを食べる。麺とスープは買ってあるやつを使い、野菜だけ炒めて乗せる。
「いただきます」
我ながら上手く野菜を炒められていると思った。
炒めた野菜の香ばしさがスープに合っていて美味かった。
「ごちそうさま」
俺は昼ごはんの片付けをしてからは自分の部屋で勉強をしたり、本を読んだりして過ごした。
夜ご飯を作ろうと思った時、スマホに連絡が来ていた。それは母さんからだった。
「夜ご飯私も食べるだって?めちゃくちゃ久しぶりだな」
一緒に夜ご飯を食べるのなんていつぶりだろう。中学の頃は基本俺1人で食べていた。小学校の頃ぶりかもしれない。
夜ご飯はちょっと豪華にしようと思った。
俺は別に母さんが嫌いというわけではない、むしろ感謝している。頑張って朝早くから、夜遅くまで働いているんだ。俺はそれを知っている。
俺は気合を入れて夜ご飯の準備をした。
冷蔵庫にあった牛肉をステーキにする。その他にもコンソメスープを用意したり、サラダを用意したりして母さんの帰りを待つ。
「ただいま〜蓮、久しぶりだね」
「おかえり母さん、夜ご飯用意できてるよ」
「ありがとう」
久しぶりに一緒に夜ご飯を食べ始める。
「いただきます」
誰かと一緒に食べるご飯は久しぶりでなぜかいつもよりも美味しく感じた。
「これ美味しいね蓮、料理上手くなったね」
「まぁな、ずっと作ってたから」
「ごめんね、無理させてない?」
「大丈夫だよ」
「そう、それなら良かった。今度仕事を1ヶ月くらい休ませてもらうの。有給をまとめて取れそうでね。その時は一緒に出かけたりしましょ」
「そうなんだ……その時は一緒にどっか行こうね」
夜ご飯を食べ終えて、今の高校での話になった。
「高校はどう?やっていけそう?」
「……面白くはないかな。まぁでも一応通い続けるよ。でも友達とかは今は作る気はないかな。」
「そう……確か隣の藤本さんも同じ学校だったわよね?」
「うん、そうだよ」
「何かあったら人を頼ってもいいのよ?蓮は人を頼らないから、自分で全部やっちゃうから。誰かを頼ることも覚えた方がいいわ」
「人は信じられないよ。信じられるのは自分だけ。それは藤本だってそうだ。俺は中学の最後の方から人を信じるのを諦めた。だから人は頼らない。」
そうだ……人は信じるだけ無駄。
「蓮、私は何があったか知らないわ。ダメな母親よね。でもこれだけは言わせてほしい。人を信じることを諦めないでほしいの。それは蓮にとって辛いことを思い出すことだったり、嫌なことだったりするかもしれない。だけど辛いことを乗り越えてもう一度だけ、人を信じてみて」
「……」
俺はなんで返事をすればいいか分からなかった。
俺は自分の部屋に戻った。
戻ってからは本を読んで、風呂に入ってすぐに寝ようとした。
だが、母さんの言葉が頭から離れなかった。
「……人を信じろ、か」
そんなの、今更無理に決まってる。




